ダメ姉は、アルバイトする(その7)
慣れない接客をしたりコマをナンパしやがった野郎共を半殺しにしたりと。あれやこれやのてんてこ舞いなお昼時がどうにかこうにか過ぎ去って。
「んー……さっきのドタバタが嘘みたいに暇になったねコマ」
「ですねぇ。まあ、一番のピークを乗り切りましたからね」
ようやくお客さんの出入りが落ち着いてきた。ホール内にはお客さんは2,3組程度だし。見える範囲のホールの清掃も終わった。手持ち無沙汰になりコマと雑談する余裕すら出てきたほどだ。
『おーい店員さーん♪注文お願いしていいかなー?』
「あ、はいっ!ただいま!」
などと油断した矢先にお客さんに呼び止められる私。おっとっと……いかんね。多少暇だからって仕事中であることには変わりない。常に気を引き締めておかないと。
「お待たせしました、ご注文をどうぞ!」
「んーとね。パンケーキでしょ、それから紅茶でしょ」
「はい」
「あとは……店員さんとのツーショットが欲しいな♡」
「はいわかりまし―――はい?」
……ツーショット?
「ほらほら、それくらい良いでしょ?一枚だけだから、ね?」
「え、ええっと……」
お客さんであるOL風のお姉さんにそんな事を言われる私。……ツーショットとか、メニュー表には当然載ってはいないんだけどなぁ……
まただ。もしかして私、お客さんにからかわれているのか?ついさっきも別のお客さんから、
『店員さん、店員さん。このパフェとっても美味しいわ』
『本当ですか?ありがとうございます!そう言って貰えると嬉しいです!』
『ねえねえ。美味しいしさ、折角だしお姉さんと一緒に食べない?』
『ふぇ?……い、いえあの……し、仕事中ですので……それに、お客さんの買った物を食べるわけには……』
『だいじょーぶ。お客である私が良いって言ってるんだから良いの良いの。ほら、一口だけでも良いからさ。はい、あーん♪』
なんて。あーんをさせられそうになったりしたし。別に悪意とか感じないから虐めとかではないとは思うけど、正直対応に困る……
まあ店長さんにその事を相談したら『マコちゃんがそれだけ可愛いって事ね!無理難題じゃなかったら、お客さんの言うとおりにしてあげて頂戴な♪』って言われてるわけだから……言われた通りにすればいいんだろうけど。
「ほら早くー。お姉さんの隣座って。にっこり笑ってねー」
「あ、あの……じゃ、じゃあ失礼して……」
「―――姉さまお疲れ様でした。一旦姉さまは休憩しておいてください。ここは私が対応します」
「あっ……コマ」
そう思っていた矢先。コマが突然私とお客さんの間に割り込んで。そしてそんな事を言い出した。
「良いの?私まだ接客中なんだけど……」
「うふふ。良いのです。休める時にしっかりと休んでおくのも必要ですからね。ほら、早く休んでくださいませ」
「う、うんわかった……そ、それじゃあお客さん……ごめんなさい、私は失礼します」
コマに追い出されるような形でカウンターへ戻される私。……フォローの達人のコマの事だ。きっとお客さんへの対応に手間取っている私を見ていられなくなって助け舟を出してくれたんだろう。
ゴメンねコマ……少し休んだら、今度はちゃんと私もやるからね……!
『それではお客さま。代わりまして私が応対させて頂きます。……よろしいですね?』
『え、ええー……あのカワイコちゃんが良かったのにぃ……うぅ。ま、まあこっちもこっちで超絶美人さんだしいっか……な、ならさっきの注文通りパンケーキと紅茶。それに店員さんとのツーショットをお願いね』
『畏まりました。ご注文を繰り返します。パンケーキと紅茶、この二つでお間違いありませんね』
『ツーショットは!?』
『在庫を切らしております。それでは少々お待ちください』
『そ、そんなぁ……』
私に代わったコマは、見事なまでにきびきびとお客さんの対応をしてくれている。上手いなぁ……なるほど、あんな感じですればいいのか……今度同じようなお客さんと当たったら私も真似してみよう。
カランコロン♪
なんて感心していると。軽快なカウベルの音が鳴り響き、次のお客さんが来てくれた。扉近くにいたコマはくるりと身体をそちらに向けて、
「いらっしゃいませお客さ―――」
「せんぱい、せんぱい!マコせんぱーい!遊びに来ましたよー!」
「やっほーマコ。頑張ってる?なんかバイト始めたらしいじゃない―――」
ばたんっ!
