ダメ姉は、ダイエットする(マッサージ編)

「―――と、言うわけでさカナカナ。レンちゃんのダイエットは私ついていけなくて……残念ながらギブアップせざるを得なかったんだよ……」

「あー……それはまた、マコも災難だったわね」


 後輩であり私を慕うレンちゃんとのダイエットは、私のあまりの運動能力の低さとレンちゃんのあまりの運動能力の高さが原因で敢え無く失敗に終わってしまった。


「まあ、あの後輩ちゃんってバリバリの体育会系みたいだし。そりゃ基本インドア系のマコに合わないのも仕方ないわよね」

「そうなんだよね……私の為に色々考えてくれたレンちゃんには悪いけど、やっぱ体動かすのは私にはちょっとね……体力無いし、筋肉痛がヤバいし。あー……痛てて……」


 三時間ほどレンちゃんに付き合っただけで、すでに私の身体は悲鳴を上げている。全身倦怠感が圧し掛かり、酷使した右腕は今も上げようとする度に激痛が走ってどうにもならない。

 ……2歳下の後輩はあれだけ元気だったのに、私ってば情けないなぁ……


「安心しなさいマコ。そんなお疲れのマコの為に、わたしがとっておきのマッサージを施してあげるわ。本来の目的だったダイエットにも繋がるから、一石二鳥よ」

「おぉ!さっすがカナカナ!頼んだよ!」

「任せなさいな。必ずマコを満足させてあげるわ」


 そんな頼もしい事を言う親友に連れられて、疲れた身体に鞭を打ちやって来たのはカナカナのお家。そのままカナカナのお部屋に通され『準備があるから、マコはしばらく休んでなさい』と言うカナカナのお言葉に甘えてゆったりする私。


「ところでさー、カナカナ。ちょいと聞いてもいいですかな?」

「んー?何かしらマコ」

「今更だけど……マッサージってダイエットに効果あるの?」


 手際よく何やら準備しているカナカナに気になっていたことを私は聞いてみる。レンちゃんの運動は……ダイエットに直接関わることはこの私でも分かる。

 けれどもマッサージってダイエットに役に立つって話は、私は今まで聞いたことがなかった。編集さんは『マッサージもダイエットに良いですよ』って言ってたけど……何がどう良いのだろうか?


「そうね。まあマッサージしたからって直接脂肪がなくなるってわけじゃないけれど、続けることでスリムになれるそうよ。これからやるリンパマッサージをすることで滞っているリンパの流れを促進させ、身体に溜まっている老廃物や水分が出しやすくなるの。特に……むくみにはかなり効果があるって言われているわ。脚が細くなったり、小顔になったりね」

「へぇ……」


 その……りんぱ?っていうのはよくわからんけど。とりあえず効果があるって事だけはわかった。


「さて。こっちの準備は出来た事だし。それじゃあマコ」

「はいはい、何ですかなカナカナ?」


 そんな話をしているうちに、カナカナはオイルやらバスタオルやらなにやらの準備を整えてくれたようだ。カナカナは私をベッドに座らせつつ、満面の笑みを浮かべてこんな事を言い出す。


「はいは―――はい?」

「服を、脱いで」


 ……ん?


「あ……の。カナカナ?一体、何を言って……」

「だから、脱いでって言ってるのよ。服を」

「なぜ?何故に脱がねばならぬのかね?」

「だってマッサージするのに邪魔だもの。何?あんた制服と下着をオイルでヌルヌルに濡らしたまま帰りたいわけ?それ、正直おススメはしないわよ」


 あ、ああなるほどね。これからやるやつってオイルも使う本格的なマッサージなんだね……さてどうしよう。


「(カナカナのお家で、カナカナと二人きり。そんなシチュエーションで脱げと言われるのは……)」


 正直言おう。この流れは……カナカナに美味しく頂かれそうな気がひしひしとする。だってカナカナ前科あるもの(※『ダメ姉は、ネイルする』参照)。

 だ、大丈夫か?脱いで良いのか?つーか、今更だけど私……あれ程コマに『かなえさまと二人っきりになるのは極力避けてくださいね♡』って忠告されていたのに、またノコノコとカナカナのお家にお邪魔してるじゃん……


