(番外編)ダメ姉は、チョコで失敗する

 ベッドに腰かけ小さく笑う愛おしいその人を、隣でちらちらと盗み見ながら私は思う。


「(歴史は繰り返す。……過ちも繰り返す)」


 悪いのは私だ。とりあえず状況を説明させてほしい。


 2月14日の……コマの為の大本命チョコやカナカナたちの為の友チョコ。あと叔母さんたちの為の義理チョコづくりを今年も無事に終え。素材となる余った大量のチョコをどう処理しようかと考えていた矢先。まだまだ寒いし本命チョコとは別にホットチョコにしてコマに飲んでもらうと考えついた私。

 早速それを作っていたら、キッチンにやってきためい子叔母さんが―――


『へぇ……旨そうだな。なあマコ。アタシにも作ってくれよ。……あ、ホットチョコじゃなくて折角だしチョコカクテルにしてくれると助かる』


 なんて言い出して。だから叔母さんには要望通りリキュール入りのを作ってあげたんだけど……


「(…………コマに渡したやつと、叔母さんに渡したやつ……逆だった……)」


 ……ここまで綴れば後は皆さんお察しして頂けることだろう。そう、うちの愛しい双子の妹のコマなんだけど……恐ろしいくらいにお酒に弱い。チョコレートボンボンだけでも簡単に酔えて、そして……一口で酒乱となってしまう。


「ふ、ふふ……ふふふふふ……」

「…………(ダラダラダラ)」


 そんなコマに、酒豪のめい子叔母さんが飲むようなお酒の入ったチョコカクテルを間違えて飲ませてしまった私。気づいた時にはもう遅い。お顔を真っ赤にして、そして妖艶に私を見つめながら……ただただコマは笑う、笑う。可愛いけどちょっとこわい……さっきから冷や汗が止まんねぇ……


「(あれほど……コマにお酒を飲ませちゃダメだってあれほど反省したってのに……細心の注意をしてきたはずなのに……)」


 後悔役に立たず。……あれ?後悔先に立たずだっけ?まあ、どっちでもいいか。一度酔わせてしまった時は……それはもうエロい事に―――じゃない、えらい事になってしまった。蘇るあの日のコマとの情事……


「(……お酒飲んだ時のコマって、いつも以上に積極的になるんだよね……イロイロと)」


 とにかく酔わせてしまった以上、下手にコマに目をつけられないようにやり過ごし……酔いが醒めるのを待つしか―――


「……マコ姉さま」

「は、はいっ!なんでしょうかコマさん!?」


 と、そんな事を考えていると唐突にコマは私に声をかけてくる。思わず敬語で返事をする私に、コマはくすくすと笑いながら続けてくれる。


「マコ姉さまはぁ……こーんなあまーいチョコを私にくれるんですからぁ……私の事好きなんですよねぇ……?」

「大好きです!」


 酔っていようが酔っていまいが、その問いには当然即答。私の答えにコマはさらににんまりと笑い、次はこう問いかけてくる。


「そうですかぁ……とっても嬉しいです。……じゃあ、姉さまは私の事……どれくらい好きなんですかぁ?」

「コマの為なら何でもできるって宣言できちゃうくらい大好き!足舐めろって言われても喜んで舐めちゃうよ!」


 思わず調子に乗ってスラスラと本音を述べると、急にコマはスッ……っと目を細めて私を見定めるようにまじまじと私を見つめる。しばらく何か考えていたみたいだけど、やがて何か妙案を思いついた模様。


「へぇ……そうですかぁ。足舐めろって言われても、喜んで舐めちゃうんですかぁ……へぇ……」

「コマ……?」


 ゆっくりと。黒いタイツを。ソックスを脱ぎ捨てて。そしてコマはその長く白く美しい生足を伸ばしてこう告げる。


「では姉さま……お望み通り、舐めていただきましょうかね……私の足を」

「…………」


 余計な事を言ってしまった感が激しい……何でよりにもよって喜んで足を舐めるとか例え話を言い出したんだ私はと心の中で頭を抱える。

 誤解のないようにあえて語っておくが。舐めるか舐めないかって話だったら……喜んで舐めるさ。だってさ、コマのおみ足だよ?すべすべで、美しいその足だよ?舐めて良いならお金払ってでも一日中ペロペロさせていただきたいわ。


「(でも……普段のコマならそう言う事絶対させてくんないよね……)」


 『姉さま、そこは汚いですよ』と。多分通常状態のコマなら嫌がるだろう。もしこれで……酔いが醒めてコマが正気に戻ったら……自分が実の姉に何をさせたのか思い出して……自分を責めると同時にコマは恥ずかしさのあまりしばらく再起不能になってしまう事だろう。

 そうなったらコマ可哀そうだし……


「あ、あのさコマ。コマは今酔ってるんだよ。だからその……酔いが醒めちゃったらきっとコマは、今の発言を後悔する事に―――」

「ごちゃごちゃと……うるさいです。どうでも良いです。いいからマコ姉さま…………そこに、跪きなさい」

「はいっ♡」


 ごく自然に返事をし、ごく自然に床に正座する私。ちょうどベッドに腰かけ足を組んだコマに見下ろされる形となる。…………って、あれ?いや何してんの私……?なにナチュラルに従ってるの……?


