ダメ姉は、活動報告する(前編)

 以前どこかで話をしたかもしれないが。この私……立花マコが今現在通っている高校は、部活動が大変盛んである。


 学生の本分である学業を終え、放課後になるとみんな一斉に自分たちが所属する部へと足を運びそして部活動を満喫する。ある者は運動部でそれぞれに目標を掲げ、汗水を垂らしてその目標に向かい精一杯活動し。またある者は文化部で思い思いに創作をしたり表現する事に日々勤しんでいるのである。

 驚くべきことに強制されていないにも拘らず、実に9割以上の生徒が何かしらの部活動に所属している我が校。その例に漏れず、私も実はとある部活に所属している。


 愛しいマイスイートハニーであるコマと、大親友カナカナが一から立ち上げた……そう、その名も―――『立花マコを愛でる部活』通称、マコラ部に。


 ……はい、初見の方。そりゃ一体どんな部活だよ?とか。なんだよそのふざけたネーミングの部活は?とか。首を傾げたり呆れたことだと思う。常識を疑ったことだと思う。どうか安心してほしい。その感性は実に正常です。


 かく言う私もこれが一体何する部なのかよくわかってないけれど。部を作ったコマたち曰く、


『日々マコ姉さまの生活記録を綴ったり』

『マコの活動記録を写真に収めたり、マコをスケッチしたり』

『時に部員同士でマコ姉さまの良さを語り合ったり』

『時に部員同士でマコと触れ合ってみたりする部活』


 という活動を主にしているとの事。部活、部活ってなんだっけ……


 さてさてそんなツッコミどころ満載な我らがマコラ部だが―――本日この日、部活始まって以来の最大の危機を迎えていた。


「「―――抜き打ちで……活動報告が実施される?」」

「ええ。今日の放課後に。場所は生徒会室で執り行われるそうです」

「とりあえず部員全員と顧問を引き連れて来いってさ」


 ある日のお昼休み。いつも通り仲良しメンバーと楽しくお弁当を食べようといそいそお昼の準備をしていると。コマとカナカナが私とヒメっちに深刻そうな表情でそんな事を言ってきた。


「全く……面倒な話よね。抜き打ちってところが厭らしいわ」

「ええっと……活動報告って言うと……もしかしなくても私たちの例の部活について、どんな活動をしているのかをちゃんと説明しろって話で合ってるかな?」

「はい、その通りです姉さま。部活調査をさせてほしいとつい先ほど生徒会長さま直々に申し出がありまして」

「……それはまた随分急な話だね」

「なんでもわたしたちの愛すべきマコラ部が、一体どんな活動しているのかが傍から見たら不透明だからだそうよ。まあ、そりゃあ運動部みたいに目に見える・形に残る成績を残す事とか。そもそも成績じゃ図る事が出来ないのがうちの部活ではあるけれど……ホント失礼な話よね。ちゃんと活動理念も活動予定表も提出してるってのに、何が不透明だっていうのかしら」

「ですよねかなえさま……同感です。活動日誌も毎日欠かさず書いていますから、それを見ればちゃんとどんな部活かわかるはずなのですが……」


 ため息を吐くコマと憤慨しているカナカナだけど……まだ見ぬ生徒会長さんの言う事はもっともだと思う。だってコマたちの手により設立、そして(半ば強制)入部してから今日に至るまで。私たち碌な活動していないもの。部活の名前にも含まれている張本人の私でさえも、一体全体何の活動をすりゃいいのか未だによくわかっていないのが現状だもの。いつも放課後は仲良しメンバーで適当に集まって、だらだらしたりゴロゴロしたりふつーに遊んだりしてるだけだし。

 つーか。寧ろ今の今までよくぞ野放しにして貰えたなって思う。なんだよ立花マコを愛でる部活って。意味不明すぎるわ……


「……で?その活動報告が上手くいかなかったら具体的にはどうなるの?」

「生徒会と先生方で審議が行われ、下手をすると部費が来年度から減る可能性もあるとの事です」

「ただでさえ少ない部費を更に減らすとか鬼よ、悪魔よ。生徒会も学園も情というものがないのかしらね。わたしたちの活動を知らないから簡単に『部費減額』だなんて軽々しく言えるのよ。マコのメンテナンスするのだって決して安くはないっていうのに……」

「カナカナや?私のメンテナンスってなんなのか説明して貰おうか?私はこの部の備品か何かか?ん?」


 というか、どれだけ少なくても部費を学校側から貰ってたことに対して私は驚きだよ……よくこんな実績も何もないめちゃくちゃ怪しげな部活にお金を出してくれましたね偉い人たち……


「部費が減らされるだけならまだいいのです。活動する価値無しと判断されたりでもすれば……他の部活と統合……同好会へクラスチェンジ……最悪の場合、廃部となる事だって……」

「こ、コマ……?」


 悔しそうに口をキュッと結ぶコマ。手をワナワナと震わせ、目を見開き、眼前の私たちにマコラ部の部長として魂の叫びを震わせ呼びかけ始めた。


「皆さま。これは、実に由々しき事態です。伝統ある私たちのマコラ部が、廃部になってしまうなど絶対にあってはなりません」

「……伝統、あるのマコ?」

「私に聞くなヒメっち」


 ちなみに余談だが、この部活は設立してまだ一年も経っていない。


「もしもそのような事にでもなれば……この部の成立者にして、名誉会長であるマコ姉さまに私はなんと詫びればいいのやら……」

「いや、あのコマさん待って?ちょっと待って?」

「そうよね……思い入れのあるこの部活が廃部にされてしまったら、マコがどれだけ悲しむことか……考えただけで胸が張り裂けそうになるわ」

「カナカナも待て、待って?」


 この部活を成立させたのはコマとカナカナの二人であって間違っても設立者は私ではない。名誉会長になった覚えもない。思い入れもなにもない。詫びられてもマジで困るぞ。


「今こそこれまで部活を通して培ってきた知識と経験、そしてマコ姉さまへの愛を胸に!この危機を、部員全員が一丸となり!必ずや乗り越えていこうではありませんか!」

「コマちゃんもたまには良い事言うじゃない!ええ、そのとおりよ!絶対に……この部を廃部にさせてたまるもんですか!」

「「……」」


 互いに拳と拳をぶつけ合い、激しく闘志を燃やすコマとカナカナ。普段の二人はとても聡明で惚れ惚れするくらい凛々しい素敵な女性たちなのに。ああ、どうして二人とも変なところで暴走するんだ……?


「……そんで。どーするのマコ?」

「……いや、どうもこうも。私的には正直この意味の分からない部活がどうなろうと構わないし……いっそのことこの件は放置しちゃ……ダメかな?」


 盛り上がってる二人をよそに。こそこそとヒメっちに相談する私。ヒメっちは難しい顔でこう答える。


「……私もマコと同じくどうでも良いんだけど……でもねマコ。コマとカナー、この二人を放っておいたらダメだと思う」

「ほほぅ、その心はヒメっち?」

「……下手しなくてもこの調子だとこの二人、生徒会と学校に戦争吹っ掛けかねない。実力行使に打って出かねない。最悪流血沙汰になる」

「…………だよねぇ。……嫌な予感しかしないけど……ストッパー役として、一緒に行かなきゃダメだよねぇ……」

「……骨は拾ってやる。一応私も付いて行くから頑張れマコ」


 ありがとヒメっち……がんばる……

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