ダメ姉は、妹を避ける(後編)

 ~SIDE:コマ~



 行き過ぎたオシオキのせいで大好きなマコ姉さまに絶賛避けられ中の私、立花コマ。どうにかこの気まずい状態を解消しようと四苦八苦してはいるものの、結果は空回りばかりです。

 共に下校している最中も、普段は恋人つなぎしたり腕を組んだりしているはずなのに……今日も姉さまは私から数メートル距離を置きまともに目を合わせてくれません。会話らしい会話も弾まず謝罪も出来ず。互いに気まずい沈黙のまま家にたどり着くと、姉さまは……


『じゃ、じゃあ私……夕食作ってくるから……!こ、コマはゆっくり休んでてね!』


 と、さっさとキッチンへ立てこもりやっぱり私を明確に避けます。……つらい。


「―――というわけです叔母さま。姉さまと仲直りをする何か良い案は無いでしょうか……」


 このまま姉さまと仲たがいをするのは当然不本意。ですが上手な関係修復方法は思い浮かびません。もう藁にも縋る思いでめい子叔母さまに泣きつき助言を請う事になりました。


「うーむ。失禁プレイ強制させて姉に嫌われたか。……そりゃ確かにちょっと悩むよな」

「ですよね……どう謝るべきなのか悩みますよね……」

「ネタとしては中々に面白いが、詳しく描写するとなると最悪官能小説で書けって編集に怒鳴られるだろうなぁ……悩むわ」

「…………なんの話をしているのですか叔母さまは?」

「ん?いや、せっかくだし今書いてる小説のネタにと思ってだな」

「再三に渡り言っていますが、姪たちの痴態を世に出さないでいただけませんかね?今日の晩酌はなしにしても良いんですよ私は?」


 人が本気で悩んでいるというのにこの人は……


「ネタにする云々は横に置くとしてだ。……そもそもよコマ。なーんでマコを失禁させる流れになったんだい?アタシはマコが捻挫したって話だけは聞いてたけどよ」

「えっと……それはその、自分を大事にしない姉さまへのオシオキのつもりで……」

「ふむふむ」


 私の話をふんふんと真剣な表情で聞いてくれる叔母さま。


「オシオキと称してどういう事をマコにさせたんだい?」

「……それ、言わなきゃダメですか?」

「詳しい事が分からんとアドバイスのしようがないだろ。ほれ、早く説明しなコマ。マコにどんな事させたんだよ」


 尤もらしい事を言いながら叔母さまは続きを促します。……取り出したメモ帳に何やら書き込んでいるのは若干気になりますが、とりあえず私も話を続けることに。


「……まずは、トイレに行けない姉さまに……その場で、させました。下を脱がし……抵抗できぬように拘束し、下腹部を刺激しながら尿瓶を使って……そして出させました。勿論、終わった後の処理もすべて私が」

「尿瓶を!へぇ……で?その時、マコはどんな様子だった?しっかり思い出して、詳細に教えな」

「出るまではかなり我慢も抵抗もされていました。もじもじと必死に我慢している姉さまは……なんとも言い難い素敵な表情でして……そそられました。我慢の限界がきて、やがてダムが決壊して。シャーっと音を立て尿瓶に向かい流れ出る水流の勢いはかなりのもので。それを意識した姉さまは『やだぁ……!』と愛らしく声を漏らされるんです。私にその音を聞かれたのが相当に恥ずかしかったのでしょうね。音を聞かれまいと力を入れられ数秒後に一旦は放水は止まりましたが、一度出しかけたものは止まりません。力が緩めば再び始まって……私にしているところを見られたくない、聞かれたくないという心中を反映されたようにはじめは躊躇うように、途切れ途切れに出されていましたが……やがては観念したように断続的に流れ出します。尿瓶を持つ手から伝わる水流の勢い。じょぼじょぼと音を立て溜まっていくレモン色の水たまり。部屋に漂う姉さまの芳香……触覚で、聴覚で、視覚で、嗅覚で妹である私にその行為をすべて感知されてしまう……そんな屈辱と今まで味わったことのないような排尿の度し難い解放感がミックスされて頭がごちゃごちゃになった様子の姉さまは……『お願い、みないで……』とすすり泣きながら震える声で私に訴えてくるんです。それは本当に被虐心をくすぐって―――」


