ダメ姉は、部活に入る(前編)

「―――マコ先輩、マコ先輩っ!お久しぶりです……ッ!会いたかったです……!」

「おー、レンちゃんおひさー♪」


 とある日の休日。ちょっとしたお買い物の途中で、中学の後輩でダメな私を何故か全力で慕ってくれているレンちゃんとバッタリ遭遇。そのレンちゃんに誘われるがまま、私は近くの喫茶店に入っておしゃべりする事となった。


「……って言っても、ほんの3日前にもレンちゃんと会ったばかりだけどね私。あんまし久しぶりって感じじゃないよね?そんな泣くほど再会を喜ばんでも……」

「あたしにとっては一日でも、マコ先輩と会えないのは辛いんですよ…………うぅ……早く中学なんて卒業したい。卒業して、マコ先輩の高校に入学したいです……先輩と一緒の高校生活をエンジョイしたい……」

「え、えっと……だ、大丈夫レンちゃん?ちゃんと中学生活満喫出来てる……?」


 明るい忠犬系後輩が見せる、どよんとした暗い表情にほんのちょっぴり不安を抱く私。この子……ちゃんと中学でやっていけてるのかしらん……?


「あ、それに関しては大丈夫です!マコ先輩がいない中学は…………本音を言うと死ぬほど寂しいですが、今はあたしマコ先輩の布教活動に忙しいですからねっ!寂しさを感じる暇もありませんよ!」

「ふーん。そっかそっか。それは良かっ―――うん?」


 ……あれ?今なんか、変な単語を口にしなかったかレンちゃん?ふきょう?気のせい、か?……うん、気のせいだな!気のせいって事にしておこう!


「あたしの事よりも!マコ先輩はどうですか?高校生活、楽しいですか?」

「んー。そだねぇ。とっても楽しいよ。コマが一緒だし。カナカナやヒメっちもいるし。新しく友達が出来たし。尊敬できる先生にも巡り合えたし。あと……勉強は大変だけど、色んなこと学べるし」

「へぇ……例えばどんな事をされているのですか?」


 まだ入学して一か月も経っていないけれど。それでもとても毎日が充実している。興味深そうに聞きたがっているレンちゃんに、高校生活について色々と説明してあげることに。コマの事とか、友人たちの事とか。コマの事とか授業の事とか。コマの事とか先生の事とかコマの事とか―――


「……なるほどです!それはとても楽しそうですね!あたしも、再来年先輩と一緒の高校に通うのが今から楽しみになってきましたよ!」

「ふふふ、でしょー?」

「ところで……マコ先輩?今の話、部活動の話題は出てきませんでしたけど……先輩って、どこかの部活動に入部したりしないんですか?」

「へ?部活?」


 と。高校生活の話に花を咲かせている最中。レンちゃんはちょっと不思議そうにそんな事を問いかけてくる。むぅ。部活、部活動ねぇ……


「ほら!マコ先輩って中学の時は生助会でバリバリご活躍されていたじゃないですか!先輩の事ですし、きっと中学の時みたいに―――いいえ!中学の時よりも更に色んな場面でご活躍されているのではと考えていたので、部活動とかはやらないのかなーって思いまして」

「い、いやいやレンちゃん……?中学の時にバリバリ活躍してたのは私じゃなくて、完璧超人のコマの方だったと思うんだがね?」

「……?マコ先輩、立花先輩に負けないくらいご活躍されていましたよね?あたしの悩みを解決してくれましたし、いつも色んな人から『立花は何処だ!?』って追いかけまわされるくらい頼りにされていましたし」

「……」


 レンちゃんの悩みを解決した件はともかく。中学時代にこの私が皆々様から追いかけまわされてたのは人気だったり頼りにされていたから……では決してない。

 『コマの恋人』という最高のポジションにいる私に嫉妬した連中が、私を妬み羨みガチで暗殺しようと追いかけまわされていただけなんだけどねー……


「だからあたし、高校でもマコ先輩色んな人から頼られて。そんでもって色んな部活から『立花さん!ぜひ我が部に入部して!』って追いかけまわされているとばかり……」

「ないない。そんな漫画みたいなことないよレンちゃん。まあ確かにうちの高校は部活動がかなり盛んらしいけど、仮にも花の女子校だよ?先輩たちから無理やり勧誘された事なんて一度も無いよ。基本皆お淑やかだし。あの中学みたいに頭おかしい連中はいないしさ」

