ダメ姉は、妹を強制する(後編)

 ~SIDE:コマ~



 ~立花マコ式『妹』格言その3~

『妹の反抗期、罵詈雑言はご褒美。姉たるもの甘んじで受け止めるべし』



 楽しい時間というものは、あっという間に過ぎるもの。アイスを食べたりイヤリングを買っていただいたりしているうちに、気が付けばもうお昼となっていました。


「ああ、もうこんな時間かぁ。コマちゃん、お腹も空いてきたしそろそろお弁当でも食べよっか」

「あ、はいですマコ姉さま!」

「…………コーマーちゃーんー?その敬語と呼び方はなんなのかなぁー?」

「…………ごめんなさい慣れなくて。コホン―――わ、わかったよマコお姉ちゃん……」

「よし。……それじゃ、ちょうど近くに森林公園があるわけだし、そこで食べようね♪」


 ……いやしかし。午前中の間どうにかこうにか頑張ってみたつもりでしたが、やはり染みついた癖や口調はちょっとやそこらでは変えられないみたいです。条件反射でつい敬語も姉さま呼びもやっちゃって……

 姉さまに喜んでもらう為、午後からは今以上に頑張らないとなぁ……


「さあコマちゃん。準備できたし一緒に食べようね」

「あ、うん。ありがとう」


 なんてひそかに決心している間にも、姉さまは森林公園の芝生広場にレジャーシートを広げ。そして包みを解いて姉さまお手製のお弁当を私の目の前に広げてくださります。お箸に紙皿、コップにはジュースも注いですでに準備は万端です。

 料理上手な姉さまは高校生になって更に腕を増しています。色とりどり、バラエティー豊かなお料理がとても美味しそう。困ります、もう見ているだけで唾液がこみ上げてくるじゃありませんか。


「それじゃあお姉ちゃん。早速だけどいただきます」

「はーい♡いっぱい召し上がれー!」


 姉さまの考える理想の妹キャラを演じる為思っていた以上に気疲れしていたみたい。相当にお腹が空いていた私は、姉さまのお料理が大変美味であったことも相まって自然と普段よりも箸が進みます進みます。


「ふふふ♪コマちゃん、そんなにがっついちゃって……お姉ちゃんの作ったご飯、美味しい?」

「(コクコクコク)……ッ!」

「えへへ、それは良かった。料理人冥利に尽きるね。早起きして(午前2時起床)作った甲斐もあるってもんよ。あ、ついでに……コマちゃん、あーん♪」


 一心不乱に姉さまのお料理を口に含んでいると。姉さまは慈愛に満ちた表情で私の好物を皿に盛り、私の口元に運んで『あーん』をしてくれます。

 姉さまの手料理に加え、姉さまからの『あーん』攻撃……魅惑のコンボに誘われるように私は口を開こうとしますが……


「(……待って。ちょっと待ってください私)」

「……?コマちゃん?」


 すんでのところでどうにか留まりました。……危うくそのまま『あーん』しちゃうところでしたが……冷静になって考えてみるとこのまま普通に『あーん』されてよいのでしょうか?姉さまから今日は『妹として振舞うように』とお達しを受けている私です。

 ……よく考えなさい私。どういう行動が、姉さまが思い描く『妹』としての正しい反応なのかを。


「(おそらくですが……正解は二つに一つ。このまま素直に『あーん』されて甘え媚びるように可愛らしい反応を示すか。はたまた『人目もあるし恥ずかしいよお姉ちゃん』と言って『あーん』を拒否するか……)」


 個人的には素直に甘えて『あーん』して貰いたいと思っていますし、何よりもそれが正解のように感じます。……ですが。どうにも私の考える『妹としての振舞い』と姉さまの考える『妹としての振舞い』には乖離が見られているように感じてなりません。現に私、午前中は悉く姉さまの期待を裏切るような反応をしちゃっていましたから……

 でしたら、やはりここは……


「(敢えて。そう敢えて……『あーん』を拒否する!)」


 裏の裏を読み、逆張りで姉さまが喜んでくれそうな『妹』として振舞ってみましょう。


「や、やめてよお姉ちゃん!」

「へ?」

「ほ、ほら!周りにも人はいるんだし、私子どもじゃないんだよ!そう言う恥ずかしい事はお外でしないでよねっ!」

「…………は?」


 気分はドラマや漫画に出てくるような反抗期の妹のように。恥ずかしがって姉さまからの『あーん』を避ける私。よしよし。我ながら今回は結構『妹』力の高い行動だったのではないでしょうか?

