(番外編)ダメ姉は、バレンタインを満喫する

  ~一か月前~



「マコ姉さま。唐突ですが……来月はバレンタインデーがありますよね?」

「ん?うん、そうだね。ああコマ。安心して!今年もバレンタイン期待しておいてよ!お姉ちゃん、コマの為に頑張ってめちゃ美味しいチョコ作ってあげるから!」

「ふふ、いつもありがとうございます。姉さまが作ってくださる料理はすべて美味しいので今から楽しみです。……っと。そうではなくてですね。姉さま、ちょっとお尋ねしたいことがありまして」

「ふぇ?なーに?」

「今年は……その。実は私も、ちょっと姉さまの為にチョコを用意したいと思っているのです」

「…………!?こ、ここ……コマが、チョコを!?私の為に!?」

「ええ。今までは味覚障害のせいでチョコを用意できなかったり、バレンタインの時に限って何かと用事があって姉さまにお渡しできませんでしたが……今年こそ、姉さまに心のこもったチョコをお渡ししたいんです」

「ふ、ふぉお……ふぉおおおおおおお!こ、コマからの、恋人同士のチョコ……本命チョコ……!?え、嘘やだ超うれしい……!いつもはコマに上げるばっかだったから……嬉しい!マジで……!?う、うぉおおお……!」

「喜んでいただき嬉しいです♪……それで、姉さまはどんなチョコが食べたいのか聞いておきたくてですね。ホラ、手作りがいいとか。あのお店のあのチョコが食べたいとか色々あるでしょう?愛する姉さまへの愛の証明ですからね。姉さまのどんなニーズにも応えたいと思っています。どうでしょう?何かご要望がありますでしょうか?」

「こ、コマからの恋人チョコってだけで、私十分に嬉しいよ!多くは望まないよ、もうなんだったらカカオそのまま渡されても、チ〇ルチョコ一個でも十分幸せだよ私!」

「い、いえ。そんなロマンスの欠片もないのはいくら何でも……とにかくご要望があれば何なりと申し付けください姉さま。何か食べたいチョコはないのです?あとこういうシチュエーションがいいとか、こういう場所で食べたいとか……姉さまの為に何かしたいんです私」

「そう言われても……そうだなぁ。んー…………しいて言うなら。チョコプレイ、とか?」

「……はい?」

「体にね、チョコ塗って。んでもってコマがこう言うの。『姉さま、私を食べて♡』って。そーいうの夢だった!」

「…………私を食べて」

「なーんて、まあそれは冗談だけどね。とにかく私、コマがくれるものなら何でも嬉しいよ!今から当日が楽しみだなぁ!……よーし、これは私もいつも以上に張り切ってコマへのチョコを作らなきゃねーっ♪」

「…………ちょこ、ぷれい……」



 ◇ ◇ ◇



「―――ハッピーバレンタイン、コマっ!早速だけどチョコどうぞ!」


 2月14日。本日は恋人たちに愛の贈り物―――具体的に言うとチョコレートを贈る日である。……日本のお菓子業界の陰謀?もともとはそんな日じゃないって?別にそんなのどうでも良いじゃない。

 大好きな人に、大好きな気持ちを贈る……女の子の大好きな気持ちを後押しするイベント。それが悪い事だなんて私は全く思わないわ。


「はい、いつも本当にありがとうございます姉さま。……まあ!本当に美味しそうですね。これ、チョコのケーキですか?」

「うむす!ザッハトルテだよー。チョコレートケーキの王様、なんて呼ばれてるケーキなの。相当にあっまいからそこの砂糖入ってない生クリームと一緒に食べると丁度いいよ」

「色どりもつやも素敵……香りもとても素晴らしいです。これ、相当手間がかかったケーキでしょう?」

「えへへ。ちょっとお姉ちゃん頑張っちゃいました!ご飯食べ終わったらゆっくり食べてね!」


 物心がついた時からほぼ毎年コマにチョコはプレゼントしていたけれど、家族として……姉としてコマにプレゼントしていた時とは違い、今では恋人同士なコマとの関係。そんなわけで今年はより一層気合を入れちゃったんだよね私。

