10㎥

 狭い病室、清潔なシーツ、傷一つない窓ガラス。視界が白一色で埋まった病室で今日も僕は臥していた。針が刺さった腕は尋常でないほどに薄く、白い。日に翳せば血管が透けて見えてしまいそうだった。

 厚いガラスの向こうでは、青い海が遥か彼方まで広がり、海岸は日光を反射して目が痛い程にキラキラ輝いている。それはまるで宝石の輝きの様で、思わず見とれていると刺激で目が痛くなってしまった。

 しょぼしょぼする瞼を擦ってもう一度開くと、ふと窓のすぐそばに小さな麦わら帽子が飛んできた事に気付く。麦わら帽子には可愛らしい赤いリボンが付けられていて、海風に吹かれてひらひらと空を舞っていた。

 しばらくして、その帽子の持ち主と思しき少女が窓の中に現れる。少女は麦わら帽子を拾うと、こちらには一切目を向けることなく振り返り、どこか遠くに向かって手をいっぱいに広げて振って、走り去ってしまった。

 僕は無駄だと知っていても、届くはずのない麦わら帽子に手を伸ばした。

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