ダメ姉は、アルバイトする(その1)
「―――うーむ……これも違う、あれも違う……むむむ……」
身を焦がすような暑い夏がいつの間にやら過ぎ去り。秋は仕事を碌にしないままどんどん寒さが増していき。気づけば冬を間近に控えた11月を迎えた今日この頃。私、ダメ姉こと立花マコは心底悩んでいた。
「記念日のプレゼント……一体どーしたもんかなぁ」
11月某日―――その日は私にとっても、らぶりーでぷりちーな双子の妹コマにとっても大切な記念日がある。紆余曲折ありながらも、互いに想いをぶつけ合い。そして気持ちを通じ合わせて……恋人へとなった大切で特別な記念日。
そう、恋人記念日だ。
「やれやれ、これ毎年悩むんだよなぁ……」
そんな大切な記念日を盛大に祝うべく。私みたいな駄姉を好きになってくれたお礼と大好きの気持ちを込めて……私はコマに毎年色んなプレゼントを贈っている。アクセサリーだったり服だったり香水だったり。手を変え品を変えそれはもう色々と。
今年もまた例年通り、一体コマに何をプレゼントしてあげれば喜んでくれるのか……一生懸命無い頭をフル回転させて、数か月前から贈り物について考えているわけだけど。
「……ねーねー。夢中になって悩んでいるところ悪いんだけどマコさんや」
「ん……?何かなヒメっちさんや?なんかよさげな物あったのかな?」
「……いやそうじゃなくてだね。……もう、閉店時間ギリギリなんだけど。そろそろ出ないと流石にお店の人に悪いと思う」
「え…………うぇ!?嘘!?も、もうこんな時間!?す、すみません失礼しました……ッ!」
プレゼント選びに付き合ってくれていた親友、ヒメっちに言われてハッとする。夢中になってプレゼントを選んでて気づかなかったけど、もうすでに雑貨屋さんの閉店時間になっていた……というか、すでに閉店時間を数分過ぎていたみたいだ。
慌てて店員さんに平謝りし、ヒメっちを連れて店を出る私。
「うー、収穫今日も無し。……すまんヒメっち。こんな時間になるまで付き合わせて。しかも結局まだプレゼントらしいプレゼントを決めきれてないし……」
「……それはだいじょーぶ。気にするな。私も、来月丁度母さんにプレゼントをしたいって思ってたわけだし。いい下見になってる」
11月に入っても未だコマへの決定的なプレゼントを決めきれず。困った挙句に親友であるヒメっちに助けを請い、プレゼント選びを手伝って貰っている。
そんなわけで放課後になるとヒメっちを色んなお店に連れまわし、あれはどうかこれはどうかと色々助言は貰っているけれど……それでもなかなかこれというプレゼントに出会えていないのが現状だ。
「……それよりも……マコこそだいじょーぶ?」
「へ?大丈夫って、何が?」
「……顔色、あんまり良くない。プレゼント選びに熱中し過ぎて、ぜんぜん眠れていないんでしょ?」
「あー……うん、そっちは大丈夫。だいじょうぶ……」
ホントはあんまり大丈夫じゃないんだけどね。寝る時間も惜しんで夜中もコマに隠れて通販サイトとか色々見てプレゼントを探しているけれど、こちらもイマイチ。
記念日まであと数週間。もう時間がないっていうのに……
「……プレゼントの事でそんな神経擦り減るまで悩まなくても、コマならマコからのプレゼントってだけで無条件に喜ぶと思うんだけど。なんならその辺に落ちてるゴミでも『姉さまから頂いたゴミ……!一生大事にしますね……!』とか言って喜ぶんじゃない?」
「はっはっは。じゃあ逆に聞くがねヒメっちよ。君が私の立場だったらそんな無責任な事、本当にできるのかね?例えば―――君の愛するおかーさんのお誕生日に。ゴミを贈ってそれで君は満足するのかね?」
「適当な事言ってマジごめんなさい」
わかれば宜しい。
「……まあゴミ云々はさておき。これは本気で言ってるんだけど……あんまし奇をてらおうとしなくても、マコの本気で心を込めたプレゼントならどんなものでもコマは嬉しいと思うよきっと。それだけは、絶対間違いないはず」
「ん……それは、うん。コマならきっとそう言うし。そう思ってくれてると思う」
ヒメっちの言う通り。コマなら私からの贈り物と言うだけでどんなものだって喜んでくれるだろう。プレゼントに込めた私の気持ちをちゃんと分かってくれるだろう。
だから今悩んでるのは……単純に私の気持ちの問題なんだよね。一昨年よりも、去年よりも。コマにいっぱい喜んでほしい!コマが笑顔になるところを見せてほしい!っていう私のワガママ。
「なーんかどれもこれもしっくりこないんだよね。コマが、そして自分が。これだっ!って納得する、そんな逸品……どっかにないかなぁ……」
「……ふむふむ。しっくりこない、ね。なるほど…………ねぇマコ」
「何かなヒメっち」
「……ここはいっそ。視点を変えてみたら?」
「へ?」
と、嘆息する私に対し。ヒメっちは突然そんな事をポツリと呟き出す。
「……どんな物を贈るか、じゃなくて。どんな手段で得たのか。それに注目してみたらどうかな」
「ゴメン、言ってる事がよくわかんない。どうゆう事か詳しく説明お願いヒメっち」
「……例えばさ。今までマコがコマに贈ってきたプレゼントって……ぶっちゃけアレだよね?マコのお小遣いから買った物でしょ?」
「あ、ああうん……それはまあそうだね」
恋人記念日に贈ったプレゼントは勿論。誕生日プレゼントも、そのほかの記念日とかイベントでコマにプレゼントしてきたのは確かに自分のお小遣いから出した物だ。間違ってもコマから奢って貰った物とか貢いで貰った物ではない。
「……勿論お小遣いなわけだしさ。それはマコに与えられた、正真正銘正当なマコのお金だよね」
「う、うん……」
「……でも、それはマコのお金だけど……マコが稼いだお金ってわけでもないよね」
「……!」
ヒメっちにそうハッキリと言われて。瞬間、自分の中に衝撃が駆け巡った。
「……しっくりこないのはそれが原因かもよ。やっぱり自分で汗水垂らして働いたお金ってわけじゃないから、だからどんなに良いモノを見繕っても『こんなんじゃダメだ』って思っちゃっているのかも」
「な、なるほどそれは一理ある……!」
確かに。いくらプレゼント代は自分のお小遣いを使っているとはいえ。それは保護者であるめい子叔母さんから貰ったお金で買った物。自分が働いて稼いだお金を使ったってわけじゃない。
どれだけ私がコマを愛し、コマを想ってプレゼントを選んでも。やっぱり他人が稼いだお金で買った物と自分自身で稼いだお金で買った物。一体どちらが真に心が込められているのか考えたら……後者の方がより心が込められていると考えるのが当然だろう。
「……仮に。仮にだけど。自分でお金を稼げたなら、改めてちゃんとしっくりした物が見つかるかもよ」
「うん……それは確かにそうかもね。とはいえ、そういう機会を得るのは当分先の事になっちゃうだろうけど……」
残念ながら社会人どころか。私はまだまだ学生だしなぁ……
「……そこで一つマコに提案なんだけど」
「ん?提案?」
「……折角私たち、中学生から高校生になったわけだしさ」
と。私がヒメっちの言葉に感銘を受けている中。そのヒメっちは畳みかけるように私に一枚の紙きれを手渡して、こう続けた。
「……私と。バイト、してみない?」
それはまさに、天啓だった。
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