ダメ姉は、勉強会に参加する(その4)
和味せんせー&レンちゃんとのお風呂をどうにかこうにか(二人とも何故か鼻血の海に沈んだけど)無事に終え。
「ほら、マコ。遠慮しないでもっとわたしにくっついて良いのよ?そんなに縮こまったら窮屈でしょ。狭いんだしさ」
「あ、ぁう……」
「人の家のお風呂に勝手に入って『狭い』だなんて失礼な事、よく言えますねかなえさまは……まあいいです。それより姉さま。かなえさまの方でなく、私の方へもっと寄りかかって良いのですよ。手足伸ばさないと折角のお風呂が勿体ないです」
「ひ、ひゃぅ……」
次はいよいよコマ&カナカナとのお風呂の時間。私の妹であり嫁であるコマ、一番のそして生涯の親友であるカナカナ。そんな美少女二人の間に挟まれてのお風呂だ。
……さて。古今東西入浴というものには心と体をリラックスさせる効果があると聞く。身体の汚れを落とし、芯から温もり一日の疲れを癒してくれるもの―――私も今の今まではそう思っていた。
「(けど……これは……ッ!)」
……だというのに、私はこれ以上なく緊張していた。
意外にも稼いでいる叔母さんが購入した家の風呂だ。浴槽は十分に広いはずなんだけど……あくまで一人で入るなら十分に広いというだけだ。お風呂に入る前にコマが決めた『過度なスキンシップ禁止』というルールは一応適用されてはいるけれど、それでも三人も同じ浴槽に入れば自然とお互いの肩や腕、足が触れ合ってしまう。絶世の美少女二人と触れ合ってしまって……どうにもこうにも緊張が収まらない。
加えて……二人の視線が非常に気になる。
「一度だけ……修学旅行のときに一度だけマコとお風呂に入ったけど……でも、うん。やっぱ凄いわね。肌は雪のように白いし、ぷるぷるな柔肌は心地いいし、何よりもその胸……あの時よりも更に進化してるだなんて……ヤバいわね、直に揉みたいわ……」
「じ、ジロジロ見ないでカナカナ……」
「何を隠そう、この私が育てましたからね。そう!他でもないこの私が!育てましたからねかなえさま!」
「へ、変なところでマウント取らないでコマ……」
同性の胸なんざ、体育の授業とかでいくらでも見る機会はあるだろうに。二人は私の身体を穴が開く程凝視している。前の二人―――和味せんせーやレンちゃんと違い、明確に私に好意を寄せているコマとカナカナの二人だから、その視線も明らかに熱が籠っているのがわかる。
「ホント、マコ……綺麗よ……きれい……」
「何を今更。姉さまが綺麗なのは言うまでも無い事じゃないですか」
「さっきからいちいちうっさいわねコマちゃん……綺麗なものを綺麗と言って何が悪いのよ」
「それは……まあ、そうですね。姉さまは本当に美しいです……」
「う、うぅ……」
お風呂に入っているわけだから、タオルなんて巻いていない。二人の熱い視線に晒された何も隠されていない素肌からピリリとした刺激が走る。特に胸、その先端に強い視線を感じる。
舐めるように二人分の視線を這わされると、ゾクリと背筋が震えて……
「ふ、二人は私の事褒めてくれるけど!私から言わして貰えば。二人の方がよっぽど魅力的だと思うんだけどな!?」
融かされるような熱を持った視線に耐え切れず、照れ隠し半分にそう言ってみる。……実際二人の身体を見てみると、すっごく自分の身体が情けなく思える。
……改めてコマもカナカナも、同年代の女の子と思わないほどに綺麗だよね。湯に顔を半分浸かりながら、二人の裸体を横目で盗み見る私。シミ一つない白い雪原のような肌、重力に負けることなく張りのある理想的で完璧な形を保っているお胸に、芸術的とも思える細い腰。いつ見ても超絶ビューティーなパーフェクトぼでーを持つコマ。程よく鍛えられ無駄な脂肪は一切ない(特に胸)、スレンダーで長い手足がとても映えるすらりとしたかっこいいモデル体型のカナカナ。お腹にも尻にも胸にも駄肉を搭載している私よりもよっぽど魅力的だ。ドキドキが止まんないわ……
「マコ……あんたじゃなかったら喧嘩売ってるとみなしてたわよ。そういうのは嫌みにしか聞こえないからやめなさい。どーせわたしは……わたしの胸は、魅力なんて皆無の洗濯板よ……」
「姉さまには負けますよ……私も……姉さまの双子の妹として、姉さまに好きでいて貰えるように日々努力は重ねていますが……流石に、姉さまほどの魅惑の身体は……一朝一夕で作れるものではありませんから」
本心から言ってみたのに、何故かコマはため息を吐きカナカナはキレ気味の反応を示した。全然嫌みとかじゃないのに……
