ダメ姉は、妹を避ける(前編)

 ~SIDE:コマ~



「―――捻挫、無事に完治できてよかったですね姉さま。もう痛みや違和感はありませんか?大丈夫ですか?」

「う、うん。コマさまに―――コホン。コマに色々と……その。お世話をして貰ったお陰で、ちゃんと治ったよ。その節はどうもありがとう……ゴザイマス……あはは……」

「……あの、姉さま?」

「(ビクッ)な、ナニカナコマさま!?」

「どうして引き攣った笑顔を浮かべながら私から目を背けているのです?それに……どうして姉さまは私から微妙に距離を取っているのでしょうか?」

「き、ききき……気のせいじゃ、ないかな……!?ど、どどど……どうしてこの私が、愛しいコマを避ける必要があるのかしらん……!?」

「そう、ですよね……気のせいですよね。姉さまが私を避けるだなんて」

「う、うんそう!気のせい!気のせい……ハハハ……」

「……」

「……」

「(スッ……)」←マコに近づくコマ

「(スッ……)」←コマから離れるマコ

「…………」

「…………」



 ◇ ◇ ◇



「…………うぅぅ……」

「……おーい。顔面蒼白っていうか……今にも死にかけてる顔してるけど、大丈夫なのコマ?」

「…………ヒメさま、愚かな私をどうかお助けくださいませんか……?」


 ある日の昼休み。私の一番の頼れる親友、ヒメさまにそう泣きついた私……立花コマ。相談内容はというと―――


「……一体何があったの?」

「…………実は、その……今まさに……マコ姉さまに、避けられていまして……」

「……は?」


 ここ最近。私の生きる意味にして、希望。世界一の我が姉マコ姉さまから……とてもよそよそしい態度を取られている私。目を合わせてくれなかったり。いつもは積極的にしてくれるスキンシップが9割減したり。距離を取られてしまったり。あまつさえ、キスする時間も短くなってしまっていて……

 平たく言えば、私……マコ姉さまに避けられてしまっているのです……


「……避けられてる?コマが、マコに?」

「…………はい」

「……あの超絶シスコン暴走娘のマコが……妹のコマを避ける?」


 心底信じられないと言った表情のヒメさま。まあ、あのマコ姉さまが私を避けるだなんて余程の事がない限りあり得ないことですからそのように驚かれるのも無理は無い事ですが……


「……一体何があったって言うのさ」

「…………原因は分かっています。実はですね―――」


 遡ること2週間前の出来事です。姉さまとのラブラブデートの最中に、隙をつかれて盗撮犯に下着を盗撮されてしまった私。その事に大激怒した姉さまは……盗撮犯を追いかけ捕まえて、その代償として手と足を捻挫してしまいました。

 警察や被害者である女性たちから褒められていましたが……一歩間違えたら事件に巻き込まれていたかもしれません。相手が刃物を持っていたりでもしたら、返り討ちに遭っていたのかもしれません。そうじゃなくても階段から飛び降りて盗撮犯に蹴りを浴びせるなんて……捻挫で済んだから良かったものの、最悪頭から落ちて取り返しのつかないことになっていた恐れだって―――


 そう思うと、とても怖くなって。そして考えなしに飛び出して私の忠告を聞いてくれなかった姉さまには……ちょっと……いえ、非常にオコだった私。


「まあ、すべて私の為にやった行動でしたので。姉さまを怒るに怒れなくて……それで結局説教とは違う形で、いくら言っても自分を大事にしない姉さまへオシオキを兼ねて……ある事をしちゃいまして」

「……ある事?」

「手と足が使えない姉さまに。お世話と称してシモの世話を少々させて貰いました」

「(スッ……)」←コマから距離を取るヒメ

「ヒメさま?何故私から離れるのですかヒメさま?」


 おかしい。姉さまどころかヒメさまにまで避けられてる気がする……


「……流石にそれは。マコじゃなくても怒ると思う。何故にオシオキからそんな特殊プレイする流れになるのか分かんない私。変態行為もほどほどにした方が良いと思うよコマ」

「ち、違うんですよ誤解なんですよヒメさま!?決して姉さまを辱める事を目的としていたわけでは無いんです!?捻挫をしていた姉さまを介抱する目的もありましたし、ちゃんと半分くらいはオシオキのつもりで……」

「……あとの半分は?」

「趣味ですが?」

「……そういうとこだよコマ」


 心底呆れた顔のヒメさま。あらら……?余計にヒメさまから避けられていませんか私?