「マコ?どうしたの?マッサージ、やらないのかしら?」

「ぁう……」


 ……けれど。折角カナカナにここまで準備して貰ったわけだし。それに何が何でもコマの為、ダイエットを成功させたい。


「大丈夫よ。心配しなくてもマッサージ中、マコの身体は……マコの大事なところはバスタオルで隠すから。ね?」

「……う、うん」


 カナカナの目を見る。……悪意はない、と思う。純粋に友である私の為にダイエットに付き合ってくれているように感じる。

 だったら…………親友を信じよう。


「……わ、わかった。脱ぐね……」

「……ええ。お願いね」


 散々悩んだ結果。カナカナのマッサージを受ける事を決めた私。親友の隣で服を脱ぐことに。初めは制服。ブレザーを脱ぎ、その下のブラウスと……スカートを脱いだら下着姿に。


「…………すっごい可愛いの……着てるのねマコ。……かわいい……まこ……」

「ちょ、ちょちょ……み、見ないでよカナカナ……!?」

「あ、ああうん……ごめん」


 下着姿になった瞬間。隣にいたカナカナが食い入るように私を見ていることに気付く。すぐに謝るカナカナだったけれど、視線は依然こちらを向いたまま。

 お、女の子同士。親友同士とは言え、そんなにまじまじ見られるのは……流石に恥ずかしい。ダイエットしなきゃいけないダルンダルンな醜い身体だから見られるのヤダよぉ……


「えと……し、下着も……やっぱ脱ぐの……?」

「そ、そうね……替えの下着とかないなら……脱いでくれると助かるわ。わたしの貸しても良いけど……マコには合わないだろうし」

「うん……じゃ、脱ぐ……」


 真っ赤になりながらも下着をするりと脱ぐ私。脱いだらカナカナに用意して貰っていたバスタオルを急いで羽織って……


「こっ、これでオーケー?」

「あ、うん……それじゃマコ。ベッドに横になって。まずは仰向けで」

「わ、わかった……よろしくお願いします……」

「まずは……そうね。リフトアップからいきましょうか。むくみやたるみを解消できるわよ。クレンジングから始めるけど……マコ、良いかしら?やって欲しい事があるなら言って頂戴な」

「ごめん、そもそも何が良くて何が悪いのかとか全くもってわかんないから……全部カナカナにお任せするよ」


 そうしてベッドに寝そべって。カナカナのダイエットマッサージが始まった。

 最初は顔を引き締めるマッサージ。洗顔されツボを押され、そしてカナカナの長く細い綺麗な指で顔全体をマッサージされる。


「今日はマコの後輩ちゃんに付き合って身体が随分凝ってるみたいだし。ダイエットマッサージを始める前に軽くストレッチを兼ねた全身マッサージもしてあげるわ」

「おぉ……それは助かるかも。頼んだカナカナ」

「ええ、頼まれたわ」


 顔のマッサージを手早く終わらせると、カナカナはそう言って疲れている私の為に全身マッサージもやってくれる。レンちゃんとの死闘(?)で強張っていた全身の筋肉が、カナカナの手によって優しく解きほぐされていく。

 その極上の感覚に、私の顔はいつも以上にだらしなく蕩けてしまう。


「ぁ、あー……ん、っ……ふぁあ……」

「ふふっ、お客さまー?気持ち良いですかー?」


 カナカナに身体を揉まれる度、恥ずかしいけれども我慢出来ずに悶え喘いでしまう私。そんな私を楽しそうに笑いながら、カナカナはまるで本物のエステティシャンさんのように問いかけてくる。


「ん……。すっごく、気持ちいいよ……とっても上手だよねカナカナ……こんなの、どこで……はぁ……覚えた、の……」

「まあ、うちの親がこういう仕事してるからね。なんとなく……自然に覚えたのかしらね」


 マッサージを続けながら『ちなみに使ってるオイルとか器具もそのおさがりみたいなものなの。だからお金の事とかは気にしなくて良いからね』なんて言ってくれるカナカナ。

 あー……めっちゃありがたい、きもちいい、生き返るぅ……


「さーてと。マコの身体も程好く温まってきたみたいね。そろそろ本命のダイエットマッサージを始めるわよ」

「ふぁーい……」


 いつの間にか全身を覆っていた倦怠感はどこかへと去ってゆき、数十分前まで死にかけていた身体に活力が蘇る。そのタイミングでカナカナは用意していた小瓶を取り出して私に見せてくれる。


「言っておいた通り、オイルを使ってマッサージをしていくわ。疲労回復にはローズマリー辺りをいつもは使うんだけど……今回のマコのメインはダイエットなわけだし。コレ使うわね」


