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「七瀬さんと出会って、もう四年になりますか」

「あー、そう、そうですね。私が二十三の時に初めて来たから」

「あの時は正直、こっちがドキドキしていましたよ」

「いや~、今思うと恥ずかしいですね」

 始めて彼女が来店した時、挙動不審過ぎて驚いたのを強く覚えている。後にも先にも、あんな風にして店に入って来たのは七瀬さんだけだ。

 扉を開けてカウンターに座るまで、ぎゅっと鞄の掴んで固い表情で。一度も目を見てもらえなくて、席に座ってからもオーダーまで時間が掛かって、最後には「どうしたらいいですか」と泣きそうになりながら聞いてきた。

「バーとか、初めてで、どうしたらいいのか、分かりません・・・」

 何がおすすめですか、とはよく訊かれるがこれは初めてだった。でも、素直で好感が持てた。率直に可愛い人だなと思った。

「あの頃はバーで一人で飲むのがカッコイイって思ってて、あといつもの、とか注文できるようになれたらいいなって思ってて」

「うちの店でなってもらえてよかったですよ」

「ふふ、あとそれと」

 彼女は一度指輪に触れてから言葉を続ける。

「あの時は男の人が怖くって、友達に克服するためにも行きなさいって言われて、頑張って来たんですよね」

「そうでしたね」

 彼女が常連になった理由。半ば強引ではあるが男性恐怖症を治すためでもあった。もちろん最初は酷いもので、来店しても両隣を男性が座ると一気にグラスを空にして会計したり、店内がほぼ男性客で一杯の時は俺と目を合わることだけして帰ったり。そんなことが何度もあったけど、一年もすると隣の男性客と話せるまでになっていた。

「こうして結婚出来るまでになったのもマスターのおかげですよ」

 彼女はそう言うが、俺は何もしていない。頑張ったのは彼女自身なのだから。

「私はお酒を作っただけですよ。七瀬さんの為だけに」

「ふふ」

 彼女は「また来ます。今度は旦那も一緒に」と言葉を残して帰って行った。

 是非、また来てほしいと思う。彼女が選んだ人がどんな人なのか純粋に気になる。きっと良い人には違いないのだろうけれど。

「おめでたいなぁ」

 月日が流れるのも、良いことだなぁと思えるようになったのは、俺も大人になったということだろうか。

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