 それに今年は……例年以上に気合が否が応でも入るというものだ。何せ……


「そ、それより……さ。その、あの……こ、コマ…………コマも、私もチョコを……」

「あ、はいです姉さま。大丈夫ですよ、ちゃんと……姉さまへのバレンタインチョコは用意しておきましたよ」

「ッしゃぁ!」


 コマのその一言に、思わず私はグッとガッツポーズ。妹からの、彼女からの、お嫁さんからの……本命チョコ……!それはもう、まるで初めて母親以外の女性からチョコを貰った少年のようにコマの前ではしゃぐ私。

 そこまで喜ぶのか?血の繋がった家族からのチョコなのにそんなに嬉しいものなのかって?嬉しいに決まってんだろがい!一か月くらい前に『私も姉さまにチョコあげます』って言われてから今日まで……期待と不安で胸いっぱいだった。昨日なんか『本当にコマに貰えるのか?』『貰っても良いのか?』と、一睡もできなかったくらいだし。


「ただその……姉さまのこの素敵なプレゼントに比べたら、私のなんてかなり見劣りしちゃうと思います。正直言うとギリギリまで『これは、ないのではないでしょうか』と悩みましたし…………へ、下手をしたら。姉さまにドン引きされるかもしれませんし……」


 歓喜に溢れその場で小躍りしているおかしな私に、コマはちょっと苦笑い気味にどういうわけかそんな事を言い出す。

 は?見劣り?ドン引き?何言ってんだコマは。コマがくれるものならば、たとえそれが他の人にとってはごみでも私のとっちゃ宝石以上の価値があるに決まっておろうに。


「そんな事ないよ。コマが私を想って、私の為に用意してくれたものが私のと見劣りするだなんてありえない。どんなものでも、私は嬉しいよ!」

「そ、そうですか?ありがとうございます……で、では。ハッピーバレンタインです、姉さま!」


 そう言ってコマは私に小さな瓶とお化粧の時に使う筆のようなものを手渡してくれる。ほほぅ、これがコマの選んでくれたチョコか。


「ありがとコマ!ええっと……ああ、これ中にチョコが入ってるんだね。パンに塗るチョコクリームみたいな感じ?この筆っぽい奴でクリームを掬って食べるのかな?」


 コマにプレゼントされたそのオシャレで……ちょっぴり大人な雰囲気を醸し出す瓶の蓋を開けてみると、甘い香りがふわり漂う。中にはトロっとしたチョコクリームが入っていた。

 早速ぺろりと蓋についていたそのチョコを舐めとってみる。……うん、美味しい!


「素敵なプレゼントありがとコマ!ありがたく、味わって食べさせてもらうよ!」


 コマのチョコレートに感激しながらそう言いつつ顔を見上げた私。するとその先には……


「よい、しょっ……と」

「…………ぶふぉっ!?」


 どういうわけか。いつの間にやら着ていた上着とスカートを脱ぎ捨て、セクシーな下着姿になっていた我が愛しき妹の姿がそこにはあった。

 完全に油断していただけに、毎日毎晩見ていて見慣れているはずだというのに久しぶりに鼻から赤い体液が勢いよく迸る。え、ちょ……何してんのコマさんや!?


「……よし。お、お待たせしましたマコ姉さま、準備完了ですよ。さあどうぞ!」

「じゅ、じゅじゅ……準備!?何の!?どうぞって何!?てか、なんで……なんで脱いだ!?か、風邪引くよ!?」

「これからやることに必要な準備ですので。ああ、部屋は暖かくしているので大丈夫ですよ。……それよりも姉さま。姉さまに渡したそのチョコですけど……」

「え、あ、うん……」

「使い方、間違ってます。それは普通に食べるものではなくてですね―――身体に塗るものなのです」

「は、はぁ…………ハァ!?」


 何言ってんのこの世界一可愛い下着姿のヴィーナスは……!?


「所謂ジョークグッズですね。これ、ボディペイント用のチョコです。一応塗料ですが食べても問題ないものを使用してあって安全なものなんですよ。付属されている筆で恋人同士が身体に塗って、そしてそれを舐めとって遊ぶように作られたチョコレートだとか」

「なにそれ!?てか、なんでそんなもの買ってきたのコマ!?」

「???だって……チョコはどんなものがいいか尋ねたら、姉さま言いませんでしたか?『チョコ体に塗って、私を食べてって言ってほしい』的な事を……」


 言った。確かに言った。……いやでもアレ冗談よ!?ちがう、違うの!?妹に対してガチでそういうヤラシイ事頼んだわけじゃないのよ誤解しないでねコマ!?

