ダメ姉は、活動報告する(後編)
私たちが所属するマコラ部の部活活動報告。報告が始まって早々、すでにおかしな空気になりつつある気がするのは多分私だけじゃないハズ。
「―――まったく。こんないかがわしいものを校内で販売していただなんて……生徒会長としては見過ごせませんね。これは後日全て回収しておきます」
とかなんとか言ってるけど、ちゃっかりカナカナから私の写真集なるものを購入した生徒会長さんは何なんだろうか……?
「部員の意見はだいたいわかりました。……顧問の清野先生は、この部活に関してどう考えていますか?」
後ろに控えていた我が料理の師、清野和味先生にそう問いかける生徒会長さん。……ん?顧問?
「せ、先生?先生って……うちの部の顧問だったんですか……!?」
「あ、はい……そうですよマコさん。もしかしてご存じなかったのですか……?」
知らなかった……というか、知りとうなかった。なんで関係ないはずの和味先生が活動報告に来てたのかって不思議だったけどこれが理由かい。
「そもそも先生?先生って料理部の顧問だったのでは?」
「ああ……大丈夫ですよ。勿論料理部の顧問でもあります」
「兼任してるんですか……?こんな部に?先生?どうしてこんなアホな部の顧問になろうと思ったんです……?」
「マコさんが入っている部活であれば、それはもう実質料理部と言っても過言ではないでしょう?ですので顧問も喜んで引き受けた次第です」
……すんません先生、どういう理屈なのか全然わかりません。
「話が逸れましたね。ええっと……顧問の立場からマコラ部についてどう思うのかですが。……素晴らしい部活動だと私は思っています」
「ほほぅ?では具体的にどのような活動をされているのか、顧問の先生の立場で答えていただいてもよろしいでしょうか?」
「それは私たちも知りたいですな。聞かせてください清野先生、貴女の部はどのような活動をし、どんな成果をあげているのかを」
生徒会長さんだけでなく校長先生も和味先生に問いかける。料理していないときはいつも気弱な先生だけど、この場ではとても凛々しい表情でハキハキこう答える。
「部の理念であるマコさんを愛でるという事を重点に置きながら、彼女の長所を伸ばす活動を主に取り組んでいます」
「マコさんの長所とは具体的には?」
「料理です!」
「料理……ですか?」
「はいっ!彼女の料理は大変素晴らしいのです!教師であると同時に料理人でもある私を唸らせるほどの調理技術!料理に対する熱意と真摯さ!どれをとっても一級品なのです!私はこの部の顧問として、日々彼女の腕を磨くべく力添えをしています!」
先生に一つ言いたい。その活動ってさ……もうほぼ料理部では……?
「この部の良さは、料理部と違い―――マコさん一人にマンツーマン指導しても怒られないところです。これを利用し、放課後付きっ切りで私の料理のすべてを叩き込み……その甲斐あって彼女が創作したレシピが、先日行われた全日本高校料理コンクールでなんと最優秀賞を受賞しました!」
「えっ」
なにそれ私初耳……
「ちょ、ちょっと待って先生?そんなものに私応募した覚えとか無いんですけど……?」
「あ、ごめんなさいマコさん。この間マコさんが作ったレシピ、とても素晴らしいものでしたので……この素晴らしさを世間の皆さんに知って欲しくてつい独断で応募しちゃいました。……ふふ、私の目に狂いはありませんでしたね。審査員からも絶賛の嵐でしたよ。遅くなりましたが、はいコレ賞状です」
「独断って……」
ナイススマイルで私に賞状を贈る先生。……いや、ですからどうしてカナカナも先生も、当事者である私に一言でいいから相談してくれないんですかね……?
