口裂けさんと俺

トカゲ

彼女はマスクを外さない

 口裂け女って知ってるか?

 ほら、マスクをした女性の都市伝説だ。有名だろ?

 俺はそんな口裂け女に会ったことがあるんだ。


 彼女達はちょっとサイコだったけど、それ以外は普通の可愛い女の子だったよ。

 今日はそんな口裂け女と俺が出会った時の話をしようか。


・・・


 その日は夜のバイトのヘルプに入っていて帰るのが遅くなったんだ。


 バイトが終わって外に出た時間は夜の11時を過ぎていた。

 疲れてたから俺は少しでも早く家に帰ろうとして公園を通る事にしたんだよ。


 夜の公園が怖いのは俺だけじゃないと思う。ブランコが風に揺れて軋む音や、鈴虫の鳴き声しか聞こえない公園に俺は内心ビビりながら歩いていた。


 そんな時だ、突然誰かに肩を叩かれたのは。

 本当に突然だったから少しジャンプをするくらい驚いたのを覚えてる。


 振り向いたら包丁を振りかぶっている女性がいるんだよ。

 分かるか? 知らない女性に突然包丁で切りつけられようとしているんだぜ?

 正直生きた心地がしなかったよ。


 「うひゃおぅ!?」


 俺はヘンな奇声を上げながらもギリギリで包丁を避けた。

 またその女性は俺が避けたのを見て舌打ちをしながら包丁を後ろに隠すんだよ。何事も無かったかのように。怖くて仕方がなかったね。

 

 その女性は髪が長くて大きなマスクをしていたから顔は良く分からない。

 女性は何事もなかったかの様に俺に喋りかけてきた。


 「私キレイ?」

 「いやいやいや! おかしいよね? 今その言葉はおかしいよね!?」

 「じゃあヨーグルト食べる?」

 「何でヨーグルト!?」

 「いや、マニュアルなんで……」


 絶対おかしい奴だと思った俺は堪らず逃げ出した。

 これでも俺は陸上の短距離走で国体に行った事がある男だ。最近は怠けていたけど女性から逃げるなんて容易い事だと思ってた。


 「待ちなさい!」


 しかしその女性は俺のプライドをへし折る速さで追いかけてきた。

 しかも3回転半のひねりを加えたジャンプで俺を飛び越すという人外的な動きまで見せてきやがった。俺はそんな女性を見て逃げる事を諦めたんだ。


 「私キレイ!?」

 「えっと、キレイとかブスとか以前に怖いです」


 俺は正直者なのでウッカリ本音を出してしまった。

 だって仕方ないじゃん。俺の頭上を飛び越えながら3回転半を決めてくる女性とか誰だって怖いと思うよ?


 「怖くないもん!」

 「いや、あのパフォーマンスを見せられたら誰でもビビりますよ。それに包丁も持ってるし」


 頬を膨らませながら涙目になっているのはちょっとカワイイかもしれないが、身体能力と包丁の恐怖がそれを上回っている。


 「むー! 私はキレイなのかどうかを聞いてるの!」

 「うーん。俺はキレイよりカワイイって感じだと思いますけどね」

 「カ、カワイイ!? 私が?」

 「はい」


 何か思った以上に戸惑っている。

 言われたことがないのかな? まぁ、これだけクレイジーだと言われないだろうなぁ。だけど真っ赤な顔で慌てている所とか普通にカワイイと思うんだけどな。


 「ど、どこら辺がカワイイのよ!」

 「そうやって慌ててるところとかですかね」

 「むーっ!」


 女性は何か凄いプルプルし始めたと思ったら走って何処かに行ってしまった。


 「覚えてなさいよ! お姉ちゃんに頼んで懲らしめてもらうんだから!」


 そう不穏な捨て台詞を残して―――

 

・・・


 これが俺と口裂け女との馴れ初めの話さ。

 こうやって聞くと、口裂け女も普通の女性みたいに思えてくるだろ?


 ……思えない? まぁ、そりゃそうか。


 この後に俺は口裂け女のお姉さん2人と出会う事になるんだが、それは別にいいだろう。


 お前らも夜道には気を付けろよ? 口裂け女が出るかもしれないからな。


 

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口裂けさんと俺 トカゲ @iguana

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