追っていた背は小さくなる




それなのに、だ

摂政の情けない姿に胸が痛くなる。


摂政の不安定な双眸が、左右に揺らぐ、

俯き、唇を強く結んで、震えている。


その姿に落胆した、

王がそう気付くのには時間がかかった。



隣で、今さっきまで、

見ていたはずの

広くて、高くて大きい背中がない。


王は、追いかけていたはずの背中をけして、

情けない背中だとは思いたくなかったのだと、

やっと気づいた。


「エリク、」

情けなく震える背中を見て、

思わず、口から出た言葉は

久々に呼んだ摂政の名。


その声色が、悲しくて、寂しかったことに

王自身も、摂政も、驚く。


小さな摂政の身体が動き、

一瞬だけ瞳に映るのは

懐かしそうで、悔しそうな表情。



それは、誰にも気付かれない彼の悲鳴。

しかし、目の前にあるのは死。


そんなものを見ている余裕などない。




乾いた笑いが込み上げてくる。






摂政の感情は、

落ちる様に黒色へ傾き、転がっていく。


外交官は眉を顰め、

困った様に苦い笑みを浮かべる。



黒の手袋は摂政の手から離れ、

靴音を一切立てずに、

玉座を見上げる位置へと戻る。



礼儀を、と黒い手袋を外し軍帽を取る。

そして――跪く。



狂いを許さず、整然と纏う軍服。

廉直で、誠実な青年が膝をつき、請う。




倒錯しそうな光景だ。














清廉で、無感情に見えた双眸は、


摂政でなく、王を捕らえ、





一瞬、艶が翻る。





それが錯覚かの様に

しかし、凛然と王を見上げる。




王は瞠目し、息を呑む。






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