 詳細に教えろと言われ。あの日の出来事を思い返します。目を瞑れば脳裏に鮮明に浮かんでくるあの日の光景。ああ、思い出すだけでキュンキュンと身震いしちゃいます……


「と。以上が初日の出来事です。次の日は自らトイレに向かおうと脱走を企てた姉さまに更にキツイオシオキをしようと浴室で―――」


 姉さまとイチャつけていない今の状況が相当にストレスだったのでしょうか?姉さまについて話し出したら止まれなくなってきました。このままの勢いで次の日の事も語ろうとした……その時です。


「あー。貴重なネタ提供―――もとい、貴重な告白あんがとよコマ。話足りなさそうだがよ、悪いが一旦その辺にしようか」

「え……で、ですがまだ三分の一くらいしか語られていませんけど……?」

「今ので三分の一かよ!?…………ま、まあそれはともかくだ。コマ、とりあえずさ」

「はい」

「後ろ、見てみ?」

「はい?」


 後ろ?後ろに何か……?


「…………ぁぅ」

「…………マコ、ねえさま……?」


 振り向くと、完熟トマトのようにお顔を赤らめる姉さまのお姿がそこにはありました。


「…………いつから、そちらに……?」

「…………えっと。コマがトイレに行けない私に尿瓶使ってさせたって話を熱弁し始めたあたりから……かな」


 なるほど、ほぼ最初からと言う事ですねわかりました。


「あの、えと………雑談してるところ邪魔して……ごめん。し、失礼しました……」



 パタン



 そっと扉を閉めてキッチンに逆戻りされる姉さま。あっはっはっは……!はは、は……

 ……オワッタ……私と姉さま心の溝がマリアナ海溝レベルに深まった……


「…………叔母さま。姉さまの存在に気づかれていたのでしたら、どうして途中で止めてくれなかったのですか?」

「いやぁ。その方が面白くなりそうかなーって思って」


 煽って私に説明させておいて、無責任にそんな事を言い出す叔母さま。……一か月断酒の刑です。



 ◇ ◇ ◇



「こうなれば、もはや小細工無しに……死ぬ気で謝るしかありません……!」


 夕食後、私は決意しました。とにかく謝るんです。姉さまとの関係が修復不可能レベルとなる前に何としても今の状況をどうにかしないと、本気で姉さまから絶縁されかねませんからね。

 ……もうすでに致命傷レベル?ま、まだです……!まだ慌てるような時間では決して……!



 コンコンコン



『……だ、誰?叔母さん?』

「すみません姉さま。私です、コマです」

『ッ……!こ、コマ……!?』

「今ちょっと……よろしいでしょうか?お話があります」

『……』


 姉さまの部屋の扉を叩き、姉さまに入室を求める私。時間にして数分の―――けれど私にとっては永遠とも思える沈黙の後……


「ど……どうぞ」


 ややあって扉を開き。私を招き入れてくれた姉さま。そのままベッドに腰かけるように促して、私が腰を掛けたのを確認すると姉さまも恐る恐る同じベッドに腰かけます。

 ……まあ。同じベッドに腰かけたと言っても……私とは反対側に、ですけど。やっぱり避けられてますね私……いえ、避けられているというか警戒されてるって感じかも?何せ捻挫中の失禁プレイに加え……昼間はトイレに突撃し、夕方は姉さまの失禁プレイを熱弁してしまったのです。


