第21話 集結

 顔見せの日。シャインは主役が遅れてはまずいと思いカイとクルの二人を連れて早朝から魔王城へやってきた。

 通された謁見の間には玉座に魔王だけが座っている。


「シャインか、早いな」

「早くてすいません」

「……二人の時はもっと気軽に喋ってよいぞ」

「配下になったんだからそんな喋り方できるわけないだろ」

「してるではないか」


 シャインと魔王が顔を見合わせニヤッと笑った。

 シャインは一つだけ対等な立場で聞いてみたいことがあったのを思い出した。


「なんのために世界征服を目的にしているんだ?」


 クルからそれが目的だと聞いた。


「別に目的にはしていない。ただこの世界はあまりにムカつくやつが多すぎる。調子に乗った奴らをいたぶってやろうと思ってな。あとこの下らない人生に意味をもたせるためかの、遊びみたいなものじゃ」


「そうか、遊びでも自分の全てを賭けたら楽しいもんな。世界を滅ぼしたいとか言わなくて安心した」


 ゲームを本気でやっていたシャインには何となく理解できた。


「お、分かっているじゃないか。そういうお前には何か目的があるのか?」

「今の自分は何かを成す強さも覚悟もないからその時がきたら考える」

「何だそのつまらん答えは。上手く答えたつもりか。女にモテないタイプじゃな。筆下ろししたいならサキュバスに土下座して頼んでみろ、かっかっか」


 魔王に馬鹿にされてシャインが顔を赤らめた。

 