 い、いかん……まじめな子に下手な冗談はまずかったわ……


「……正直、私もこれはどうかと思いました。流石に『食べ物で遊ぶの止めなさい』って怒られるかもって思っていました。ですが……私たち、恋人同士なわけですし……何かしらのプレイの役に立ちそうだったので。それに何より……」

「な、何さ……」

「姉さまも、あの時は『冗談だよ』とは言っていましたが、何割くらいかは本気で言っているように聞こえましたから……思い切ってコレ探し出してみたんです」

「…………」


 ……いや、まあ確かにほんのちょっとだけ。冗談と入ったけどそういうプレイがしたいと思わなくもなかったのは否定しない。

 自分の中の欲望を見抜かれ目を逸らす私。そんな私の反応を見てコマはその意味を察したようで。少しホッとした表情を見せながら、私が持っていたそのチョコクリームを指で掬い……


「さて……では改めまして。コホン―――姉さま、どうか私を……食べてください♡」

「~~~~~~ッツ!!!」


 頬や唇、胸やお腹。肌が露出しているいたるところにペタペタペタペタと塗って……蠱惑的な瞳で私を誘ってきた。


「いい、の……?食べて、いいの……?」

「良いんです。バレンタインですから」

「理性、吹っ飛ぶよ……?ちょっと自分抑えられないかも……」

「吹っ飛ばしてください。抑えないでください。私を……食べて」


 …………ああ、もう。こんなえっちで素敵なご馳走を前にして、据え膳食わぬは女の恥。コマが恥ずかしい想いをしながらもこんなにも私の事を考えてくれたバレンタインチョコ……ありがたくいただくに決まってんだろがい!

 というわけで、イタダキマス……ッ!


「れろ……」

「ぁ……っ♡」


 最初に頬を、耳を、鼻を額を。顔にチョコが付いているところを丹念に舐めとっていく。お腹を空かした子猫のように一心不乱にコマの顔中ペロペロペロペロ。チョコはどんどん私のお腹へと流し込まれていく。


「……甘い、おいし……」

「そう、ですか?」

「ん……コマも、舐めてみる?」

「はい……」


 瓶からチョコクリームを掬い、自分の舌に乗せ。そのままコマと唇を重ねる。


「……んぅ、ちゅ……んちゅ……ぇろ…………ふふ♪ホント、甘いです。美味しいですね」

「ちゅ……んはぁ……うん、そうでしょ。すっごい甘くて……おいしくて……最高」


 ……それにしても不思議。さっき味見をした時よりも、更に甘く、そして美味になっているように感じる。これはあれか?コマの唾液と混ざり合ったから、余計にそう感じるのかな?やはりコマの唾液こそ至高の調味料なのか……今、世界の真理にたどり着いてしまった気がする……

 そんなアホな事を考えながらも一旦唇を離し、顔のチョコすべてを舐めとったのを確認すると今度はその下へと降りてゆく。


「今度は……首とか舐めさせてね……」

「はい……ぁ、ああ……っ」


 首筋。そこに塗られたチョコをゆっくり舌を這わす。途端にぶるりと身体を震わせるコマ。


「そこ、ゾクゾク……しますね」

「あ……ごめん、嫌かな?」

「いえ、嫌なのではなく……弱いだけです。気にせずお好きに……」


 双子故、弱点も似通っているのだろうか。私も首筋とがかなり弱い。つまりはここがコマの……感じるところか。ならば……


「あむ……」

「ひゃぁんっ!」


 いつもはやられっぱなしだし。普段のちょっとした反撃も意も込めて。ほんの少し首筋に歯を立てて、そしてそのまま塗られていたチョコごと吸い付いてみる。すると熱い吐息と甘い声を漏らし、コマはビクンっと小刻みに震えた。


 見上げるとせつなそうに自分の指を噛み。頬を上気させ瞳を潤ませるコマの顔が見える。その顔を見ていたら……自分の中のムラムラとした欲求がさらに沸き立ってきてどうしようもない。

