ダメ姉は、妹を強制する(中編)
~SIDE:コマ~
本日は楽しい楽しいマコ姉さまとのデート……なのですが。勉強を頑張ってくれた姉さまへのご褒美として、今日一日『妹として振舞う事』を姉さまに強制させられた私。『敬語禁止』に加えて『お姉ちゃん呼び』……正直これだけでもかなりハードルが高いものだと思っていたのですが……
デートが始まってすぐに気付かされました。『妹として振舞う事』……それは想像していた以上に難易度が高い事だったのです。
~立花マコ式『妹』格言その1~
『姉の物は妹の物。妹の物も妹の物。姉の財布は妹の物』
「はーい、コマちゃんお待たせー♡お姉ちゃんがアイスを買ってきたよー」
「あ、はい。ありがとうございますマコ姉さ―――」
「(ピクッ)……んー?」
「―――コホン。あ、ありがとうマコお姉ちゃん……」
「えへへー、どういたしまして」
私と姉さまのラブラブデートを祝福するかのように、今日のお日様はそれはもう全力で輝いていました。おかげさまで姉さまとペアルックの薄着のワンピーススタイルだというのに暑いのなんの。
あまりの暑さに『ホントに暑いよね。ちょっと涼しむ為にもアイスでも買ってくるよ』とアイスクリーム屋さんへと駆け込んで、アイスを差し出してくれるマコ姉さま。そこまでは(敬語禁止とお姉ちゃん呼びを強制する事以外は)普段の姉さまとお変わりなかったのですが……問題はここからでした。
「マコ姉さ……お姉ちゃん。私の分まで買ってきてくれてありがとう。あとでアイスの代金は、ちゃんと返しま……返すからね」
「ああ、気にしなくて良いんだよコマちゃん。ここはお姉ちゃんの奢りだよ。遠慮しないで食べてね!」
「えっ……そ、そんなの悪いです。やはり自分で食べたものは自分で払わないと……」
「あはは。奢りで良いんだってば。お姉ちゃんのお財布は、コマちゃんの物なんだし」
「そ、その理屈は流石におかしいです……払わせてください」
「いいっていいって。これくらい出費にもならないもん。妹とのラブラブデートを円滑にするためのアイテムなら必要経費みたいなもんだし安いもんよ」
「ですが……姉さまに負担をかけるのは、私的には不本意で……」
「…………コマ。妹は、姉に遠慮しちゃいけないんだよ。あと敬語禁止、姉さま禁止」
「……ひぅッ!?」
代金を払う、払わないの問答の最中。突如スッと目を細めてそう告げるマコ姉さま。大好きな笑顔を見せてくれているはずなのに、有無を言わさない不機嫌オーラを身に纏い。
『良いから黙ってお姉ちゃんに奢らせなさい』
と、冷たく静かに訴えてきて……なんだかとっても圧が……圧が……
「あ、うん……その…………じゃ、じゃあ……あ、ありがたく……頂くね……」
「うんうん!そうでなくっちゃ!」
ここは大人しく奢られておくべきと判断し、素直にアイスを頂くことに。
「んっ……甘くて、冷たくて。おいし……」
「おお、それは良かった♪もしも食べ足りなかったらじゃんじゃかおかわりしてね!お姉ちゃんまた買いに行くから!お店の全部のアイス買い占めてくるからネ!」
「い、いやいいから……そこまで無茶な事しなくてもいいから……」
「遠慮しないで!お姉ちゃんは妹の為なら無茶も無理をゴリ押し通すからね!」
「遠慮とかじゃなくてね……そんなに食べたら流石の私もお腹壊すよマコお姉ちゃん……」
「あ、それもそうか」
そう言って姉さまは『いやはやうっかりうっかり』と楽しそうに笑います。お姉ちゃんモードが入った姉さまはいつも以上にテンションが高い様子。
今日の姉さまのテンションに、ここから先付いて行けるのかな私……
「……んー。でもねコマちゃん。もしも足りなかったら……お姉ちゃんのアイスも食べていいよ。食べかけでも良いならだけど」
「(ガタッ!)マコお姉ちゃんの(食べかけ)アイス、一口食べてもいい?」
……割と問題なく行けそうな気がしてきました。
~立花マコ式『妹』格言その2~
『妹は姉に駄々をこね我が儘を言うもの。姉はその欲求に全身全霊をかけて応えるもの』
アイスを食べ終えデート再開。現在私と姉さまはウィンドウショッピング中にふらりと立ち寄ったアクセサリーショップの中に居ます。
「どうかなお姉ちゃん?これ、似合いま……似合う?」
「うんっ!すっごい似合うよコマちゃん!」
姉さまに『きっと似合うから』と渡された綺麗なイヤリングを試しにつけてみる私。試着した私を一目見た姉さまは、いつも以上に涙とよだれと鼻血を流してとても喜んでくれます。
「嗚呼……ただでさえ美しいコマちゃんが、更に綺麗に愛らしくなっちゃって……!アクセサリー一つでまた違った美しさを見せてくれるうちのコマちゃんは……もしや美の化身、美の女神の生まれ変わりか何かでは……?ビーナスも真っ青だよこれは……」
「褒めすぎだよお姉ちゃん。……うん。でもこれは本当に綺麗だね。ちょっと気に入ったかも」
「おっ?珍しいね、あんまりアクセサリーとかに興味を示さないコマちゃんがそこまで言うなんて。折角なら買っちゃう?You思い切って買っちゃう?」
姉さまにそう尋ねられて考えます。ふむ……そうですね。デザインも精巧で着け心地も悪くありません。
あまり着飾る事に興味を持たない私にしては珍しく気に入ったわけですし、何より姉さまに褒めていただけたのであれば購入するのもアリだとは思うのですが……
「いや、いいよ。ちょっと予算オーバーしちゃうし。今日のところは我慢するね」
デートはまだまだ始まったばかりです。だというのにこんなところで大金を払ってしまったなら、他のデート場所でお金を出せなくなっちゃう恐れだってあります。残念ですがここは我慢我慢っと。
そう言って私が名残惜しみながらもアクセサリーを棚へ戻そうとした―――次の瞬間。
ガシィ!