そしてその扉を即閉めて、ついでに【本日休業】の看板を掛ける。…………あれ?
「あ、あのコマ……今お客さんが……」
「……うふふ。マコ姉さま?何を仰っているのです?私は何も見えませんでしたよ」
「つーか、なんかよく見知った二人だったような……」
「……うふふ。きっと気のせいですよ姉さま」
カランコロン♪
「ちょっと!入店して早々追い出すとか、この店の教育どうなってるのよ!」
「酷いです立花先輩!ま、まだあたしマコ先輩のお姿すら見てないんですけど!?」
「チッ……」
閉め出されたお客さん二人は扉を蹴破る勢いで再び入店する。というか……やっぱりこの二人……
「か、カナカナにレンちゃん……?」
「あらマコ♡改めてやっほー。頑張ってる?その恰好もとっても素敵よ」
「マコ先輩こんにちは!遊びに来ちゃいましたよ!」
そのお客さん二人は、私の大親友であるカナカナと。そして私を慕う後輩のレンちゃんだった。あ、あれ?私……バイトするって事は二人には言ってなかったよね?な、何故ここでバイトしてるって分かったんだろう?
「ふふ、マコ?どうしたのよそんなに鳩が豆鉄砲を食ったようなカワイイ顔をして。お客さまの案内はしなくて良いのかしら?」
「あっ……う、うんごめん―――じゃないや。はいすみません!え、ええっと……二名さまでよろしかったでしょうか?」
「すみませんマコ先輩、二名じゃなくて三名です。後の一人は遅れてくるらしくて」
ふむふむ3人か……もう一人は誰だろう?ええっと、とりあえず3人でも座れる4人掛けの席に案内したほうが良いかな?
そう脳内でシミュレーションしていると、コマがさっきみたいに私とカナカナたちとの間に割って入り。そして何故か頭を下げる。
「……お客さま方。申し訳ございません、ただいま店内込み合っております。そう言うわけですので今すぐお帰りくださいませ」
「嘘おっしゃいコマちゃん。どう見てもガラガラじゃないの」
「……申し訳ございません。ありとあらゆる在庫を切らしておりますのでお品物を用意できません。今すぐお帰りくださいませ」
「なんなら水だけでも良いですあたし!」
「……もう何でも良いからとっととお帰りくださいませお客さま。マコ姉さまに近づかないでくださいませ」
「言い繕う気すらなくなってるわよコマちゃん」
あの手この手で二人を追い返そうとするコマ。カナカナたちも負けじと意地でも帰る気はないらしい。
「全く……コマちゃん。お客様は神様なのよ?そんな態度で良いのかしら?」
「将来を誓い合った私の姉さまにしつこく付きまとうお客など神でもなんでもありません。ただのストーカーです。お客じゃありませんのですぐにお帰りください」
「……言うじゃないの。表に出なさいなコマちゃん」
「……上等ですよ。ここで決着付けさせてもらおうじゃありませんか」
バチバチと火花を散らせ戦闘態勢に移行しようとする二人。あ、これはあかん……
「す、ストップ!ストップだよ二人とも!?こんなところで喧嘩しちゃダメだって!ねえコマ、ここには他のお客さまがいるでしょ?その皆さんに迷惑かけちゃダメだよ。ね?」
「う……そ、それはそうですけど……」
『おーい、コマちゃーん?さっきのお客さんの注文出来たわよー。運んでもらって良いかしらー?』
「ほ、ホラ!店長さんも呼んでるよ!ここは私に任せて!ね!」
「ぐぅ……い、一分で戻ります!妙な事をその二人にされたら、すぐに叫んで助けを呼んでくださいね!?」
そう言ってコマは疾風のように店内を駆け、料理を運びに行く。その隙に私は二人を席に案内する事に。
「いきなり来たから驚いたよ。……私、バイトするって皆には言ってなかったよね?どうしてここがわかったの?」
「「愛の力よ(です)」」
二人は笑い、そう重ねるように答えてくれる。愛凄いな……
「まあ、愛云々は冗談だけどね。たまたまSNS見てたらカワイイウエイトレスがバイトしてるって話題になっててさ」
「マコ先輩以上にカワイイ人なんていないハズなのにって思いながらその動画を見て見たら、そのマコ先輩が何故か映ってるじゃないですか!あたしビックリでしたよ!」
「あー……ハイハイ。例の動画ね……」
知り合い達にまで見られているのか……恥ずかしいったらありゃしないわ……
「ま、まあいっか。それよりもお客さま。ご注文はお決まりでしょうか?」
とりあえず気を取り直してウエイトレスの仕事に戻るとしよう。注文票を片手に二人にそう尋ねてみる。
「あ……じゃ、じゃあマコ先輩……あたし、欲しいモノ……あるんですけど」
「はい、承ります。ご注文をどうぞ」
「す……スマイル、ください……ッ!」
「……」
レンちゃん?それメニュー表に載ってる売りものじゃないんだけど……
「え、ええっと……」
「(ドキドキドキ)……」
「あー……」
何かの冗談かと思ったけれど。レンちゃんは期待に満ちた顔で私をじーっと見つめてくる。……とりあえず、ここはお客さんの言われた通りに笑えば良いのか?