「それはさておき。どうかしらマコ?勉強の調子は」
「分からないところとか、不安なところがあったら遠慮せずに教えてくださいね姉さま」
「あ、うんありがとう二人とも。皆のお陰で大分順調だよ」
急遽お泊り会、そして皆でお風呂というイベントに早変わりしちゃったけど。今回の目的は主に私のテスト勉強だった。特にコマとカナカナには付きっ切りで飲み込みも頭も悪い私に、根気よく勉強を教えて貰っているから頭が上がらない。
「二人とも。自分の勉強もあるのに私に付き合ってくれてありがとうね。なんてお礼を言えば良いのか……」
「姉さま、それは言いっこなしですよ。生涯の伴侶がパートナーの力になるのは当然のことでは無いですか」
「親友が、そして思い人が困っているとこをみすみす見逃せるわけ無いでしょ。それにマコと勉強するのは楽しいから良いのよ別に」
相当負担になっているはずだろうに、二人はまるで気にした様子もなく笑顔でそう優しく言ってくれる。持つべきものはやはり愛しい嫁と永遠の親友よね。
「さーてと!それじゃあマコのテスト勉強がより捗るためにも、ここは親友としてこのわたしが一肌脱いであげましょうかね!」
「はっはっは。一肌も何も、すっぽんぽんでお風呂に入ってるからすでに脱ぐものは何も無いけどね。……で?カナカナは一体何をする気なのかな?」
「マッサージよ、マッサージ。疲れた体を癒すには、マッサージが一番!てなわけで……マコ♪早速―――」
「(パシィ!)絶対、そういう妙な事を言い始める頃だろうなと思っていましたよ……させませんよ、かなえさま」
両手をワキワキさせながら、私の肩と胸にその手を近づけようとして―――カナカナはその手をコマに払われる。
……ああ、そうそう一つ言い忘れてた。さっき裸の美少女二人に挟まれてるせいで緊張してるって言ったけど。ついでに言うと、私は今別の意味でも私は非常に緊張している。何に対してかって?それは……
「……コマちゃん、何かしらこの手は。離しなさいよ。これじゃマコにマッサージしてあげられないじゃないの」
「かなえさま。姉さまに対して過度なスキンシップは禁止と、私はあれほど口を酸っぱくして言いましたよね?」
「はぁー?わたしは純粋に友人同士がやるような肩もみとかストレッチしようとしてただけですけどぉー?コマちゃんからしたらその程度のふれあいすら過度なスキンシップ扱いになるわけ?嫌ねー、束縛も独占欲も強いシスコンな妹ちゃんは」
「人の姉であり人の嫁でもある姉さまを手籠めにしようとした前科者がよく白々しい事を言えたものですね。貴女の場合、それだけじゃ済まないからやっているんですよ……私は忘れていませんよ。マッサージやオシャレの勉強と称して、姉さまを自分の家に連れ込んで押し倒そうとした貴女の常識はずれな許されざる愚行を」
「…………」
ピリピリとした空気が二人の間に流れていて、その二人のプレッシャーをダイレクトに受けて胃が痛い。
犬猿の仲・水と油・不倶戴天の敵―――もしも今回の現国のテストで上記の言葉の意味を問われたら、私はパーフェクトに答えられる自信がある。まさしくコマとカナカナの二人の関係そのものだから。いやぁ、こんな場所でも私に間接的に勉強を教えてくれるなんて二人はやっぱり良い先生だなぁ!……なんて、冗談を言ってこの不穏な空気を払拭させたい……
私に恋愛的な好意を抱いているコマとカナカナ。二人の性格とか相性とか考えると、私的にはそのうちきっと仲良くなれそうだとは思っているんだけれど……どうにもこうにも私という一人の人間を取り合っているという前提がある以上、どうあっても仲良くはなれないと二人は口を揃えて言う。
……コマも、カナカナも。私にとってはどちらもとても大切な存在。だからホントはもっと二人も仲良くなってほしいんだけど……
「大体、どうして貴女と言う人は姉さまに固執するのですか!?もう遥か昔に決着はついたでしょう!?姉さまは、私のもの。そして私は姉さまのものだというのに……!」
「知ったこっちゃないわ。もうね、わたしにはマコしかいないのよ。手段は選ばない。マコとコマちゃんがどれだけ相思相愛だろうが、その仲引き裂いてでもわたしはマコをモノにしてやるわ……!」
「蛮族ですか貴女は……!?そんなの絶対この私が許しませんよ……!」
「許さないならどうするのかしら?実力行使するつもりなら、上等よ!かかって来なさいな……!」
なんてことを考えている間にも、二人の言い争いはエスカレート。とうとう口だけでなく手まで出かかる。あ、こりゃいかん……!