「……じゃあそれが原因でマコから避けられてるって事で良いのかな?」

「お、おそらくそうだと思います。……まあ、あと強いて言えば……シモの世話をしたあとに……少しだけ、イロイロとお楽しみ……しちゃったことも原因の一つかと」

「……イロイロって、一体どんなことをしたの?」

「ええっと……そうですね。例えば…………尿瓶で姉さまの尿をとったり。お風呂で漏らさせたり。あとオムツを使って赤ちゃんプレイを―――って、いやですねヒメさま。言わせないでくださいよ恥ずかしい」

「……恥ずかしいのは実の姉を辱めたコマの方だと思う」


 ……ごもっともです、はい。


「……なるほど。話を聞くに、マコからは怒るというよりも怯えられているっぽいね。つーか……こうなるって分かり切ってるのに。どうしてそんなオシオキという名の変態行為をマコに強要したのさ」

「…………や、やってる最中はテンション上がりっぱなしで気が付かなかったんですよぅ……全部が終わって。いわゆる……淑女タイムが始まったら……ちょーっとだけ、やりすぎたかなって……ふと我に返りまして……」

「……双子の姉を失禁させるプレイが……ちょっと?」


 …………やり過ぎた自覚はあります……


「……大体わかった。まあ、マコにも非はあるけど……やり過ぎたコマも悪いねそれは」

「デスヨネー…………そ、それでヒメさま。どうすれば姉さまと仲直りできると思いますか?どうしたらいつものように姉さまといちゃらぶ出来るようになると思いますか?」

「……んー。そうだねぇ」


 私と姉さまの理解者で共通の親友。とても聡明なヒメさまに知恵を借りる私。ヒメさまは腕組みをして考える素振りを見せます。


「……ありきたりな方法だけど。おべっかを使ったり物で釣って機嫌を取るとか」

「はい」

「……情に訴え泣き堕とすとか」

「はい」

「あとはすっぱり諦めて、わたしにマコを託すとか♡」

「帰ってくださいかなえさま」


 ありがたいアドバイスの最中に現れるかなえさまを足蹴にして追い払う私。何しに来たんですかあの人は……


「……あとはまあ。誠心誠意真摯な気持ちで謝る。やっぱこれに尽きると思うよ」

「やはり……それが一番ですよね。ありがとうございますヒメさま!善は急げと言いますし―――今から姉さまに謝罪をしてきます!」

「……ん。いってらっしゃい」


 頼れる友に後押しされ、私は姉さまのもとへを走ります。姉さまの居場所は常に愛の力発信機で丸わかり。ものの数分で姉さまのいる所へと辿り着きました。


「―――(ガチャ!)マコ姉さま!」

「ぴぃ!?こ、ここ……コマぁ!?」


 アポなしの突撃に目を白黒させる姉さま。


「ちょ……な、なんでこんなところにコマが……!?」

「姉さまのいるところに私がいます、私たちは一心同体なのですから」


 その姉さまの手を取って、間髪入れずに話しかけます。


「い、いや……出ていってよコマ……」

「ダメです。嫌です。……姉さま、お願いです。私の話を聞いてください」


 ……ここでもやはり私を拒絶する姉さま。最近はギクシャクしていて、すぐ姉さまに逃げられちゃって……思えば家でもこんなに接近できた試しがありません。

 このチャンスを逃したら……いつまた姉さまと話ができるかわかりません。だから……


「姉さま、私……私―――」


 謝罪をする為、姉さまに急接近する私。一方の姉さまはと言うと、迫る私を突き飛ばして……


「コマ……お願い……出ていって」

「そんな……姉さま、私は……!」


 全力で抵抗する姉さま。ああ、そんなに……そんなに私と一緒に居るのがお嫌なのですか……!?なおも姉さまに近づこうとする私に対し。姉さまは―――


、出ていってよぉおおおおお!!?」

「……ん?恥ずかしい……?」


 姉さまの魂の叫びを聞いて、ふと我に返ります。そう言えば、ここが何処だか確認しないまま……ただ姉さまのいる場所へと足を運んだ私でしたが……ここって一体?

 改めて姉さまのお姿をよく見てみると。箱のような小さな小部屋で白い椅子のようなものに腰かけて。スカートと下着を降ろし。大事なところを手で隠し。そして目に涙を浮かべ……お顔をリンゴのように真っ赤にして。とてもそそられる表情で震えながらもじもじとされているではありませんか。


 ……ふむふむ。なるほど。ここはつまりは―――


「…………失礼しました」


 自分のいる場所が一体何処なのか。姉さまが何をなさろうとされていたのか。ようやく理解した私は静かに扉を閉めます。そして何食わぬ顔でそそくさと退場。


『う、うぅう……うわぁああああああああん!!!??また、またコマに見られたぁあああああああ!?!!!?』


 数秒後、先ほど以上に悲痛な姉さまの魂の叫びが木霊しました。


「…………ヒメさま。謝罪するつもりが、余計姉さまに警戒されたのですが」

「……失禁プレイのせいで避けられているのに。よりにもよってトイレに突撃なんてド阿呆な真似をすればそりゃそうなる。いつもは完璧超人だけど。時々コマってマコ並みに―――いやそれ以上におバカになるよね」


 戻ってきた私の報告を聞いたヒメさまの冷静なツッコミが、非常に心を打ちました……何やってんでしょうね私……

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