「……え、えへへ♡」
「ッ~~~~~!ふ、ふわぁああああ!!!」
ニッコリ笑顔で注文に応えてみる私。するとレンちゃんはひとしきり悶えてから、
「…………どうか、何も言わず。これ……持って行ってください先輩……」
「…………待って、まってレンちゃん。どうしてそこでスッ……万札を出すの?どうして諭吉さんを5人私に差し出してくるの?」
5万円を私にそっと手渡してくる。いやあの、何やってんのレンちゃんや……!?
「ったく……柊木。アンタなにをやっているのよ」
「そ、そうだよカナカナ。もっと言ってやって」
「その程度のはした金で、足りると思ってるの?」
「オメーも待てや親友!?」
カナカナも一体何言ってんの……!?
「く……わ、分かっています叶井先輩。でも持ち合わせがこれくらいしかなくて……」
「バカねぇ……マコがウエイトレスやってるって分かった時点で、それなりのお金を用意しておきなさいよね」
「君たち?なんで笑っただけで金額が発生しているのか不思議に思う私がおかしいのかなコレ?スマイル0円だよ普通に……?」
「???何言ってるのよマコ。マコのスマイルは100万円以上の価値があるわよ」
ちょっと笑っただけで数百万飛ぶとか、ここどこのぼったくりバーだよ!?
「レンちゃん……この5万は返ししておくからね……もっと有益な事に使いなさい」
「えっ……十分有益じゃないですか。推しにお布施するのは有益な事だってお母さんも言ってましたよ?」
「お母さん娘さんに何教えてんですかね!?…………あー、もういいや。とりあえずレンちゃんはスマイル以外の注文を考えておいて。後から聞くから。カナカナはもう注文決まった?」
話が進まないし、レンちゃんの注文は後から聞くことにして。今度はカナカナの注文を聞くことにしよう。
「んー、そうねぇ。じゃあこのシューケーキを一つ。あとレモンティーを一つ」
「はい、シューケーキをお一つにレモンティーをお一つですね」
意外な事に注文自体は普通に頼んでくれるカナカナ。うんうん。そうだよ。これだよこれ!こういう応対がしたかったんだよ!
「他にご注文はありませんか?」
「あ、注文の前に聞いておきたいんだけどさマコ。このお店って持ち帰りとかってできるの?」
「それは勿論出来るよ―――じゃない、出来ますよお客さん。お帰りの際、袋に詰めてお渡しします」
「ありがと、じゃあ折角だし持ち帰りも頼もうかしら」
「わかりました。それではどの商品をお持ち帰りされますか?」
そう尋ねるとカナカナは、とってもにこやかな笑みを浮かべてこう答える。
「持ち帰りは……マコ、アンタで♡」
「非売品でございます……」
「安心して。言い値で買うわよ」
「だから非売品だってば……」
ええい!絶対言うと思ってたわ!悪いけど持ち帰り出来るかを聞かれた時点で、先が読めたわ此畜生!?案の定カナカナはカナカナだったよ!?