「では、最後にマコラ部の部長である私が活動報告させて頂きます」
和味先生の話も済んだところで。締めに私の最高の妹にして、最高の私の理解者でもあるコマが生徒会長さんの前に立った。
「生徒会長さま。それに校長先生たち。私たちマコラ部は毎日マコ姉さまを全力で愛で、時に全力で愛でられながら、しっかりとこの学校に貢献していると自負しております」
「ほう。ではその貢献について説明してください」
「いいでしょう。ではまずは……ついこの間の話なのですが。私、陸上の大会に出場したんです」
コマに言われて思い出す。あー、あったあった。先月コマ、短距離走の選手に選ばれたんだったよね。私も応援に行ったんだった。
「姉さまが見守る中、どうにか勝ち進んで決勝にたどり着いた私。当然、決勝ともなれば選りすぐりの強豪校の選手たちが揃っていました。私の自己ベストよりも速い選手も居て。中学時代に競り合い勝てなかった因縁の選手もそこにはいました」
「ふむふむ。それで?」
「正直勝てる気はしませんでした。こんな凄い人たちとどうやって渡り合えばいいのかと不安になりました。ですが―――私はその時応援席で見たんです」
「見たとは……何をですか?」
「勝利の女神を」
『―――ふれー、ふれー!コーマ!がんばれ、がんばれ!コーマ!』
「―――フリフリのチア服を着ながら、懸命に私を応援してくださっていたマコ姉さま……!それはもう最高でした……!ダンスや声援もさることながら……私の為に飛んだり跳ねたり踊ったり……揺れて暴れる大きなお胸、服の間からちらりと覗くすべすべの脇にお腹、健康的な太もも……!それを一目見ただけで私の中で力が沸き上がり…………そのマコ姉さまの応援があったお陰で、私は見事自己ベストを。そして大会ベストを更新し、優勝にこぎつけたのです……!大会優勝という揺るぎない実績を得た以上、マコラ部はこの学校に必要不可欠な部と言えるのではないでしょうか?」
「…………それは……単純に貴女個人が速かっただけなのでは?」
「何を言いますか。マコ姉さまの応援があったからこその結果ですよ」
生徒会長さんが冷静にツッコミを入れる。うん、私もそう思う。
「と言いますか、それって全然マコラ部の部活動とは関係ないじゃないですか。ただの貴女の陸上の功績じゃないですか」
「はい?……マコ姉さまの愛らしいお姿を愛でたおかげで無限の力を得たんです。これはもう、立派なマコラ部の部活動でしょう?」
そうかなぁ……?
「なにか不満なのですか?別の実績がお望みですか?でしたら―――こちらをご覧ください」
そう言うと今度はさっきのカナカナみたく、自分の鞄から一枚の絵を取り出してコマはそれを生徒会長さんや先生たちに見せる。
「これは部活動の一環として、マコ姉さまの日々の成長を収めるべくマコ姉さまの芸術的なお姿をデッサンしたものです」
「うま……っ!?ちょ……えっ?この絵、コマが描いたの!?」
「はい♡まあ私の拙い腕では現実の姉さまの素晴らしさをすべて表現する事は残念ながら出来ませんでしたが、それでも頑張って描かせて頂きました」
そこに描かれていたのは、まぎれもない私の姿だった。鉛筆で描かれているにもかかわらず、まるで今にも動き出すように絵の中で私が表現されていた。白黒の世界なのに他の色まで見えてきそうで……ホントコマは何でもできるなぁ。お姉ちゃん感心するよ。こんなに綺麗に描いてくれてありがとね♪
「……ところでさコマ。お姉ちゃんちょっと聞いても良いかな?」
「あ、はいです姉さま。なんでも聞いてくださいませ」
「……この絵の私って…………どうして裸なのかね?」
まあ一つだけ、この絵に問題があるとすれば。いわゆるヌードデッサンってやつってところか。……だから……だからちょっとまって……
「何故……何故に裸!?流石にヌードデッサンとかされた覚えはないんだけど!?」
「あ……いえ、違うんです姉さま。最初は普通に姉さまをデッサンしていたんですが……描いていたらなんだか……その。いつも見ている産まれたままのお姿が鮮明に浮かんできて……ついムラムラしちゃって気づけばこうなってました♡」
ハートマーク付けて誤魔化してもダメ。お姉ちゃん泣くぞ?泣いちゃうぞ?
「こ、これ……これはいけません……!普段どんな活動をしているんですか貴女たちは……!?破廉恥ですよ!?ちなみにおいくらですか!?」
「誤解なさらないでください。この時は普通にデッサンしただけです。ヌードなのはあくまで私の想像の産物です。あと、勿論非売品です。絵であろうと姉さまは渡しません」
「ナチュラルに購入しようとしないでください生徒会長さん」
こんなの描いたコマもコマだけど。さっきのカナカナ制作の写真集の倍の諭吉さんをコマに渡そうとする生徒会長さんもなんなの……?
「あ、ちなみにこの絵ですが……ただ描くだけじゃもったいないかなって思って」
「思って?」
「―――試しにコンクールに応募してみたら、大賞を頂きました」
「何してくれてんのコマぁアアアアア!??」
こ、こここ……コンクール!?ま、まさか……コレを応募したの!?しかも大賞!?
「つ、つまり……裸の私の姿が、公の場で色んな人にさらし者にされたって事……!?」
「大丈夫です、こんなのただの絵ですよ。姉さまの本物の裸のお姿は、他でもない私しか見ませんからご安心を」
「ゴメンコマ、安心できないっ!全然安心出来ないよ!?」
ど、どーりで最近クラスメイトとか美術部の先輩とかから『立花さんって……脱いだら凄いんだね』とか『私たちのモデルになって!』ってやけに言われると思ったよ!?これか!これが原因か!?どうしてカナカナも先生もコマも、本にしたり応募する前にモデルの私に一言で良いから言ってくれないの!?アレか!?羞恥プレイでもさせられているのか私は!?
