第7話 ギルド
翌朝、コウタとアデルは前日の夜と同様、宿の一階で朝食をとっていた。
「もぐもぐ⋯⋯このパンも慣れると意外と美味しいですね。⋯⋯もぐもぐ⋯⋯。」
「もぐもぐ⋯⋯そうだろ?」
二人で固いパンを頬張りながら、お互い眠気で目を半開きにしながら内容のない会話をする。
「そういえば貴様はこれからどうするのだ?⋯⋯もぐもぐ⋯⋯。」
「ああ、その件なんですが少し相談が。⋯⋯もぐもぐ⋯⋯。」
お互いの目が覚めてきてようやくまともな会話をし始める。コウタは金銭の問題について切り出す。
「働き口か⋯⋯。」
「はい、実はお金借りたはいいんですけど返す当てがなくて⋯⋯。」
目を逸らしながらコウタは答える。
「よくそれで借りようとか思ったな。」
「⋯⋯⋯⋯すいません⋯⋯。」
ジト目で責められ何も言えなくなる。
「はぁ⋯⋯ならば冒険者をすればいいのではないか?多少危険ではあるが貴様の実力なら生きていく分には困らんだろう。」
「何故かレベル1のくせにスピードだけなら私と同じくらいあるからな。」
確かにレベル1のコウタのスピードはレベル35のアデルと同じくらい高かった。
(現状それしかない道はない、か。)
「そうですね。冒険者というのはどうやってなるのですか?」
「決断早いな。いいのか?そんなにあっさり決めてしまって。」
「はい。考えていてもしょうがないので。」
それを聞いてアデルはクスリと笑う。
「ならちょうどいい。準備ができたら出発するぞ。」
「どこへ行くのですか?」
「ここから一時間ほど歩いたところに街がある。街の中心にあるギルドで冒険者登録をするのだ。私も街に用があるからな。」
一時間後——
「着いたぞ。ここが風の街ベーツだ。」
「結構大きな街ですね。」
さすがに街というだけあってそこは周りのが全て外壁で囲まれた完全防備であった。
「さて、入るぞ。」
アデルに促されてコウタは門へと足を進める。
門の前には二人の兵士がいた。近づくと片方の兵士が声をかけてくる。
「ようこそ、ベーツの街へ。申し訳ありませんか身分を証明できるものはございますでしょうか。」
「ああ、ギルドカードがある。」
「彼は旅人でそういったものは持っていないらしい。」
そう言うとアデルは腰についているポーチから紙きれのような物を取り出し兵士にみせながらコウタの方を向く。
「そうですかでしたら通行料千ヤードかかりますが。」
(ヤード?)
コウタは一瞬ゴルフを思い出す。
「ああ、これで頼む。」
アデルは再びポーチから今度は紙幣を取り出す。
兵士のギルドカードのチェックが終わるとようやく通ることができた。
「そのバックいろんなものが入るのですね。」
「ああ、これか?これはマジックバックといって魔法の力で見た目よりも中身が大分広く作られているのだ。」
アデルは腰につけられた小さなバックを軽く摘まみ、コウタに見せる。
「このサイズならリュックサックくらいの量は入るな。」
「へぇ、便利ですね。」
「まあ結構高かったからな、っとここがメインストリートだ。」
そう言われて前を見るとそこにはたくさんの出店や人で賑わっていた。
「おお!!」
コウタは目をキラキラさせながら隅々まで見渡す。同じ賑わいでも現代社会の車の音や電車の音とは違う音だった。
「なかなか新鮮ですね。」
キョロキョロと見渡しながら道を進む。
「あんまりキョロキョロするな⋯⋯田舎者だと思われるぞ。」
アデルは呆れたように言うがコウタの耳にはほとんど届いてはいなかった。
「ほら、ついたぞ。」
ギルドと呼ばれる建物はレンガ造りのとても立派な建物であった。
ドアを開けると受付の女性が反応する。
「アデルさん⋯⋯⋯⋯!!よくご無事で。」
その女性はいかにも仕事の出来そうな雰囲気を醸し出していた。
「ああ、心配かけたな、すまない。」
アデルは少し伏し目がちに答える。
ギルドの内部は受付と酒場があり村の宿屋と同じような印象を受けた。ただ少し違ったのは酒を飲んでいる人間が、いかつい男たちばかりであったのと奥にロッカールームのようなものがあったことだ。
「そちらの方は?」
「こいつは冒険者志望だ。金に困っているらしい。面倒見てくれるか?これは登録料だ。」
そう言ってアデルは受付に紙幣を渡した。
「では、私は着替えてくる。ついでにシャワーも浴びてくる。」
そう言ってアデルはロッカールームに向かう。
「あ、はい。」
コウタはその言葉に対して特に気にした様子もなくそう答える。
「では冒険者登録の手続きをしましょうか。」
受付の女性はそう言うと、まずデスクから空白の紙きれのようなものを出す。
「こちらがギルドカードになります。まずここに名前書いてください。」
(あれか。)
「わかりました。」
コウタは街に入る時の兵士とアデルのやりとりを思い出す。
名前を書き終え受付に渡す。
「はい、コウタ=キドさんですね。」
「ではコウタさんこちらへどうぞ。」
受付の女性について行くとそこには台座の上に水晶が乗っていた。
「ではコウタさんそちらのギルドカードで水晶に触れてください。」
「はい。」
言われた通り手に持ったギルドカード水晶に当てると、それは美しい水色に輝く。
水晶の輝きが収まるとギルドカードにはコウタのステータスやスキルが書かれていた。
「では確認させていただきます。」
「あ、どうぞ。」
そう言ってギルドカードを受付に渡す。
「⋯⋯っ!?」
受付の女性はコウタのギルドカードを見て固まる。
「なっ⋯⋯なっ⋯⋯」
「何か不備でもありましたか?」
コウタは恐る恐る尋ねる。
「⋯⋯すごい。」
「はい?」
「すごいですよコウタさん!レベル1でこのステータス!最初からこのスキルポイント!しかも全ての職業に適性を持っているなんて!完全に天才の領域ですよ!」
「は、はあ⋯⋯。」
この反応には正直前世からの経験上慣れてはいたので驚きはしなかったが、それにしてもさっきと今とでは雰囲気が違い過ぎたので拍子抜けしてる。
コウタは自分の目で改めて見るとオリジナルスキルは記述されていなかった。もし書かれていたらもっとすごいことになっていたのだろうかとゾッとした。
「えっと、とりあえず落ち着きましょう?」
そう言われると受付の女性ははっとして元の態度に戻る。
そして改めて背筋を伸ばし、雰囲気を切り替える。
「う、ゴホン、失礼。それでは最後になりたい職業を選んで下さい。」
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