「やれやれ仕方ないわ。マコは帰る時にセルフサービスで袋に詰めて持ち帰るとして」
「淡々と人の拉致計画を口に出さないでくれないかなカナカナ。怖いから」
「それにしてもちょっと意外だったわね。マコの事だし、てっきり厨房でバリバリ調理しているとばかり思ってたわわたし」
「あ、それはあたしも思いました。先輩ってお料理上手ですからね」
二人は不思議そうにそう尋ねる。まあ、普通はそう思うよね。私、ドジで覚え悪いから接客とか向いてないわけだし。
「二人の言う通りだよ。実言うとさ、ウエイトレス始めたのはほんの1,2時間前からなんだ」
「え、そうなの?じゃあ最初からウエイトレスやってたわけじゃないのね」
「と言う事は……もしかして、その前は先輩って……」
「うん、そう。二人のお察しの通り……厨房でバリバリと料理してたよー」
カランコロン♪
なんて、そんな発言をしたタイミングでカウベルが鳴り。新しいお客さんがやって来る。
「―――マコさん。今の話……本当ですか……?」
「へ……?あ、あれ!?か、和味せんせー……!?」
そこにいたのは私の尊敬する料理の師。清野和味先生だった。
「あ、先生やっと来たんですね」
「今ちょうど注文をマコ先輩に取って貰ってたんですよ!」
カナカナとレンちゃんが手を振って和味先生を出迎える。あれ……もしかして遅れてくるって言ってたのって先生の事だったのか。
そんな事を考えている間にも。先生は他の誰にも見向きせず。ただ私につかつかと詰め寄って。ガシッと肩を掴んで凄い剣幕でこう問いかけてきた。
「マコさん、マコさん……!今の話、本当なのですか……!?嘘ですよね!?嘘と言ってくださいお願いします……!?」
「え、えっ?あの……せんせー?何の話を……」
「ウエイトレスをやる前に、厨房で料理をしていたって……本当なのですか!?」
先生は何をそんなに青ざめた顔で聞いてくるんだ……?
「は、はい……ホントですよ?ウエイトレスやる前にしばらくここで料理してましたけど……それがどうかしましたか?」
「あぁ……!そんなぁ……」
私のその一言に、先生は崩れ落ちる。その瞳からは一筋の涙がこぼれてきた。えっ!?な、なんで先生泣いてるの!?わ、私が泣かせたの!?
「せ、先生!?だ、大丈夫ですか!?どうしたんですか!?」
「夢が、あったんです……」
心配する私をよそに、先生は崩れ落ちたまま何かを語りだす。
「卒業までに……マコさんに……私の技術全てを受け継がせて……そして、マコさんの卒業と同時に……長年の夢だった、日本料理店を開いて……そこで免許皆伝したマコさんと二人で……切り盛りする…………そうです……それが私の夢でした。夢だったのに……」
「せ、先生?」
そんな将来設計、当事者である私は全く知らんのですけど……?
「マコさんが初めて就職するお店は……私のお店と決めていましたのに。マコさんが初めて就職したお店で……初めて料理を作るのは私のお店と決めていましたのに…………それなのに、それなのに……!この場所で、師である私に内緒で……マコさんは料理をしたんですか……?ここで、マコさんの初めては奪われたと……?」
初めて奪われたとか、すっごい誤解のある言い方止めてくれませんかね先生?
「そんな、そんなの……あんまりです……ひどい、酷い……ッ!」
「あ、あの……先生?落ち着いて―――」
「マコさんの初めては、私が頂くはずでしたのにぃいいいいいい!!!?」
「先生、何言ってんですか先生!?」
店中に先生の慟哭が響き渡る。や、止めて!?なんかおかしな誤解が生まれちゃう!?他のお客さんたちから変な目で見られちゃう!?
「ダウト!ダウトです!こんなところで姉さまの初めてが奪われるはずありません!姉さまの初めてなら、私がすでに貰っていますから!」
「コマもややこしくなるような事、大声で言わないで!?」
おまけに接客を終えたコマが飛んできて、先生に対抗するようにそんな事を言い出したから収拾がつかない。
「せ、先輩……後日お金は倍払いますから……もう一回、もう一回だけスマイルくれませんか……?で、出来ればウエイトレスじゃなくてウエイターの格好をして貰えると嬉しいです……」
「マコ、この店って裏メニュー的なモノはないの?店員さん指名して付きっ切りで接客して貰ったり、店員さんと口移して食べ合いっこしたり、店員さんを食べたりとかできないの?」
「あくまで……あくまでバイトならまだセーフのハズ……!マコさん、絶対に……絶対に正式に就職する時は私に連絡してください!今度こそ、マコさんの初めて(の就職先)は私のモノに……!」
「全員、今すぐお帰りください!マコ姉さまにいやらしい注文しないでください!姉さまを自由にしていいのは、他でもないこの私だけなんですから……!」