 そう言ってカナカナが小瓶の蓋を開けた途端……辺りには何とも言えない独特の香りが漂ってくる。その匂いを嗅いだ瞬間私の脳裏に浮かんだイメージは……


「墨汁……?」

「ふふっ。マコならそう言うと思った。これはね『パチュリ』の精油よ」


 墨汁の匂いのような……土の匂いのようなそれは、精油エッセンシャルオイルの一種だとカナカナは無知な私に説明してくれる。


「パチュリオイルはね、ダイエットにとっても効果的なのよ」

「ダイエットに……?」

「パチュリにはリンパのつまりを和らげる効果があるの。血行も良くなるしむくみも取れるのよ。何よりも食欲抑制効果があるからダイエットにちょうど良いのよね」

「おぉ……それは心強い味方だね!」


 なるほど……そんな素敵なものがあるとは。今の私にはピッタリな一品じゃないか!


「ちょっと独特で癖が強い分、好き嫌いが分かれるやつだけど……どうかしら?使って良い?フローラル系のイランイランに混ぜて使うから、多少マシになるとは思うんだけど……」

「ん。大丈夫。嫌いじゃないよコレ」

「そう。それはよかった。なら……ありがたく使わせて貰うわね、マコ」

「……?うん、お願い」


 何故カナカナが『ありがたく使わせて貰う』なんて言い出してるんだろうか?それ、私の台詞なのでは?そんな事を考えながらもカナカナに言われるがままにそれを使う事を許可する私。


「スイートアーモンドオイルにイランイランと一、二滴のパチュリを加えて……よく混ぜる。…………よし、こんなものかしら。それじゃマコ。今度は仰向けになって。ちょっとくすぐったかったりオイルが気持ち悪かったりするかもしれないけど、頑張ってね」

「あいあい了解。……っん」

「……大丈夫?」

「へ、平気平気。続けて」


 オイルを塗りたくったカナカナの手が背に触れると、私はビクッと身体を震わせてしまう。けれどもそれは一瞬だけ。


「うっ……はぁ、んん……」

「どう?痛くない?」

「いい、よぉ……もっと……カナカナもっとぉ……」

「…………ぅ、うん。まかせて……全身、するから……今度は、うつ伏せになってね……」


 絶妙な力加減で圧迫しつつオイルを塗りたくるカナカナの手腕に、再び私はうっとりとしてしまう。カナカナはそんな私の反応にどうしてかちょっと挙動不審になりながらも丁寧に丁寧にオイルを塗っていく。

 私の全身はカナカナの手によってテカテカと鈍く怪しく光り出す。背中を、わきの下を、鎖骨を、耳周りを、首を、ふくらはぎを、関節を、胸を、お尻を。全身がカナカナに触れられあっという間にオイルまみれに。


「さっきの、オイル……使ってるんだよ、ね……?嗅いだ時、ちょっと……ぁ、ん……びっくり、しちゃった……けど。いい、香りだね……んゅ」

「相性の良い精油と調合したからね。良い香りでしょう?とってもよく効くのよ。…………


 墨汁のように感じたオイルの匂いは、いつの間にかとても深くて甘い不思議な香りとなって私の鼻腔を刺激する。なんか、嗅ぐたびにあたまがポーっと……なっていくような……


「ハァ……ハァ、はぁあん…………身体あっつ……」

「…………(ゴクリ)」


 オイルの効果かカナカナが上手なのか、はたまたその両方か。カナカナがオイルを私に塗り、身体を揉むごとに血行が良くなり全身に血が巡っていくのをハッキリ感じる。

 肌は上気し桜色に染まり、しっとりと汗ばむ私の身体。血行が良くなり過ぎたせいか?何だか胸が……すっごく、ドキドキしてきた……ような……?