 その時、謁見の間の扉が開き、黒髪の美女フリージアが入ってきた。


「シャイン!?」


 一番乗りのつもりがシャインが先にいたことと、二人の間の砕けた雰囲気に怪訝な表情をする。

 次に執事のアルフレッド、サキュバスたちとぞろぞろ入ってくる。


 入ってきた時より萎縮していたカイが緊張で失神してしまいそうだ。


 ――まずいな。


 クルの顔色も悪い。お姉さんサキュバスたちを見てビクビクしている。


 ――クルはなんでだ。仲間だろ。


「すいません、連れを別室に待機させてきます」


 カイがほっとした顔になった。荷が重かったようだ。

 大企業の重役やセレブが集まるパーティーに私服で参加するようなものなのかもしれない。悪いことをした。


 謁見の間を出ると、ちょうど前からサキュバスが3人やってきた。

 先頭は黒髪姫カットのサキュバス。


【四天王・十剣のミリア】


 清楚な印象を受ける、お姫様みたいだ。


「どけ」


 お姫様の口からすごい言葉が飛び出した。


 シャインたちが脇に退くと、我が道よとばかりに肩で風を切るようにがに股で歩いていった。

 あいつ誰、みたいな声が聞こえる。


 ――サキュバスはこういう人たちしかいないのだろうか。


 空き部屋に移動した。


「ごめんねカイ、あそこ居心地悪かったね」

「いえ、そういうわけでは」


 クルを見る。


「クルは戻ろうか?」


 クルがすごい勢いで嫌々しながら首を横に振った。


 ――そうか、あの連中の中で相当扱いが悪いんだろうな。


「分かった。俺一人で行ってくるから、二人は落ち着いたら町で買い物でもしてきな」

「すみません」


 カイが申し訳なさそうに謝る。

 クルの表情がぱあっと明るくなった。



 なんだかんだで遅くなり、シャインが謁見の間に戻ると60人以上が集まっていた。魔王がシャインに気付く。


「きたなシャイン。自己紹介しろ」


 スピーチ。


 人前で発表することにいい思い出がない。シャインはかなり緊張した。面白いことを言おうとしたが全く浮かばない。


「シャイン・インダークです。よろしくお願いします」


 ただ名前を言って頭を下げただけだった。

 拍手もブーイングも起きない。あっそうというような至極当然な雰囲気が生まれた。


 誰一人紹介返しなどはしない。知ってて当たり前なのかもしれないが。

 それを察したのか、執事が前に出てさらりとシャインに幹部の紹介を始めた。


 ――さすが、魔王国唯一の良心。


 執事の説明と、クルから聞き出した情報を総合すると魔王軍にはサキュバスだけがなれる四天王という役職が存在する。


・魔王の右腕にしてエルフとのハーフである黒髪ロングの美貌の女騎士【フリージア】

・紫色の髪、魔導師然とした【万里眼のロザリア・ハーミット】

・どけと言われた人間とのハーフの【十剣のミリア】


 四天王はこの3人だ。魔王の次に偉い人たち。


 そして外部からの将軍を軍団長と呼ぶ。地位的には四天王と同格。

【剣神・オラクール・マグナリュート】

【魔獣・メフィスト・サムズ】


 オラクールは黒髪短髪のナイスガイ、メフィストは銀髪の物凄くシルエットの格好いいワーウルフという印象だ。二人が前を通り過ぎると、サキュバスたちが色めき立っているので人気のほどが伺えた。


 紹介はこんなものであとは軍団長の部下や、ダンジョンを出た時に出会った【ゴブリンキング】や豚面の【オークロード、ケノン・オークッド】などの亜人がいた。


 紹介が済んだのを見て魔王が口を開く。


「シャインはネオスの代わりに軍団長に入ることになった。ゴブリンとオークの隊を指揮する」


 ――えええ!? 聞いてないよ。


 シャインは驚いた。

 しかし周りの空気は特に問題はないという感じだ。オークロードだけは気に入らないという厳しい視線をシャインに飛ばしている。


『アニキッ』


 しゃがれたハスキーボイスのゴブリンキングが駆けてきた。アニキと一緒だ! とはしゃぎまわっている。隣にいるゴブリンジェノサイダーはシャインを見ると怯えたよう表情で耳を伏せていた。


 ――誰がアニキだ。



『ゴブリンはいつから媚びる売るのが上手くなったんだ』


 野太い声のオークロード〈ケノン・オークッド〉が現れた。顔は豚面、体躯は2mを軽々越える巨体だ。背後に屈強なオークを10体引き連れている。

 この部屋で一番暑苦しいやつらだ。


『なんだとゴブ!? アニキを舐めると死ぬぞゴブ!』


 ゴブリンキングが威嚇する。


『げっはっは。面白い冗談だ。しっかしネオスの野郎も落ちたもんだ、こんな奴の下につくなんてな』


「ん? 何か?」


 オークロードの背後からネオスが現れた。銀髪の涼しげな顔をしている。


『げげぇっ!?、ネ、ネオス、様』


「何か?」


『なんでもないです』


 オークロードがぶんぶんぶんと首と手を振る。


「そう。シャイン君、改めてよろしくね」

「はいネオスさん」


 シャインは丁寧に対応した。


「強そうに見えなーい」


 そんな子供っぽい悪態をつく声が聞こえた。

 シャインは自分のことかとドキッとして見る、


【烈火のジュリオ・マグナリュート】


 赤毛の活発そうな少年が両手を枕にして魔王と喋っている。背はシャインより低めながら猫化の猛獣のような雰囲気を漂わせている。

 四天王と呼ばれるオラクールの副将であり弟だ。


「ふふふ、私の見立てではジュリオと互角だ」


 魔王が楽しげに言う。


「うっそでー」

「なら戦ってみるか? 初めから不満があるならやらせるつもりだった。勝ったら軍団長交代じゃ」

「そいつぁーおもしれえ」


 オラクールが賛同した。


「やるやるっ」


 はいはい、とジュリオが手をあげた。


 ――勝手に決めないでください。


 魔王がシャインを見た。


「というわけで周りに実力を示せ」

「子供相手はちょっと」

「ジュリオを舐めるなよ。将来、魔王軍を背負って立つほどの逸材だ。すでに軍団長に据えても遜色ない実力がある。相手に不足はないだろう」


「えへへ」


 ジュリオが照れたように鼻をかく。


「はいはい、やりますよ」


 面倒くさそうにシャインが返事をした。

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