「…………違う」
「へ?あ、あの。マコ姉さ……じゃなかった、マコお姉ちゃん急にどうしたの?」
「…………そこは、違うでしょコマちゃん」
アクセサリーを戻そうとする私の手を捕まえて、ちょっぴり怖い顔をして姉さまが私はジトっとにらんでいるではありませんか。
え、え?ど、どうされたのですか……?違うって、私何かおかしなこととかしましたっけ……?
「コマちゃんよーく考えて欲しい。どうしても欲しいものがあって、でもお金が足りない。そういう時ってさ……真の妹なら一体どういう行動を起こすのが正しいのかな?」
「……ええっと。今は我慢をして、お金を貯めて改めて買う……ですか?」
「残念不正解ッ!!!!0点ッ!!!!」
非情にも姉さまに突きつけられる赤点告知。なんという事でしょう。私、生まれて初めて赤点どころか0点を取っちゃいましたよ……
「いいかねコマちゃん。こういう時、妹って存在はね―――お姉ちゃんにおねだりするのが正解なんだよ」
「お、おねだりが……正解……?」
「そう!『お姉ちゃんこれ買って』って甘えた声でおねだりするの!媚びて、ねだって『買って、買ってよぅ!』って駄々をこねて、そんでもってだんだんとその場で動かなくなって……最終的にひっくり返って泣き叫ぶの!それがパーフェクトな答えなんだよ!」
……あの、それは妹ではなくて。寧ろ小さな子どもの反応では?
「い、いやあの……良いんですって。そこまで欲しい品物というわけではありませんし、このような高額な物を姉さまに買っていただくわけには―――」
「ダメ!そう言う事言っちゃダメ!欲しいものは欲しいってちゃんと言いなさいコマちゃんっ!あと敬語も姉さまも禁止って何度言えばわかるの!?!??」
「し、しかしですね……」
先ほどのアイスとこのイヤリングとではいくら何でも話が違います。こんな高価な品、買っていただくわけにはと思い尻込みする私ですが……姉さまも負けていませんでした。
「言って!言ってよぉ!『お姉ちゃん、イヤリング買って』って!もっと我が儘に、お姉ちゃん困らせちゃうくらいの大声とリアクションでおねだりしてよぉ!!!」
「ね、姉さま落ち着いて……!?こ、こんなところでひっくり返ったら……他のお客さまにも店員さまにも迷惑が……!?」
その場に座り込み、泣きわめくようにジタバタと手足を動かしながら姉さまは私にそう命じてきました。その騒ぎを聞きつけて、他のお客さまも店員さまも『なんだなんだ』と集まってきます。こ、これはまずい……
「だったら『イヤリング買って』って言って!言いなさいコマちゃん……!」
「わ、わかりまし……わかったよお姉ちゃん!?このイヤリング買って!あと、駄々こねるのは止めてお願い……!」
「はーい♪お姉ちゃんがコマちゃんにプレゼントしちゃうからねー!」
その一言であっさりと泣き止んでにこにこ笑顔でイヤリングを手に、レジまで走るマコ姉さま。き、切り替え随分と早いですね……私、思わず脱力です……
ああ、ちなみにこれはちょっとした余談ですが。
「ふふ。妹さんに駄々をこねられちゃって。やっぱりどこのお家もお姉ちゃんは大変ですね。『イヤリングが欲しい、お姉ちゃん買ってよ』ってねだられちゃいました?」
「あー、えーっと……」
……姉さまと私のやり取りを遠くで見ていた店員さまから、帰り際にそんな事を言われました。……あの、すみません店員さま。実は駄々こねていたように見える方がうちの愛しい姉なのですよ……とは、流石に言えませんでした。
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