「す、ストップ!ストーップ二人とも!」
流石に暴力沙汰は見過ごせない。取っ組み合い寸前のところで二人を引き離しどうにか宥めてみる私。
「せ、折角楽しいお泊り会、そして楽しいお風呂のハズだったのに喧嘩なんてしないでよ!?コマ、カナカナ!?改めて言わせて貰うけど、もうちょっと二人は仲良く出来ないのかな!?」
「無理です」
「無理ね」
「即答かい!?」
少しは逡巡してくれても良いと思うんだけどな私……
「いくら姉さまの頼みと言えど、こればかりは無理ですね。仮に……この人が姉さまの事をきっぱりすっぱり諦めてくださるのであれば考えますが……」
「それこそ無理な話よ。わたしはね、マコに救われて以来。もうこの子しかいないって分かったのよ。これは運命だって。わたしは生涯マコただ一人を恋慕し続けるわ」
「でしたら仲良くなるのは無理な話ですね」
「そんなぁ……」
頑なな二人の態度にがっくり肩を落とす私。できる事なら……カナカナには私なんかよりも良い人を見つけてほしいって気持ちがある。だって私は……これから先もどうあってもコマを一番に想うしかできないのだから。
けれど何度その気持ちを伝えても……『恋愛的な意味じゃ、きっとわたしはマコしか好きになれないわ』ってカナカナの意思は固く。私の気持ちを理解したうえで、それでも全く気にすることなく私にアタックし続けている。
コマはコマで、そんなカナカナを最大のライバルとしてカナカナの前だと普段とは人が変わったみたいにそれはもうカナカナを敵視してすぐ喧嘩しちゃうし……ああ、もう!
「…………分かった、オーケー。無理に仲良くなれとかそういう事は言わないよ」
「流石姉さまです♪お分かりになって頂けましたか」
「うんうん。そうよねー。無理なものは無理よねー」
「けど、暴力とかはダメ。私の大好きな人たちが、私のせいで傷つけあうとか……この私が許さない。私が見ているところでも、見てないところでもそういう悲しい事をするんなら―――私、二人とも嫌いになるよ」
「「……ッ!!?」」
分からず屋たちに流石に業を煮やし。使いたくはなかったけれど最終兵器を持ち出す私。これには流石の二人も顔色を変えて私に詰め寄る。
「んな……じょ、冗談……よねマコ?き、嫌いになるって……」
「ね、姉さま……?あの、えっと……ほ、本当に……?」
「本当に。そういう事するんなら、二人とも平等に嫌いになる。口もきかない。笑顔も見せない。触れ合う事も許さない」
「「ごめんなさい」」
心を鬼にして脅してみたら二人も大人しく謝った。うん、分かればよろしい。
「……で、ですが姉さま。このまま白黒はっきりつけないのも……問題があると思うんですよ私……」
「んお?」
「そうね……いずれは決着を付けなきゃ。わたしもコマちゃんも納得できないもの。暴力を伴わない……もっと平和的な方法で勝ち負けを決めるなら良いのよね?」
「それは、まあ……うん……」
喧嘩をするなとは言わない。だって喧嘩を通して芽生える友情ってものもあるだろうし。そう考えて了承すると……カナカナはこんな提案をしだした。
「だったらさ―――
元々マコの勉強の疲れを癒すって目的だっただし。おあつらえ向きに場所もちょうど良いし。どっちがマコを気持ち良くマッサージできるかで勝負をしましょうよ」
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