 いや、でもこれ……いくら血行が良くなったからって……この、胸の高鳴りは……それにこの、身体の異変は……


「あ、あの……カナカナ?」

「…………(モミモミモミ)」

「ね、ねぇ……ねえカナカナ?カナカナさん?」

「…………(モミモミモミ)」

「かっ、カナカナッ!」

「…………(モミモミモミ)へ?あ、ゴメンマコ。揉むのに夢中で聞いてなかった?なあに?どうかした?痛かった?」


 少し……そう、ほんの少しだけ嫌な予感がし出して。私の胸やお尻を全力で揉みしだいているカナカナを一旦止める私。

 カナカナは三度目の声掛けにようやく気付き(それでも揉む手は決して止めず)私の話を聞いてくれる。


「いや、あの。いたくはない。痛くはないんだけど……ちょ、ちょっとその……身体、おかしいの……」

「おかしい?何が?」

「な、なんか……胸がね、ドキドキして止まんない。汗がヤバい。頭ポーってなる。それとその…………か、身体の一部のところが、疼くというか……」

「…………ほほう」

「き、聞いてもいい?さっきの……なんだっけ?パチュリ?ってやつ……ホントに大丈夫なやつなのかな?」


 明らかに何かがおかしい気がする。荒い呼吸を吐きながら、何とかカナカナに尋ねてみる私。カナカナは『心外ね』と言わんばかりにため息を吐いてこう答える。


「失礼な事言わないでよマコ。コレ、マコが考えているようなヤバイものじゃないわ。少なくとも身体に害を与えるようなものじゃないもの。精神疲労・気分の落ち込みに効き、風邪やインフルエンザの予防、果ては防虫剤にも使える素敵な精油の一つよ」

「そ、そう……なら良かっ―――」

「…………あー、けどごめんねぇ。最初に言い忘れてたわ。身体に害はないけれど―――







―――実は、

「…………は、い?」


 ……親友、今何と?


「パチュリ……ああ、それから香りの緩和の為に混ぜたイランイランも。どっちも催淫効果がある精油なの。性的な感情を昂らせる……媚薬的な効果があると言われているわ。夜のムード作りとかにおススメだってさ♡」

「……」

「いやぁ、ごめんごめん。パチュリがダイエットに効く精油だって事ばかり考えすぎてて、催淫効果の事はすっかり忘れてたわー」

「嘘つけぇ!?その顔は、絶対確信犯でしょうがぁ!?」


 そのカナカナの……まるで夜のコマのような肉食獣めいた目を見た瞬間確信した。間違いない、ワザとだコレ……!?


「……ちぇっ。バレちゃ仕方がないわね。そうよ、ワザとよ。それが何?マコが悪いのよ……わたしの気持ち、知ってるくせに。一度この場所で襲われかけたくせに。それなのに無防備にノコノコとわたしと二人っきりになって。しかもこんなエッチな恰好までしちゃって……誘っているとしか思えないわ。こんなの、襲わない方が失礼ってものよね……!」


 開き直った上で、何言ってんだこの親友は……!?や、ヤバい……この流れは非常にヤバい……!てか、やっぱし最初から私の事手籠めにする気満々だったのかこの娘は……!?


「ちょ、ちょっと待とうか我が愛しい親友よ。わ、私にはコマという心に決めた人がだね……」

「知ってる。で?それがどうかしたの?それを言うならわたしにはマコっていう心に決めた人がいるわ」

「強いなその返し方……って、待て待て待て!?カナカナ、何で私たち全裸なのさ!?」

「マッサージの続きをするのに邪魔になるからに決まってるじゃないの。安心しなさいマコ……身体の奥の奥まで、気持ち良くマッサージ……シてあげるから……」


 気が付いたら服を全て脱ぎ捨てて、そして私が纏っていたバスタオルも剥ぎ取って。私に静かに迫るカナカナ。カナカナ一体いつの間に脱いだ!?つか、私もいつの間にバスタオル剥がされた!?


「だ、だからダメ……カナカナやめて……」

「ダメって言う割に、随分と期待しているみたいじゃない?ソコとか、ソコとか。もう凄い事になってるわよ」

「だ、誰のせいでこうなったと思ってんのさ!?」

「わたしのせいよ。だから……責任とって、鎮めてあげる。さあ、マコ。大人しくわたしに委ねなさい」


 出入り口を背にして私に詰め寄るカナカナ。逃げ場など無し。仮に逃げ場があっても、多分私の身体能力ではカナカナには勝てない。ば、万事休す……


「ね?痛い思いはさせないから。気持ち良くなるだけだから。だからマコ、目を閉じて……」

「た、たたた…………助けてコマぁああああああ!?」


 抵抗は無駄だと悟り、ただただ私は最愛の妹に助けてと叫ぶ。







「―――お任せくださいマコ姉さま。そして……かなえさま、いい加減にしなさい」

「……へ?」

「あいたぁ!?」


 …………叫んだ瞬間。何処からともなく現れて。私を抱きしめながら、ハリセン片手にカナカナを引っ叩くヒーロー見参。

 私とカナカナの間に現れたその人は。今まさに私が名を呼んだ……


「「こ、コマ(ちゃん)!?」」


 我が双子の姉妹にして、最高のお嫁さん。立花コマその人であった。あ、コレなんかすごいデジャヴ。


「ああ、マコ姉さま……なんて素敵なお姿―――じゃない。なんておいたわしいお姿に……安心してくださいね。私が、この後すぐにお風呂に一緒に入って全身隈なく洗って差し上げますので」

「え、あの……え?いやその、何故……?何故コマがここに……?」

「姉さまのピンチには、必ず駆けつける。それが出来る妹というものです」


 流石は私のコマだカッコいい。……良いのかい?そんなイケメンムーブしちゃったら、私またコマに惚れちゃうぞ?