 ちょっと自信のある私のその対応に、姉さまはポカンとした表情を一瞬見せ。そして、


「……コマちゃん」

「うん、どうしたのかなお姉ちゃん?」

「妹ポインツ50点減点ッ!!!」

「えっ!?」


 険しい表情でそう告げてきました。あ、あれー……?


「……もしかして、この反応じゃダメでした……?は、反抗期の妹っぽい事をやってみたつもりだったのですが……違いましたか……?」

「違う!違うんだよコマ!それじゃあ全然妹力が足りないよ!」

「す、すみません!」


 しまった……どうやら私ったら深読みをし過ぎた模様。やはりここは素直に『あーん』されるのが正解で―――


「―――反抗期の妹を演じるなら、もっとお姉ちゃんを蔑んだ目で睨まないとダメでしょう!?」

「…………はい?」


 おかしいです、どうしてここで想像の斜め上な第三の選択肢が出てきたのですが……?


「あ、の……姉さ―――お姉ちゃん?つまり、その。どういう事……?」

「反抗期の妹って題材をチョイスした点に関しては悪くないよ。いい着眼点だと思う。けどね、それならそれでしっかりと反抗期らしい妹の反応ってもんがあるんだよ。いい?例えば今の場合だったらさ」


『キモ……こんなところで『あーん』とか何考えてんの?恥ずかしいからやめてよね』


「って。まず心底呆れて不機嫌に、蔑んで私にコマがそう言うべきなんだよ」

「蔑む……ですか?」

「そう蔑むの。そこで私が反論するの」


『いいじゃない。昔は素直にお姉ちゃんに『あーん』させてくれたでしょー』


「的な事言ってね。そしたらコマはもっと苛ついたように、すぐさまこう言うの」


『はぁー?キショ……いつの話よそれ。そんな事言った事なんて無いし、お姉ちゃんにそんな事させられるとか罰ゲームでしょ』


「と、まあこんな風にコマは冷たい反応して私から距離を取るの!これが正しい妹の反応なんだよ!」

「えぇー……」


 『あーん』しただけで姉に罵詈雑言を吐き蔑み距離を置く妹……そんな妹、嫌すぎでは……?


「あの、姉さま?そんな妹って存在するのですか?というか……姉さま的に、そんな反応する妹……アリなのですか」

「アリもアリ。大アリよ……寧ろ聞くところによるとこれが正しい世間一般の妹像だってさ。クラスの皆も口揃えて言ってたよ」

「は、はぁ……」

「というわけでリテイク宜しく!次はもっとちゃんとお姉ちゃんを蔑んで!なんなら平手打ちも容赦なく加えちゃって良いからさ!」

「…………申し訳ございません、他はともかくそれだけは。姉さまに対して暴言・暴力を振るう事だけはどうかご勘弁くださいませ……!」


 その後姉さまにどうにかこうにか謝り倒し、反抗期の妹ロールプレイは勘弁して貰えた私。妹って、難しい……



 ~立花マコ式『妹』格言その4~

『妹は困った時には必ず姉を呼び、姉は妹を命を賭して守る者』



 波乱万丈なお昼も終えてデート再開。


『食後にはデザートが付き物だよね!この近くに美味しいクレープ屋さんが出来たらしいし、お姉ちゃんひとっ走りしてコマちゃんの分も買ってくるね!コマちゃんはそこでゆっくり待っていてね!』


 お昼ご飯を食べ終えてからすぐにそう言って再びお財布を片手にクレープ屋さんへと駆け込んでいったマコ姉さま。私としてはアイスやイヤリングは姉さまのお金で買っていただいたわけですし、今度という今度こそ私が払いたかったのですが当の姉さまに押し切られ。結局言われた通りベンチに腰掛けてゆっくり姉さまを待つことになりました。