「あ、いや違……こ、コマ待って!ち、違うのコレは……」

「ああ、姉さま……とっても素直で聞き分けが良くて……素敵です。うふふ……偉い偉い」

「はふぅん……」


 コマは感激した様子で、跪いた私を撫でる。……勿論、手ではなく足で。なんという屈辱的な光景。実の双子の妹に、跪かされて……足で良いように扱われている姉……なんて情けないのだろうか。そして……なんて背徳的なんだろうか。

 普通は姉として怒らなきゃいけないところだろう。でも……私は足で頭を撫でられて……それはもう、上手く言葉に出来ないくらいとても悦んでいた。


「さて……と。それじゃあ早速舐めてもらおいましょうか。姉さまもぉ……待ちわびているみたいですし」

「ま、待ちわびてなんか……」

「はい、どーぞ♡」

「んむっ!?」


 否定の言葉を紡ぐ前に、コマは自分の足を私の口内に容赦なく突っ込んだ。突っ込まれた途端、今日一日分の溜まったコマのスメルが……鼻先を刺激する。……足の匂いをダイレクトに嗅がされている割に。不快さは、一切感じない。惚れた弱みなのか。全然嫌じゃない……それどころか、寧ろ…………。


「ふふ……姉さま、ゆっくり……じっくり味わって」

「ん、んん……」

「遠慮しないで。舐めていいんですよぉ……?」


 コマの足のつま先がこちょこちょと口の中で動き出す。まるで私を挑発するように。たまらず私は親指からしゃぶり始める。ちゅぱちゅぱと音を立て、爪も指の付け根も裏側も……なぞるように丁寧に舐る。


「あは……♡やーん、くすぐったいです姉さま」

「ぁ……ご、ごめんコマ……い、嫌ならやめるけど……」

「んーん。違うの、気持ちいいの。ほら、だから……もっと続けて」


 許可された私は、足を舐めるのを続行する。一つ一つ丁寧に指先を舐め終わり、今度は足の甲。足の甲が終われば足の裏へ。踵、足首、土踏まず……どこも満遍なくゆっくりと舌を這わせていく。


「はぁ、はぁ……上手、上手ですよ姉さま…………上手にしてくれる姉さまには……ご褒美も、あげませんとね……」

「ごひょうび……?」

「ふふ……今日はぁ……バレンタインですよね。……本命のチョコは、他にちゃぁんと用意していますけど……今の姉さまに、もっとふさわしいモノ……あげたいなぁと思いまして」


 そう言いながら私が舐め尽くした足とは逆の足を私に向けるコマ。そのまま……私がコマに飲ませてしまった、叔母さん用のチョコカクテルをシミ一つ、傷一つない足にタラリと垂らして―――


「ハッピーバレンタインです姉さま。好きなだけ、お舐めくださいませ」


 甘い香りの、チョコカクテル。ゆっくりと重力に従い一つの筋を描きつつ流れ落ちていく。それを私は震える舌で、ぴちゃぴちゃと舐めていく。生足ごと、舐めていく。


「美味しい、ですか?」

「…………(こくこく)」

「ふふ……よかったぁ。遠慮しないで食べてくださいね」

「ん……」

「ああ、でも……勿体ないですし、溢しちゃったら罰が当たっちゃいますから……もしも、一滴でもチョコを溢したら……それでおしまいにしましょうね姉さま」

「ッ……!?」


 コマの一言に、私は顔を青くする。終わる……ちょっとでも溢しちゃったら……この甘美な悪戯は……終わってしまう……?まだ、続けてほしいのに……おわっちゃう……?

 私の心中を知ってか知らずか。最初は足の甲に。次はつま先にといった具合に、コマは次々にカクテルを容赦なく垂らしてゆく。私は垂らされたそれを、一つも溢さぬようにと必死になって追いかける。


「…………ぅ、うぅぅ……ちゅ、ちゅぱ……じゅるる……!」


 ずぅっと舐め続けていたからか、顎が……それに舌が痛くなってきた。痺れてきた。それでもやめられない。終われない……ちょっとでも気を抜くと……チョコがこぼれてしまうから……コマの足を、舐められなくなっちゃうから……


「…………あ、はぁ……♪さいっこう……ですね。最愛の人に、こんなことさせるなんて……最愛の人が、どんどん堕ちて……私だけのモノになっていくみたいで……ああ、ホントにいいです……」


 恍惚の表情で、コマは蕩けるように微笑む。そんなコマに応えるように私は一心不乱に舐め続ける。爪の間を、指と指の間を。隙間なく、丁寧に……丹念に。必死になって舐めていく。


「……ねえ、姉さま……」

「ん……」

「気づいていますか?……もう、チョコなんて残っていませんよ?」

「……」

「それなのに姉さまは、そんなに一生懸命にまだ私の足を舐めるんですね。チョコなんて塗られていないのに。そんなに必死になってペロペロしちゃうんですね」

「……」

「ふ、ふふふ……姉さま、かわいい……」


 一体どれだけの時間が流れたのか。気づけば私はどうにかチョコを溢さずに舐めきっていたらしい。私の唾液で、ドロドロに濡れたコマの足。舐めていない場所など一切ない。


「さて……姉さま。姉さまは私に何か言わなきゃいけない事がないですか?」


 にこにこと、コマは笑顔でそう問いかけてきた。永遠とも思う時間コマの足を舐め続けたせいで舌が回らない……息も絶え絶えだ、それでも私はどうにかフラフラの身体に鞭を打ち。


「ハァ……ハァ……こ、ま……」

「はい」

「…………ごちそう、さまでしたぁ……♡」

「……ふふふ、お粗末様です♡」


 舐めさせて貰ったことに、感謝の気持ちを告げながら。コマの足の甲に口づけをしたのであった……

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