『ひょっとして、また失禁させられちゃうのでは……?』


 って。怯えられるのも無理はないですよね……不味いです。本当に早く弁明しないと……


「そ、それで?話って何かなコマ……?」


 背中越しでそう尋ねてくる姉さま。意を決して私は姉さまに謝罪を始めます。


「……はい。まずは姉さまに謝罪を」

「へっ?謝罪?」

「あの件に関しては……本当に、申し訳ございませんでした。……確かに最初は姉さまの為になると思い、オシオキを決行しましたが。いくら何でもやり過ぎてしまいました……!ごめんなさい……っ!」

「あ、いやあの……」

「やり方があまりにも最低で、卑劣で卑猥。……オシオキなんてただの建前ですよね。実の姉に恥をかかせただけ。不快な思いをさせてしまっただけ。こんなんじゃ……姉さまが怒るのも無理はありませんよね。嫌いになって当然ですよね。避けられて……当たり前ですよね」


 悪意があったわけではありません。姉さまに反省してほしいと思って始めたという事に嘘はありませんでした。でも……それでも大好きな姉さまに不愉快な思いをさせたかったわけじゃありません。

 姉さまの事で頭がいっぱいになると暴走する私の悪い癖、直していかなきゃいけませんね。


「どんな罵詈雑言も、体罰も甘んじて受けます。姉さまの言う事はなんでも聞きます。ですから……ですから、どうか。どうか許していただけませんでしょうか……」


 ベッドから降りて、姉さまの正面へと周り。そしてその場で頭を下げる私。これで許して貰えなかったら……口をきいても貰えなかったら……私は―――

 心臓バクバク、身体はガタガタ。そんな状態で静かに審判の時を待つ私。そんな私にマコ姉さまはというと、


「ち、違う!怒ってなんてない!どんな事をされようと、私がコマの事を嫌いになるだなんて絶対ない!」


 とても慌てた様子でそう言ってくれました。


「謝らないで!コマは、悪くない!捻挫した件に関しては、全面的に悪いのは私だったわけだし……わかってる、ちゃんと……私に反省させたくて始めたことだって分かってたよ!だから、全然私怒ってないし、コマの事嫌いになんてなってない!そんな事で、コマを避けるとかありえないから!?」


 怒ってない……?嫌いになってない……?


「え……で、ですが現に……私今も姉さまに避けられていますよね……?怒ってなかったり、嫌われていないなら……何故……?」

「ぐ……!?」


 私のその指摘に対し。姉さまは再び私から目を背けます。この姉さまの様子……もしかして何か別の要因で、私の事を避けていたのですか……?怒っているわけじゃなかった、嫌われてもいなかった。安心するとともに……だったら何故?という疑問は尽きません。

 しばらくは無言でただ俯いているだけでしたが。訝し気に姉さまに視線を送り続ける私に観念したように姉さまはぽつりぽつりと何かを呟き始めました。


「そ、そうじゃなくて……そ、その……あの……」

「はい」

「コマ、に……その。捻挫してた時に……シモのお世話、されてたじゃない?」

「はい」

「お世話ついでに、オシオキを兼ねてきもちいい事も……させられてたじゃない?」

「はい」

「そ、それで……えとえと……あぅぅ……」


 そこまで告げて、また俯いて口ごもる姉さま。汗をダラダラと流し、唇は震え、今にも泣きだしそう。


「……姉さま。落ち着いて」

「……こ、ま?」

「大丈夫。ゆっくりでいいです。言いたいことがあるならば焦らずリラックスしてからでいいんです。……私は、どれだけ時間がかかっても、お話を聞きますから」


 そんな姉さまの手をそっと握り、私はそう姉さまに訴えます。震える手を『大丈夫、大丈夫』と伝えるように優しく撫でて……そして静かに姉さまの口から言いたいことが出るのを待ちます。


「はずかしいこと、言うよ?」

「大丈夫です」

「コマ、私を軽蔑する……かもよ?」

「しません。そもそもすでにこの私が、今日だけでも2回は軽蔑されてしまう事を姉さまにしちゃいましたから……おあいこですよ」

「……」


 だから、ちゃんと教えて姉さま?どうして私を避けてたの?

