ダメ姉と、いい双子の日(夜)
親友たちと双子あるあるネタで盛り上がったその日の夜。
「―――実際さ、あると思うんだよね。双子特有のテレパシー」
「?急にどうなさいましたかマコ姉さま?」
夕食を終え仲良く洗い物を済ませてから、リビングのソファに並んで座り食後のお茶を楽しんでいた私とコマ。
ふとお昼の一連の会話を思い出して、話の種になるかなと思いつつ私はコマにそう切り出した。
「いや、お昼の話の続きだよ。双子にはテレパシーがあるんじゃないかってやつ」
「あー。あの話ですか。……そうですね。私もあると思いますよ」
割と突拍子のない話だけれど、コマは私と同意見な様子。
嘘くさい?話誇張してるだろう?いやいや。そりゃ滅多にない事だけど、時々勝ちで理屈じゃ説明できない双子ならではのテレパシーだったりシンクロが起こるんだよ。
「ヒメっちには『盗聴器のお陰でしょ』って言われたけど。盗聴器なくてもね、コマに危険が迫ってたりするとどれだけ遠くにいても私なんとなく分かるんだよね。急にお腹が痛くなったり、胸がムカムカするんだもん」
実際以前コマが悪い男共に狙われた時、私の中で何かが警鐘を鳴らしてたもんね。双子特有の強い魂の繋がりってやつだろうか?だったらちょっと嬉しいな。
「流石は双子ですね。私も姉さまがピンチな時、すぐに察知できますよ」
「おっ、やっぱコマも?」
「ええ。例えば―――姉さまがかなえさまに言い寄られた時とか、姉さまがレンさまに抱きつかれた時とか、見知らぬ誰かにナンパされてた時とか。すっごく嫌な気分になるんです。その場に居なくても、ああ……これは姉さまの貞操の危機だなってわかっちゃうんです」
「えっ」
「ですから……ご安心くださいね姉さま。もしも連中が姉さまを狙って良からぬことをしようとしても、この私が全力で。……ええ、そうです。全力で
「…………」
……は、ははは……おかしいなぁ。コマがピンチってわけでもないのに急にお腹が痛くなってきたし、胸がムカムカしだしたぞぉ……?
「そ、それはさておき!双子の強い繋がりって日常生活でも感じるよ私。『あ、今私コマと電波受信しちゃってるなー』って思う時がよくあるんだよ」
「ほほう。それは興味深い。例えばどんな場面でですか姉さま?」
「んーとね、身近な例だと……ああ、ホラ。さっきの夕食の時とかがそうだったんだけど―――」
~マコ回想中~
「コマー♡お待たせ、出来たよー。先に『アレ』置いといてー」
「あ、はーい。『鍋敷き』ですね。ちゃんと置いておきましたよ。……ああ、姉さますみません。鍋置いたら『アレ』を冷蔵庫から出しておいて貰えますか」
「うん、『ポン酢』ね。りょーかい。コマも『ソレ』の準備ヨロシクー」
「畏まりました。ちゃんと『お玉』も『菜箸』も準備しておきますね」
~マコ回想終了~
「―――てな感じで。『アレ』とか『ソレ』だけで会話が通じちゃってたじゃない?それこそ双子特有のテレパシーとか以心伝心だと思うんだよねー。これちょっとロマンチックに感じないコマ?」
固有名詞を一切出さずに、それどころかアイコンタクトすら必要とせずに。二人の事を完璧にわかり合ってる風にお互いの言いたいことを察する事が出来る私とコマ。
他の親しい友人や後輩とやってもこんなに上手く会話は中々成立しない。これこそ双子の強い繋がりなんじゃないだろうか。
「……ふ、ふふ……ふふふっ……!」
「って……あ、アレ?コマ?どしてそこで笑うの?」
そう自信満々にコマに言ってみた私なんだけど。どうしてかコマはそんな私の話を聞いて可笑しそうに笑いを溢し始める。わ、私なんか変な事言ったかな……?
「ね、姉さま……それ双子特有のテレパシーと言うよりも……ふふっ……!」
「言うよりも?」
「『アレ』とか『ソレ』とかで通じるのって、どちらかというと……双子というより熟年夫婦の会話じゃありませんか?」
「……あれ?」
……言われてみれば、確かに。そう言われると急にロマンティックさとは真逆の会話に感じてしまう。おおっと……?この年ですでに会話が熟年夫婦チックとか、このままでは私たちあっという間に老婆モードになっちゃうのではないか……?
ま、まだ私もコマも新婚ホヤホヤラブラブカップルですよ……!?恋人として付き合い始めて一、二年しか経っていませんよ……!?
「…………(ボソッ)ふふっ♪熟年夫婦、熟年夫婦ですか……姉さまと、ラブラブ熟年婦~婦ですか……♡いい、良い響きです……うふふふふ……」
もうちょい若々しく初々しいカップルらしい会話を出来るように特訓しておこう。心の中でそう誓う私であった。
「ところで姉さま。お昼の話題繋がりで聞きますが……」
「んぁ?なぁにコマ?」
そんなしょうもない誓いを胸の内でしていると、コマが満面の笑みを浮かべつつそう聞いてきた。
「姉さま言ってましたよね。『コマの考えていることなら、私なんとなく察せられるよ』って」
「んー?うん、言ったねー」
「それは……今も察せられますか?私の考えていること。望んでいること……わかりますか?」
「……ふむ?」
コマが今現在考えていること、望んでいること……ねぇ?そう言われてコマの愛らしいお顔をじっと見つめてみる。
宝石みたいにキラキラ輝く瞳は、何かを期待するようにまっすぐ私を見据えている。頬は仄かに赤みを帯び息遣いはちょっぴり荒い。……これは。
「……うん、わかる。わかったよ」
「ふふ……流石は私の姉さま、ですね。私の考えお見通しですか?」
いやー……多分このコマの蕩けきった表情見たら、誰でも見破れると思うけど……まあそれはさておきだ。
「私からもコマに聞いて良いかな?」
「はい、何なりと」
「コマはさ、お昼……『姉さまが何を考えているのか分かるようになりましたよ』ってみんなの前で言ってたけど。私が今何を考えているのか分かるかな?私が、今何をしたいのか分かるかな?」
お返しと言わんばかりに私もコマに挑発するようにニヤリと笑い、そう尋ねてみる。コマは間髪入れずに自信満々に『ええ、分かりますとも』と答えた。ホホゥ……ならばよし。
「ね、コマ。多分これ……二人がやりたいことって一緒だと思うんだよね」
「奇遇ですね。私もそう思いますよ」
「そんじゃ答え合わせの時間だね。せーので当てっこしようか」
「そうですね。……何をしたいのか、口に出さなくても良いですか?」
「無粋だし、いらないでしょ。口に出さなくても、もうわかり切ってることだもん」
「ふふ……確かに。ではいきましょうか姉さま」
「「せーの」」
そうして私たち双子姉妹は。お互いがやりたい事を示し合わせたかのように始める。静かに目を閉じ、顔を寄せ合い。そしてゆっくりと小さく開いた互いの唇と唇を近づける。
……うん、流石は双子。口に出さずとも互いの考えは一致した。ほら見たまえ。テレパシーはやっぱりあるじゃないか。
私たちがやりたいこと、それは―――
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