 お、落ち着け私……少し冷静になれ。い、いくらコマから誘ってきたとはいえあまりコマに無理はさせたくない。適度なところで切り上げないと明日の授業に支障が―――


「姉さま……どうしました?」

「え、あ……いや……」

「ほら、まだ残ってますよ……もっと舐めてください。……もっと、私を食べて……」

「はうわぁ!?」


 ―――ダメだコレ。無理だコレ。このままノンストップで完食しますわ。


 今度は鎖骨の窪みに入り込んでいるチョコを丹念に舐めとる私。まるで赤ん坊。母乳を求めて一心不乱に胸に吸い付く赤ん坊。これでも一応姉なのに、血の繋がった妹にそんな事をするなんて恥ずかしい……でもやめられない……

 そんな私をコマはただただ優しく微笑みつつ、いい子いい子するようにポンポンと頭を撫でてくれる。そんなコマに甘えるように、私はコマの全身にチョコを塗っては舐めとり舐めとっては塗り……


「ねえさま……ねえさま……んぐ、んちゅ……」

「コマ、こま……!もっと、もっと飲ませて……その甘いの、飲ませてぇ……!」


 時にクリームとコマの唾液を混ぜ合わせ、口移しで飲ませて貰い。


「れ、ろ……んぅ、れろ、れろ……んじゅ……」

「あー……なんか、さっきと違った意味でゾクゾクします姉さま…………これ、変な性癖目覚めそう……」

「わ、私も……目覚めそう……」


 コマの手の指に、足の指に。いっぱいのチョコを塗り、それを舐めさせて貰ったり。


「……うわー。これヤバイ。なんか……ホントにコマが私専用になったみたい……」

「何を言っているんですか。私はいつでも姉さま専用ですよ♪」


 付属されていた筆でコマのお腹に『立花マコ専用』とチョコで描いてみたり。


「……凄い。すごい……チョコのブラジャーだ……」

「あ、あはは……コレ、流石にちょっと恥ずかしいですね。なんだか露出狂になった気分…………ん?姉さま?どうしました?そんなもじもじして」

「…………あの」

「はい」

「…………それ、舐めても、いい……?」

「……ふふっ♪だから、遠慮などなさらないでください。チョコは食べる為にあるもの。そして……私は、姉さまのチョコです。さあ、食べて……」


 チョコでコマの美乳を覆って、そしてそれをすべて舐め取らせて貰ってみたり―――



 ◇ ◇ ◇



「ハァ……ハァ……はぁ、あぁ……♡」


 そんなこんなでコマという名のチョコを堪能しまくった私。あれだけあったチョコクリームはすべて私の胃の中へと消え去って、気づけばコマの美しい神の造形とも思えるその身体に……赤い痕が全身至る所に刻み付けられていた。

 コマは肩で息をしながらも、なんだかとても気持ちよさそうに周囲にハートマークを飛ばしている。


「ごめんコマ……調子に乗り過ぎた……無理させちゃったね……」

「い、いえ。良いのですよ……私が、望んで……やった事ですし……」

「でもコレ、しばらく痕残っちゃうかも……」

「ふ、ふふ……何を、言うのです姉さま。嬉しいです、よ……姉さまにいっぱい愛された証なんですから。……一生、痕が残っても良いと思えるくらいに……」


 身体に残った汚れ(主に私の唾液とか二人分の体液とか)を温かいタオルで拭き取ってあげながらベッドに横たわるコマに謝る私。……何故だろう。なんか今日はいつも以上に自分を抑えられなかった気がする。

 …………そういや親友のカナカナが『チョコって媚薬効果もあるのよね』とか前言ってたような……?いや、まさかね……


「それで、姉さま」

「うん?」

「私のバレンタインチョコ……いかがだったでしょうか?」

「…………最高でした。叶う事なら、またやりたいです……」

「それは良かった♡私も、恥を忍びながらもこれを選んだ甲斐があったみたいで何よりです。またしましょうね、姉さまっ!」


 情けない姉のおねだりに、それはそれは嬉しそうにコマは喜ぶ。ああ、今年のバレンタイン……これまで以上にハッピーなバレンタインだったわ……

 この後回復したコマと共に、今度は私の作ったザッハトルテを食べさせ合いっこしながらそんな事を思った私であった。







「ところで姉さま。話は変わりますけど……来月はホワイトデーがありますよね?」

「ふぇ?あ、うんそうだね。それがどうかしたのコマ?」

「ホワイトデーと言えば……最近は、三倍返しや四倍返しが基本だそうですよ」

「…………え」

「と、言うわけで姉さま。……来月は、お返し楽しみにしていますねっ!」

「…………お、お手柔らかに……お願いします……」

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