第3日 眠り
私たち人間はほぼ必ずと言っていいほど周期的に睡眠をとる。眠るとは脳を回復させる手っ取り早い行動だと私は思う。ゲームの世界のように一瞬寝れば全回復とまではいかないが、それでもある程度の気怠さを体から追い出すことはできる。睡眠はこの世で一番時間が早く過ぎると感じるものだ。春眠暁を覚えず、という言葉がある。現代では「布団を愛している」という表現まで使われるほどに、睡眠に対する重要度は上がっているといえよう。かくいう私も「布団を愛している」者の一人だ。一日の終わりに潜り込むすべてを包み込む慈愛にあふれた感覚はあの瞬間でしか味わえないものである。
ところで、私は常々気になっていることがある。それは、「いつ自分が眠りに落ちるのだろうか」ということだ。寝ようと思っていても自覚があるうちは脳の覚醒により、眠ることはできない。かと言って寝た場合、気づいたら朝日とともに鳥が鳴いている。比喩表現抜きにして「気づいたら朝」だったのだ。この疑問を自覚してから現在に至るまで何百という夜を超えてきたが、一回としていつ自分が寝たのか、という回答を得るには至らなかった。矛盾のようであるが、私は「自分がいつ眠りに落ちるのか、覚醒している頭で確かめてから眠りにつきたい」のである。平たく言えば「自分が寝たとはっきり確認した直後寝たい」のだ。人体構造上そればほぼ不可能であることは何となく自覚している。
そんなくだらない意地をもった私も、眠る間際、たまに不思議な感覚に陥ることがある。意識が浮遊しているような、それでいて世界が拡大しているような、あるいは自分自身が縮小しているような、現実的な光景を感覚で捉えつつ、非現実的な光景を朦朧とした意識の中で感じるのである。ここから先の記憶はない。恐らくこれが眠る前の最後の自覚であるということなのだと思う。世界が自分の知覚が届いてしまうぐらい超感覚的に知れる。その時の謎の浮遊感は私を高揚させるが、覚醒にはつながらない。奇妙だが、私はこの世の中でベスト5に入るほどにあの感覚が好きである。
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