「そう、なんですか?」

「そうなんですよ。そもそも私、料理くらいしかまともにできないし。そんな奴を勧誘する部活動なんて、せいぜい料理部くらいなんじゃない?まー、例えどこかの物好きが私を部活動に勧誘したとしても。私はもう部活は無理にやらなくていいかなーって思ってるけどね。めんどいし。遊ぶ時間も少なくなっちゃうし」

「なるほどですね!確かに先輩がどこかの部活に入っちゃったら、今日みたいに休日とかに先輩と遊べなくなっちゃいますよね……そんなのあたし寂しいです!先輩、出来れば部活動には入らないでくださいね!」

「ハハハ。おっけーおっけー。レンちゃんの為にもそうするねー」



 ◇ ◇ ◇



 ―――と、カワイイ後輩と共にそんな微笑ましい会話のやり取りをした次の日。その花の女子校で。お淑やかなはずの女子校で。この私、立花マコは……


『『『追えぇええええええええ!!!』』』

「ひぇええええええええええ!!?」


 どういうわけか朝から血眼になった先輩方に追いかけまわされていた。


『ちぃ……!見失った……!どこに行ったのあの子!?』

『まだそう遠くには行ってないハズ……!草の根かき分けて探し出しなさい!そして全力でひっ捕らえなさい!場合によっては拉致監禁!お薬に洗脳教育も許可します!』

『本部、本部!対象ロスト!至急応援を頼む!繰り返す、対象ロスト!至急応援を……!』

『マーコーちゃぁああん……?どうして逃げるのぉ……?かくれんぼかなぁ……?』

『コワクナイヨー?お姉さんたち、トッテモ優しいから……大人しく……デテオイデー……』

「……ゼェ、ゼェ……はぁ…………はぁあああ……!」


 中学時代、コマファンクラブたちから追われに追われて鍛え抜かれたこの自慢の逃げ足を駆使し。どうにかこうにか追いかけてくる二年生、三年生の先輩方の魔の手から逃げのびた私。

 物陰に隠れて息を整えつつ、私は切実に思う。


「……なんなの!?これ、一体何事!?なんで!?なんで私追われてるの……!?」


 朝。いつものようにのんきに登校し、いつものように校門をくぐり抜けた瞬間。各々紙とペンを握りしめ、私を懸命に追い立ててくる先輩たち。昔の癖でとっさに逃げ出したけど……何故私は追われているんだ……!?昨日まで何もなかったでしょ!?私何かしたっけ!?


「う、恨みを買った?それとも昔みたいな……コマのファンたちによる強襲?で、でもそれにしては殺意とか嫉妬みたいな感じじゃないよね……?」


 無い頭を回して分析してみるけど心当たりが全くない。中学の時みたいな如何にも『立花……コロス』的な感情は全く感じないからわけが分からない。

 ……つーか、そういう方向性で追っかけられるならまだいいんだ。慣れてるし。そういう負の感情を向けられていないのに、ここまで執拗に追っかけられているからこそ。逆に不気味で怖いんだわ……


「と、とにかく…………なんとかコマやカナカナたちと合流をしないと……」

『『『居たぁああああああっ!!!』』』

「みぎゃぁあああああ!?」


 こそこそと移動しようとした瞬間。先輩たちから見つかって、再び鬼ごっこスタート。こわい、先輩たちが純粋に怖い……!顔見知りの先輩たちだけじゃなくて見知らぬ名も知らぬ先輩たちから全力で追われるこの恐怖……なんなの今日は一体……!?


「せ、先輩たち落ち着いてください!?なんで、なんで私追われているんですか!?」

『なんでって、立花ちゃんが逃げるからでしょ!待ちなさいよ立花ちゃん!』

『いいから!とりあえず大人しく私に捕まりなさいなマコさん!悪いようにはしないから!ちょーっとここにサインをするだけでいいから!』

『いいえ、そいつの言う事は聞いちゃダメ!アタシと一緒に来なさいマコちゃん!これからずっと、アタシといっぱい、楽しい事をしましょう!?ね、ねっ!?』

「だから、何の話ですか!?」

『『『大人しく、私たちの、部活に、入れぇえええええええ!!!』』』


 …………そう、私は知らなかったんだ。本日がこの学校の……


【部活動勧誘解禁日】


 という事を。

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