「こ、コマちゃんですって……!?ど、どういう事よ!?確かに『いつもの流れなら、もうそろそろ現れる頃かもしれない』って内心思っていたけれど……どうやってこの部屋まで来たの!?前回の反省を活かし、玄関には鍵をしっかりかけてたのに!?」


 一方、また一歩手前で邪魔の入ったカナカナは。当然の疑問をコマに投げかける。あ、それ私も気になる。コマはどうやってここまで来れたんだ……?


「玄関は閉まっていましたが、他の所が開いていたのでそこから入りました」

「まさか裏口?……いや、でもそこも閉めたわ。他に開いているところなんて……」

「開いていましたよ?……ほら、そこ。窓が開いてるじゃないですか」

「……二階の、窓?え、何?まさか梯子持って来たの?そこまでする普通?」

「梯子なんか使いませんよ。雨どい伝ってよじ登り、普通に窓から入りましたがそれが何か?」

「「…………」」


 私とカナカナ思わず絶句。何やってんのコマ……?その素晴らしい身体能力で、何泥棒チックなことやってんのコマ……?

 てか、危ない事しないでお願いだから……そんなおバカな事で怪我なんてしたら、お姉ちゃん泣いちゃうぞ……


「呆れた……不法侵入で訴えるわよコマちゃん」

「その前に貴女を姉さまを襲った暴漢として訴えるので大丈夫ですかなえさま」


 絶好のチャンスを潰されたカナカナVS嫁を寝取られかけたコマ。どうやら両者怒り心頭なご様子で、私をサンドイッチにしていつものように……あ、いやいつも以上に激しい口論を始める。


「と、言いますか……何をしていたのですか貴女は……!いえ、言わなくて結構。貴女がまたしても姉さまを誑かし、姉さまを手籠めにしようとしていたって事くらい、説明されずともこの状況を見れば一目瞭然ですものねぇ……っ!」

「ナンノコトカシラ?これはただのマッサージよマッサージ。慣れない運動を頑張って疲れたマコに、善意でマッサージしていただけですがー?」

「カタコトになってますよかなえさま。……こんないかがわしいマッサージ、あるわけないでしょうが……っ!」


 私もそう思う。これをマッサージと言い張るカナカナ凄いな…………まあ、コマにダイエットの事を隠しておきたい私は、余計なツッコミ出来ないけれども。


「仏の顔も三度までと言いますが、私は神でも仏でもありませんのであしからず。前回のアレコレから舌の根の乾かぬ内にこれとは……もう勘弁なりません……!ここで貴女を抹殺し、姉さまとの明るい未来を築いてみせます……!最大の脅威である貴女さえいなくなれば、私と姉さまのラブラブな姉妹愛は永遠に安泰なのですからねぇ……!」

「良い度胸ね、気に入ったわ!返り討ちにしてあげるからかかって来なさいな!最強の恋敵である貴女さえいなくなればちょろいマコならすぐに堕とせる……!マコとの甘く蕩けるイチャラブ生活を貴女を倒して手に入れてみせる……!」

「と、とりあえず二人とも落ち着いて……喧嘩はまだしも血で血を洗う私争奪戦とかダメ絶対、OK?」


 …………結局。この後の二人を宥めるのに精一杯で。それと……


「ならこうしましょうかなえさま。丁度良い舞台が整っているわけですし。どっちが姉さまを気持ちよくマッサージ出来るかで決着を付けましょう」

「えっ」

「望むところよコマちゃん。敢えてわたしの得意分野で挑んだこと、後悔させてあげる。わたしなら10秒もあればマコを昇天させる自信があるもの」

「えっ」

「ふふ……愚かですね。姉さまを昇天させることに関して、この私に右に出るものがいると本気でお思いとは片腹痛い」

「その油断が命取りよ。わたしのテク、舐めないでよね」

「あ、あの……二人とも?どうして私をそんな熱い視線で見つめているの?どうして手をワキワキさせてんの?ちょ、ちょっと落ち着こうか…………だ、ダメだって。ゆるしてこないで、ホントダメ―――みぎゃぁああああああああ!!?」


 それと。二人がなんかよくわからないバトル展開に発展したせいで。私のダイエット作戦は、またしても失敗に終わってしまったのであった……

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