 目配せして続きを促すと。耳まで真っ赤にしながらも頑張って姉さまは声を紡ぎます。


「……わた、しが……捻挫した後から……コマの事、避けてたのは……ね」

「はい」

「……ここのところずっと……お、おしっこを……するたびに……コマにきもちいいことされた事を……鮮明に思い出しちゃって……」

「は、い……?」

「は、反射的に……おしっこするのが、きもちよくなってきちゃって……軽く……その。おしっこの度に……達するように……なっちゃって……」

「……」

「それどころか……コマに触れられると、コマを見つめると……条件反射的に、お漏らししちゃいそうになる始末で……」


 だんだんとか細くなる声で、そんな大胆な告白を赤裸々に語る姉さま。そ、それは……つまりは……


「下手したら失禁癖がついちゃうかもしれないって思って……そうならないように……身体が落ち着くまでは、コマと触れ合うのを自制しようって……」

「だ、だから……私を避けて……?」

「……ん。……おしっこで感じちゃうとか。コマを見ると漏らしちゃいそうになるとか……こんなきもちわるい事、コマにバレたら……淫乱な姉だって……厭らしい姉だって思われて……コマに嫌われるかもしれないって……だから―――」


 そこまで言うと握った私の手を弱弱しく握り返し。涙を流しながら姉さまはこう告げます。


「―――こんな恥ずかしい子だけど……私のこと。きらいに、ならないで……」

「~~~~~~~ッッ!!!」


 その一言は、即死級の威力でした。私の胸は高鳴って……身体中の肌という肌は熱く火照って……腰がぶるるっと痙攣を起こし……目がくらみます。

 性的な事は一切していないのに。この告白だけで私は感じてしまったのです。


「……こま?」

「…………嫌いになど、なろうものですか」

「え、あ……きゃっ!?」


 ただでさえしばらくスキンシップがお預けだったせいで飢えてたのに。ダメ、ああもうダメです。押された。スイッチ押されちゃった。……姉さまが悪いんですよ?こんな、こんな……!

 姉さまの嬉し恥ずかしな告白に歓喜相まって、私は獣のように姉さまをベッドに押し倒します。


「……私を見るたびに感じてお漏らししちゃいそうになる?私に嫌われたくないから避ける?そんな可愛らしい事でいちいち悩んでいたのですか?……嫌いになるはずありません、ありえません。寧ろ…………興奮しちゃいます。あー……ホント可愛い、かわいい……!」

「だ、ダメだよコマ……今の私、ホント……暴発して……も、漏らしちゃいかねないから…………せ、せめて失禁癖がなくなるまでは……触れ合うのは、無しに……」


 必死に私から目を逸らし。そして覆いかぶさる私を押し戻しながらそう言ってくる姉さま。そんな姉さまに私はこう返します。


「姉さま、私思うんです」

「な、何を……?」

「その失禁癖の事ですが―――







―――別に、?と」

「…………は?」


 お口をポカンと開き、意味が分からないと言いたげな姉さま。


「お漏らししても、またこの私がお世話すれば良いだけの話ですし。捻挫が治ってもまたお世話させて貰えるとかご褒美みたいなものですし。直さなくてもいいのではないでしょうか?」

「…………」


 私の提案に対し。姉さまはしばらく絶句していましたが。


「…………コマの、ヘンタイさん」

「あら。すでにご存じだと思っていましたけど?……ヘンタイさんな妹はお嫌いですか?」

「…………だいすき、です」


 困ったような、それでいて嬉しそうな顔で。色々と諦めたように私を抱きしめ返してくれました。

 あ。ちなみにこれは余談ですけど。結局姉さまの失禁癖は一時的なものだったようで、数日で治ってしまいました。…………ちょっと残念です。

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