「―――ふー……」


 姉さまが戻られる前に大きく息を吐き気持ちと息を整える私。溜まっていた疲れや緊張をゆっくりと解きます。やれやれです、この私が姉さまとのデートでこんなに緊張するとは……

 ……今日の姉さまとのデート、嫌というわけではありません。『妹として振舞う』という縛りも、大変ではありますが……姉さまがあんなにも楽しそうにされているところを見ると、私も幸せな気持ちになっちゃいますし。姉さまに無茶ぶりされるのも……困りはしますが、ちょっと気持ちいいですし……


「ですが……やはりこの妹キャラというものは……正直疲れますね……」


 タメ語で喋ったりおねだりしたり。駄々をこねたり恥ずかしがって冷たく当たったり……お姉ちゃんという存在に思うがままに甘えたり。こういう『妹らしい妹』って私のキャラには合わないと思うんですよね。

 こう言うのはどちらかというと世界一愛らしい天使なマコ姉さまのような女の子がするべきだと思うんです。マコ姉さまは実際やって頂いたこともありますし、『妹キャラ』の立ち居振る舞いが自然でとてもよく似合いますし。


「…………妹な、マコ姉さま……か」


 ああ、そう言えば以前疲れた私を癒そうと、姉さまが私の妹として振舞ってくださったこともありましたね。あの時のマコ姉さま……『マコちゃん』は。とても、そうとても愛らしかった……♡

 天使のような愛らしさをもって全力で私に甘えてきたマコちゃんとの時間、それはもう至福の時で。溜まりに溜まっていた疲労感など宇宙の彼方へ吹き飛んでいきましたっけ。


「(……また近いうちにやって貰えないかしら。また私の事を『おねーちゃん♡』って脳が蕩けるような甘え声で呼んでくれたら……私、私は―――)」

「―――そこのおねーちゃん、今一人?良かったら俺たちと遊ばな……」

「うるさいです!私をお姉ちゃんと呼んでいいのは、世界中でただ一人マコ姉さまだけですよ!!!」

「「「へ?」」」

「……あら?」


 と、脳内トリップの最中。急に声をかけられて現実に引き戻されてしまう私。我に返って周りを見てみると、見知らぬ男性が3人私を取り囲んでいるではありませんか。


「……?どちら様でしょう。何かご用事ですか」

「あ、ああうん。いや、君なんだか暇そうにしてたからさ」

「実は俺たちも暇してたんだよね」

「おねーさん、良かったら俺たちと遊びに行かない?」


 軽そうな雰囲気で私に話しかけてくる3人。この言動……なるほど、ナンパですか。久しぶりに出くわしてしまいましたね……


「……申し訳ございません。連れがいますのでご遠慮ください」

「連れ?ああ、ならその人が来るまでは俺たちと一緒にお話ししようよ」

「ただ待ってるのは退屈だもんねー」

「連れの子って男?それとも女の子?もし女の子なら、その子も一緒に遊びに行こうよ」

「一人で待ちたい気分です。どうぞお帰りください」

「「「いーからいーから」」」


 ハッキリ断りを入れてみるも、動じていない様子の3人。それどころか馴れ馴れしく更に近づき肩に触れようとしてきました。

 ……これ、面倒なタイプですね。何を言ってもしつこく絡んでくることでしょう。ここはイチかバチか振り払って姉さまと合流を……



 パシィ!



「―――コマお姉ちゃん!」

「「「「え……」」」」


 そう考えて実行しようとしたまさにその時です。ナンパたちの手が私の肩に触れる寸前。そのナンパたちの手を力強く叩き、そして私とナンパの間に割って入ってくる女性が一人。お、お姉ちゃん……?