真昼間から大声で、アウトな発言が飛び交う喫茶店。これ、下手したら通報モノなのでは―――
「…………あの、ちょっとよろしいでしょうか」
「「「「えっ?」」」」
と、不意に私の背中越しにそう声をかけてくる女の人が現れる。
「先ほどの件、立花さんや店長さんに事情聴取をしたくてまた立ち寄らせて貰ったんですが……」
「……あ。さ、さっきの……婦警さん……?」
振り返ると、そこにはさっきコマにちょっかいを出しやがったナンパ野郎共を引き取ってくれた婦警さんが立っていた。
「少々皆さんの言動が気になって、しばらく立花さんと貴女方の様子を見させてもらいました。そしてよーくわかりました」
んんん?私たちの様子を見させてもらったとな?ええっと、それってもしかして―――
私に大金を差し出してたレンちゃんとか。私にお持ち帰りを強要するカナカナとか。私の初めて(※エロい意味では非ず)を欲しがる先生とか。私の初めて(※エロい意味で合ってる)を貰ったと宣言するコマとか。
そういう諸々を見られていたって事か。ふむふむ。…………つまり。
「なるほど、事案ですね。児童福祉法違反の容疑で、皆さんに少しお話が」
……役満だコレ。
この後、婦警さんの誤解を解くのに1時間近くかかったことだけ告げておく。いや、ホント……違うんです婦警さん……
◇ ◇ ◇
「―――で?結局、お前らは途中でナンパをとっ捕まえたり婦警に誤解を解くのに時間がかかって。思っていたほど稼げなかった、と?」
「……うん」
「そうなりますね」
「ふーん。まあ、いい経験だったんじゃねーの?次また頑張ればいいさ」
数時間後。めい子叔母さんに今回のアルバイト体験の報告をした私とコマ。あの後婦警さんにナンパとのアレコレに関する事情聴取も受けたから。その時点でアルバイトはタイムアップとなってしまった。
仕事とは関係ないところで無駄に時間を食ってしまったから、店長さんには悪い事しちゃったなぁ……なんかぶっちゃけ碌に働けなかった気がする……
「まあ、店長さまには『売れ行きはいつも以上だったし、厨房のアキちゃんもまた手伝ってほしいって言ってたし。何よりお客さまたちが大満足してくれたから……是非ともマコちゃんたちに次もバイトを頼みたいわぁ』と言って貰えましたけどね」
「あ、そうなの?それはありがたいね」
あれだけ大暴れしたというのに、また採用してくれるのはありがたい。……ありがたいけど。まあ、しばらくはアルバイトするのはやめておこう。色々と疲れたわ……
「ところで姉さま?最後に一つ聞いておきたいことがあるのですが」
「へ?なになに?何でも聞いてコマ」
「もう一度だけ聞きますが。姉さまはどうしてアルバイトをしたいと思ったのですか?アルバイト自体に興味があった―――だけじゃないでしょう?姉妹ですもの。姉さまが何か隠し事をしていることくらいは、分かりますよ私」
「うっ……」
改めてコマに今回私がバイトをしようと考えた理由を問いかけられる私。……どうしよう。最大の目的はコマへのプレゼントの軍資金にするために始めたバイトだったんだけど……結局あんまり稼げなかったし。プレゼントも何を買うか全然決めきれなかったし……
「姉さまが言いたくないのであれば無理には聞きません。でも……」
「で、でも?」
「でも、やっぱり……隠し事されるのは寂しいです」
「え、あっ……ち、違うの!コマに寂しい思いをさせたくて隠し事してたわけじゃないの!?誤解なの!」
本気で寂しそうにコマはそう告げる。その顔を見た瞬間、私はあわてて正直にバイトを始めた本当の理由を打ち明けることに。
「―――なるほど。恋人記念のプレゼントを買うためにバイトを……」
「う、うん……そうなの……コマに喜んでほしくて……」
「そうでしたか……そうだったのですか……」
でも結局プレゼントは用意できていないけどね……ダメなお姉ちゃんでごめんコマ……
打ち明けて、そして俯く私を前に。コマはくすっと笑みを浮かべ。そして優しく私を抱きしめる。
「そんなの、気にしなくて良かったのに」
「こ、コマ?」
「私はですね、姉さま。どんなプレゼントよりも。姉さまと共に過ごせる時間が何よりも嬉しいんです。そういう意味では、私はすでにプレゼントをもらっています」
「え、嘘……私何もプレゼント出来てないよ……?」
コマの胸の中で首を傾げる私。そんな私に対して、コマはふふふと笑ってこう返す。
「十分すぎるくらい貰っています。……姉さまと一緒に、楽しくアルバイト出来たという。最高のプレゼントを頂きましたよ」
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