ダメ姉は、卒業する(先生編)
私、立花マコと愛する双子の妹立花コマがこの学校に入学して……早三年が経った。目を瞑れば思い出す、あの日あの時の思い出―――
同級生や後輩、先輩は勿論の事。先生たちにまでダメ姉だのバカ姉だのと罵られたり。
コマやカナカナのファン共から『さっさと別れろ』という内容の
コマやカナカナのファン共から『別れる気がないならその気にさせてやる』と全力で追い回されて拷問を受けたり。
コマやカナカナのファン共から『ダメ姉、ブチコロス』と割と本気で命を狙われたり。
「…………あれ?なんか、悪いことばっか思い出してないか私……?」
おかしい。ろくな思い出がないような気が……?
ま、まあそれはともかくだ。色んな感情を胸に秘めつつ。私たちは今日―――この学校を卒業する。
◇ ◇ ◇
「―――お前が無事に卒業でき、尚且つ高校に通える日が来るとはなぁ立花……」
「それはどーゆう意味です先生?」
卒業式を前に、(一応)お世話になったからと先生たちに挨拶しておこうと職員室を訪れた私。
そんな私に三年間私の担任として毎日のようにバトルを繰り広げた暴力教師がしみじみとそんな事を言い出した。
「何ですか?まさか先生は私が高校受験を失敗するとでも思ってました?」
「いいや。それ以前の問題だ。ぶっちゃけると毎年進級できるかどうかすら怪しいと思っていたぞ」
「留年の心配されてたんですか私!?」
地味に酷い……そして周りの先生たちも『あー、確かに』とか言ってみんなで盛大に笑わないで下さいよまったく……
「しかしお前……本当に大丈夫なのか?」
「へ?何が大丈夫なのかですか先生?」
「勉強もダメ、運動もダメ。そもそも社会性や常識というものが皆無なお前だからな。先生心配だぞ。卒業後、ちゃんと生きていけるのか?妹のヒモになるのだけはやめてやれよ」
「なんて真剣な顔で、なんてことを言い出すんですかね先生……」
切実に酷いこと言うのやめてください。私だって理想のコマのお姉ちゃん目指して日々頑張っている身ですし、ヒモなんかになりなくないですよ。
……まあコマは『私としては、姉さまを養っていきたいので。姉さまがヒモでも全然OKです。寧ろ積極的に私のヒモになって姉さま♡』とかマジで言いそうだけどさぁ……
「それにしても……ああ、立花も今日でこの学園を去ることになるのか……立花が卒業かー…………くっ、う……うぅ……ッ……!」
「え……せ、先生……?」
と、そんな失礼な事をずっと呟いていた私の担任の先生が、突然天を仰ぎ目頭を押さえ始める。先生の目からは一筋の涙が流れ出てきたではないか。え、えっ……?
「うぅ……うぉお……立花ぁ……!」
「ま、まさか……泣いてるんですか先生……!?」
これは流石に驚いた。いっつも私を鉄拳制裁で怒るあの暴力教師が……私の防犯グッズ(スタンガン・催涙スプレー・盗聴器etc.)を再三に渡り没収した横暴教師が泣いているところなんて、この三年間で一度も私は見たことがなかった。
可愛い教え子が卒業するんだ。やっぱり先生にも思うところがあるのだろう。これが鬼の目にも涙というやつか。
「ああ、立花……お前みたいな史上最強最悪の悪夢のような常識外れの問題児からやっと解放されると思うと、先生はもう涙が止まらなくなるぞ……!」
「って、嬉し泣きかよ!?」
最後までなんて失礼な教師だろうか。今までにない最高のスマイルを嬉し涙交じりに見せつけてくるのやめろやマイティーチャー。腹立つわ。
『わかりますよ池田先生。立花がいなくなると思うと肩の荷が下りますなぁ』
『立花さんに悩まされ続け胃薬と友達になった三年間でしたが……これで胃薬に頼らなくていい穏やかな学園生活が送れるんですね……!』
『立花がいる学校は、毎日が戦場のようでしたからね。やっとこの学校に平穏が訪れると思うと感慨深い。明日からがとても楽しみですねー』