「(って、マコ姉さま……!?)」


 唯一無二、世界一の姉はおれども私に妹なぞ存在しません。そう思い飛び込んできたお方をよく見ると。あろう事かその唯一無二にして世界一の姉であるマコ姉さまではありませんか。

 あ、あの……『コマお姉ちゃん』って……どういう事です?姉さまは一体どうなさったのですか?と、思わず聞きそうになる私でしたが……


「(コマ、ここは私に話を合わせて)」

「(ッ!は、はいです……!)」


 私にだけこっそりそのように耳打ちしてくれるマコ姉さま。ここは言われた通り姉さまに話を合わせてみることに。


「もう!お姉ちゃんどこ行ってたの!お父さんたちが探してたよ!お母さんとかすっごい怒ってたじゃん!勝手にいなくなって!心配させないでよ!」

「あ、ああうん……ゴメンねマコちゃん。お姉ちゃんちょっと……この人たちに話しかけられてて……」

「……ほほう。お兄さんたち、なんですか?うちの姉に何か用事ですか?……まさか、ナンパとかじゃないですよね?」

「えっ、あ……いやその……」

「ち、違……ナンパとかじゃなくて、ね……」

「ひ、暇そうだったら……声をかけただけで……」


 突然現れた姉さまに先ほどまでの強気だったナンパたちも尻込みしています。


「おとーさーん!この人たち、お姉ちゃんの事をナンパしてるよー!」

「「「ッ!?」」」


 畳みかけるように姉さまは大声を上げ、ナンパたちにとどめを刺しにかかる姉さま。その姉さまの声を聞いて周りの通行人たちも『聞いた?ナンパですって』『家族連れをナンパって見境なしかよ……』とヒソヒソ話を始めました。


「ご、ゴメンねー!家族で来てるとは思わなくてさ!」

「邪魔しちゃったね!そ、それじゃあ俺ら帰るわ!」

「じゃ、じゃーねー!」


 いたたまれなくなった様子のナンパたちは、蜘蛛の子を散らすように去っていきます。姉さまはそんなナンパたちの後ろ姿を殺意に満ちた表情で睨まれていましたが。


「…………行ったみたいだね」

「ええ。もう大丈夫かと」

「…………良かった。あんなナンパに絡まれて怖かったでしょう?」

「い、いえ。大丈夫ですよ。特に何かをされたというわけではありませんから」

「ゴメンねコマ、こんな事になるなら一人にさせるんじゃなかったよ……」


 ナンパたちの姿が完全に見えなくなるのを確認すると、ホッと脱力する姉さま。


「ところで姉さま?『コマお姉ちゃん』って……今のは一体……」

「ん?……ああ、アレ?家族連れだって思わせれば、手っ取り早く穏便にあのクソナンパ共を追い払えると思ってね。私が妹を演じた方が、嘘だってバレずに済みそうだったし」


 なるほどとても素晴らしいやり方です。あのしつこそうなナンパたちも納得して退散する内容でしたし、お陰で姉さまも私も怪我一つなくナンパをあしらえましたからね。


「ハァ……」

「?姉さま……?どうなさったのですか?」

「…………いや、ちょっとへこむなぁって思ってさ……」


 そんな感心しちゃう機転を見せた姉さまですが、どうした事かその本人は非常に落ち込んだ表情を見せています。


「へこむ?え、どうしてですか?」

「…………だって。もっとカッコいいお姉ちゃんっぽい助け方があっただろうに、よりにもよってこんな方法って……ハァ……自分が情けないなって……」

「姉さま……?」

「……ねえコマ。コマってさ、昔から理想の妹として振舞ってきたでしょう?」


 唐突にそんなことを言われて考えます。……まあ、そうですね。物心ついた時から姉さまにぞっこんだった私は、姉さまに好きになって貰えるように……私の思う理想的な妹として姉さまに振舞ってきたのは確かに事実です。


「日々理想的な妹となるために頑張って。頑張った結果敬語も覚えて……文武両道の完璧超人になって……たった一人の姉に文句も不満もワガママさえも言わない……物腰柔らかで理性的な……どこからどう見ても理想の妹になってくれたじゃない?」

「いいえ、まだまだ精進していかねばならないと自分では思っています」

「十分すぎるよ。……寧ろ、私は……もう少しコマは私に甘えて欲しいの」

「……えと。姉さま的には、ワガママ言う妹の方が好みという事なのでしょうか?」

「あ、違う違う。そう言うわけじゃなくてね。……前にも言ったかもしれないけど。コマは昔から肩肘張りすぎてると思うんだ。私に気に入られるためにいっぱい頑張ってる事自体は私も嬉しいけど……そればっかりじゃやっぱ大変じゃないの」

「姉さま……」


 そんな……私は、姉さまに好かれるための努力など……辛いと思ったことなんてありませんのに。


「だから……ね。偶にはちょっと羽目を外して貰いたかった。そう考えて今日くらいは……コマにワガママ全開の妹として振舞って欲しいって思って……そして甘えてくれるコマに全力で応える理想の姉になりたいなって……そう思って『妹として振舞ってほしい』っておねだりしたわけなの」


 そこまで言って姉さまは再度大きな溜息を吐かれます。


「……けど、ダメだったわ。妹を強制してみても今日はコマは全然ワガママ言わないし。素直に甘えてくれないし。おまけに私も私で理想的な姉として振舞おうとしても……結局さっきみたいに姉どころか私の方が妹みたいに振舞っちゃって……散々だね。ハハ……これじゃお姉ちゃん失格だわ……」

「…………」


 寂しそうにそう呟くマコ姉さま。そっか……そうだったのか。姉さま、そんな事を考えて……そう言う想いで私に『妹として振舞って』と……


「……ごめんねコマ。もう十分だよ。『妹として振舞う』って縛り、無しにしよ。ここから先はいつも通り二人でラブラブデートと洒落込もっか!」

「…………マコお姉ちゃん」

「へ?……わわっ!?」


 感極まって思わず私は素でお姉ちゃん呼びをしつつ、お姉ちゃんに抱きつきます。抱きつかれたお姉ちゃんは困惑して動けなくなってしまいますが、気にせずもっとギュッと抱きついて自分の思いを吐き出す私。


「あ、あの……コマ?私の話聞いてた?も、もう無理してお姉ちゃん呼びもしなくてもいいんだって……」

「……お姉ちゃん。一つだけ、言わせてね」

「え、あ……う、うん……?」

「お姉ちゃんは……自分の事を『姉らしくない』とか『情けない』って言っていたけど。……そんな事ない。マコお姉ちゃんは……いつだって、私のたった一人の……最高のお姉ちゃん。私と生まれた時、私が味覚障害になった時、私が倒れた時、私が思い悩んだ時、私が暴漢に襲われそうになった時。……いつだって私が助けて欲しい時に……お姉ちゃんは必ず駆け付けてくれる。私を守ってくれる……可愛くて、綺麗で……何よりも誰よりもカッコいい。素敵で無敵な最高のお姉ちゃんだよ」

「お、おぅ……そ、そうかな……?」


 ……妹みたいに振舞って私をナンパの手から救ってくれたさっきだってそう。可愛らしい外見とは裏腹に、姉さまは『コマに手を出すな』と言いたげな立ち居振る舞いを見せていて……その姿はとても凛々しくて……

 こんなに素敵なお姉ちゃん、私は他には知りません。


「……ね、お姉ちゃん。一つお願いがあるんだけど、聞いて貰えるかな?」

「ッ!い、いいよ!なんでも好きに言ってくれると嬉しいな」

「ありがとう。あのね…………さっきはナンパに絡まれて、『大丈夫』って言ったけどさ……」

「う、うん」

「……ホントはね、ちょっぴり怖かったの。お姉ちゃんが来なかったらどうしようって、思ってた。今もちょっと怖いなって思ってるの……だからね」

「だから……?」


 そこまで言って大きく深呼吸。そして、


「今日一日は、私から……離れないで。ずっと……一緒にいて……私を守って……マコお姉ちゃん……」


 身を摺り寄せて、甘えた声でそうおねだりする私。そんな私の反応に一瞬ビックリした様子を見せたお姉ちゃんでしたが。


「……うん、任せて。今日一日だけなんて言わない。コマちゃんは、お姉ちゃんがずっと守るからね」


 心の底から安心する力強い声で私のおねだりに応え、ギュッとお姉ちゃんも私を抱きしめてくれたのでした。

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