そんな私たちの騒動を見つつ、生徒会長さんは(何故か鼻血を拭いながら)大きくため息を吐く。
「まったく話になりませんね。どんな部活動をしているかと聞いてみれば、部員が一人の部員を盗撮し勝手に本を出したり。顧問がお気に入りの生徒を贔屓したり。挙句の果てに部長が許可なく部員のヌードデッサンをして本人の許可なく応募して。これが部活動と言えるのですか?」
ホント、傍から聞いてたらどんな部活なのか全然わからんね……実際部活動している私も全然わからんけど。
「……立花マコさん」
「ふぇ?あ、はい……なんでしょうか生徒会長さん?」
「貴女は……この部活に入って、本当に満足しているのですか?不満はないのですか?」
生徒会長さんに唐突にそんな事を言われて戸惑う私。ええっと……不満、不満か……
「意地悪を言っているわけじゃないのです。ただ……やはり、生徒会長としては不安なのです。もしや貴女は……不本意のまま、この部に所属しているのではないですか?聞けば無断で写真を撮られたりその写真を出版されたり、愛でるという建前の元で頭のおかしなことを要求されたり。こんなの、まるで虐められているみたいじゃないですか。本当は……この部に所属しているのが嫌なのではありませんか?」
「う……」
ぜんぶを否定出来ないのが辛いところだ。
「もしも本心からこの部に所属したいと思っていないのであれば、我慢の必要はありません。遠慮せず私に相談してください。私が生徒会長として学校に働きかけて、貴女を自由にしてさしあげますから」
優しく諭すように私にそう声かけてくれる生徒会長さん。まあ今の皆の活動報告を聞いていれば、心配されるのも無理は無いだろう。優しいなぁ生徒会長さんは。
「例えこの部活を辞めることになっても問題ありません。貴女には貴女のもっとふさわしい場所がありますからね。私がちゃんとその場所を紹介しますから」
「へ?ふさわしい場所?」
どこだろう?無難に料理部とかかな?
「もしマコさんがマコラ部を辞めることになったなら」
「なったなら?」
「―――代わりに。生徒会に入ることをお勧めします」
「…………おっと?」
なんだろう、途中までイイ感じな雰囲気だったのに。なんかまたおかしな雰囲気を感じるぞ?
「中学時代、マコさんは生徒会に準ずる部活動をされていたと聞きました。貴女には人を惹きつける力があると見受けます。是非とも私と共にこの生徒会でその力を目一杯使い、共にこの学校を良きものとして行きましょう」
「え、えっと……」
「大丈夫。初めてで分からないこともいっぱいあるでしょうが……この私自らが手取り足取り色んなことを教えてあげます。マコさんならすぐに戦力になれますよ。ゆくゆくは私の後継として立派に活動できるはずです。さあ、一緒に頑張りましょう。ね?ね?」
眼鏡をクイっとあげながらその奥の熱烈な瞳で私を見据えてそう勧誘する生徒会長さん。その生徒会長さんから私を守るようにコマたちが立ちふさがる。
「馬脚を現しましたね!結局貴女も、マコ姉さまを狙っているだけではありませんか!」
「おかしいと思ったのよ!なーんで急にわたしたちの部だけ活動報告する必要があるのかってね!……あんた、マコをこの部から退部させてマコを自分のものにしたいと思ってこの活動報告の場を設けたんでしょう!?」
「んな……!?ひ、人聞きが悪いですよ貴女たち!ただ私は…………マコさんにはもっと彼女に見合う場所があるのではと思い、助言をしているだけで……別に他意はありません!そ、そりゃあ『毎日元気に挨拶してくれるこんな明るい子とお仕事出来たら楽しいだろうな』とか『困った時に手を差し伸べてくれたこんなに気遣い出来る子が私の傍に居てくれたらいいな』とか考えなかったわけではありませんけど……!」
ギャーギャーと口論し合うコマたちと生徒会長さん。えーっと……
「ねえヒメっち?これ、結局何が起こっているのかな?」
我関せずと言わんばかりにぼーっと私の隣で佇んでいたヒメっちに聞いてみる私。
「……見てわからない?」
「わかんない。教えて?」
「……マコ争奪戦番外編」
なるほどやっぱりわからん。
◇ ◇ ◇
―――それから一週間後。
「マコ姉さま。マコラ部の活動報告の結果が通知されましたよ。ご報告しますね」
「あ、うん……それで結局どうなったの?」
「厳正なる協議の結果ですが、前年度よりも部費が―――大幅に増えました」
「いや、なんでよ!?」
あの活動報告聞いて、どんな判断したらそうなるんだろうか……?
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