担任の先生に便乗して、周りの先生たちも可愛い生徒本人の前でその本人のプチ悪口大会を始める。こうなったら最後の嫌がらせとして留年してやろうかこんにゃろうめ……
くそぅ……ちょっと挨拶に来ただけなのに、何故にこんなにボロクソ言われねばならないのか。…………え?普段の行いが悪いからだろうって?それは否定しない。
「さて。卒業するお前に一言言わせてくれ。いいか立花?高校生になったら向こうの高校にくれぐれも迷惑をかけるんじゃあないぞ。中学生はもう卒業するんだ。これからはちゃんと高校生としての自覚をもって常識と良識のある行動を取るように。…………もし下手にお前が向こうで迷惑をかければ、高校から『オタクの学校は生徒に何を教えているのですか』とクレームが来て先生たちの責任問題になりかねないからな……」
「最後の一言さえなければすっごい良いこと言ってるっぽいのに……まあいいですけどね。それよか先生、私も先生に言いたいことがあってここに来ました」
「何……?言いたいこと、だと?」
私のその一言に、警戒心を上げて身構える担任の先生。……ちょい待ち。何故そんなに警戒してんですかアンタ。
「まさか卒業式当日まで妹の良さについて語る気じゃないだろうな?もう卒業式も始まる目前だ。お前のいつものシスコン話に時間を取られて式が遅れるのは勘弁だぞ。それともアレか?想像もつかないアホのような非常識な事を言い出して、また先生を困らせようとしているのか?頼むから卒業式の日くらいは先生を困らせないでくれよ立花」
「まるで私が普段から妹の事か非常識な事だけしか口にしてないように言うの止めて貰えません?流石に偏見ですよソレ」
「偏見も何も紛れもない事実だろうが。……で?なんだ?」
やれやれ。先生が話題を逸らすせいで、本題に入るのにこんなに時間がかかったじゃないか。まったくもう……最後まで仕方ない先生だなぁ。
内心そんな事を考えながらも、私は姿勢を正し。そして目の前の担任の先生に、そして職員室にいる先生たちに向かって頭を下げる。そして……
「―――池田先生、それに他の先生方も。三年間、お世話になりましたっ!」
「「「っ……!」」」
心からの感謝の言葉を贈った。
「先生の言う通り、ぶっちゃけ迷惑ばっかかけたダメ生徒でしたけど。この通り、今日無事に卒業できます。こんな私を一生懸命指導してくれたこと、導いてくれたこと。本当に感謝しています。ありがとうございました!」
「たち、ばな……」
自分で言うのもなんだけど。先生たちにはこれまで本当に迷惑をかけたと思う。シスコン変態おバカで常識外れの生徒として最低最悪な私にここまで真摯に根気よく向き合ってくれたお陰で……私は何とか卒業出来るし、これから先の未来を歩むことが出来るんだ。
一番厄介だった生徒に言われてもあんまし嬉しくないかもしれないけど。それでも私は一言先生たちに……特に担任の先生に言いたかった。『ありがとう』と。天敵に弱みを見せるみたいで嫌だったし、何より恥ずかしくてなかなか言えなかったけど。卒業式の日くらいは正直に感謝させてくださいよ。
「さーてと。んじゃ式に遅れると不味いんで、一旦教室に戻りますね私。失礼しましたー!」
そう言ってもう一度だけ頭を下げて職員室を後にする私。ここに来た目的は済んだことだし、先生たちも卒業式の準備やらなにやらがあって忙しいだろう。長居するのも悪いし、とっとと退散するとしますかね。
『…………くそ……言いたいことだけ、言って……返事も聞かずに去りおって…………最後まで、はた迷惑な生徒だよ……お前は……』
『……池田先生。涙、溢れてますよ』
『気持ちはわかります。あの立花が『ありがとうございました』……かぁ。これはちょっと、ぐっと来ますよね。私もちょっと泣きそうになりましたもん』
『その涙は、最後まで取っておきましょう先生。さあ、式が始まりますよ』
『…………はい』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます