ダメ姉は、ママになる(後編)

~SIDE:コマ~



 運動部の助っ人、合唱コンクールの助っ人。年度末に舞い込んでくる生助会のお仕事に、卒業式の在校生代表スピーチにetc.

 時期が時期だけに。ここ最近私、立花コマの元には普段以上に学園の生徒・先生から頼まれ事を持ち込まれています。それこそ寝る暇もなくって感じで、一つ頼まれ事を片付ければまた一つ頼まれ事が追加される勢いです。本日も休日だというのに『立花さん、申し訳ないけれどお願いして良いかしら』と先生方に呼び出されちゃいましたし……


 ……まあ、私としては姉さまに良いところを見せられる機会が増えますから良いのですけどね。


 世界一可愛くて素敵な双子の姉のマコ姉さま。そのマコ姉さまと恋人になって以来、私って幸せすぎて浮かれて調子に乗りすぎて……今まで隠し通していた素を―――シスコンで病み気味でえっちな事に興味津々でいつでも姉さまをオイシク頂きたいという―――素を、姉さまの前で出し続けていました。

 姉さまは『そういうコマも含めて大好きだよ』と言ってくれていますが……この辺りで少しでも私の活躍を見せておかないと、将来姉さまに呆れられて捨てられちゃう恐れもありますし好感度上げに努めておかなければ。


 そんな事を考えつつ姉さまと私の愛の巣……もとい私たちの自宅へ辿り着いた私。さあ、今日中に卒業式で使う祝辞を完璧に仕上げなければと意気込んでいたのですが……


『…………お帰りなさいコマ。お疲れ様』

『あ、はい!ただいまです姉さ―――』

『帰って来て早々悪いんだけど、ちょっとコマにお話があります。着替えたら私のお部屋まで来なさい』

『え、え?』


 ……こ、これは一体どういう事でしょう?玄関で仁王立ちをして待っていたマコ姉さまに、帰って早々そう云いつけられてしまいます。


『待っているから。それじゃ、また後で』

『……あ、ハイ……です……』


 困惑する私をよそに、姉さまはさっさと自分のお部屋に戻られますが……あの口調、あの態度……あれはまるで私に対して怒っていたような……?仮に怒っていたとして、何に対して……?怒られるような理由が全く思い浮かばないのですが……

 とにかく姉さまを待たせるわけにはいきません。光の速さで部屋まで戻り着替えを済ませ、姉さまのお部屋の扉を恐る恐るノックします。


「ま、マコ姉さま……お待たせしましたコマです。は、入っても宜しいでしょうか……?」

『……どうぞ』


 覚悟を決め、姉さまのお部屋に突入。中に入るとマコ姉さまは目を瞑りベッドに静かに腰掛けていました。


「いらっしゃい。ゴメンね、疲れているところに急に呼び出して」

「い、いえ……大丈夫です。あ、あの……姉さま?それで、その。一体なんの―――」


 一体どんな罵詈雑言が飛んでくるのだろうと、内心興奮―――じゃなかった。内心ドキドキビクビクする私。そんな中マコ姉さまはと言うと、カッと目を見開き何やら覚悟を決めたような凛々しいお顔で私を真っすぐ見つめ、そして……


「おいで、

「…………は?」

「おいで、コマちゃん」


 慈愛に満ちた笑顔を見せ、大きく腕を広げ私を迎え入れるように……そんな事を言い出したではありませんか。

 い、いや……え?コマ、ちゃん……?コマちゃん!?


「あの姉さま?今なんか妙な呼び方を……」

「おいで、コマちゃん」

「いえ、ですからその……これは一体……」

「おいで、コマちゃん」

「え、ええっと姉さま。説明、説明を……」

「おいで、コマちゃん」

「…………失礼、します」


 わけもわからず状況説明を求めるも、姉さまは聖母のように慈悲深い笑みを浮かべたまま『ここに来なさい』と暗に命じるように腕を広げて私を待つのみ。会話が一切進行しません。

 根負けした私は姉さまの元へふらふらと歩みより、


「改めて、おかえりなさいコマちゃん」

「や、ちょっと……きゃっ!?」

「ほーら。ちゃんと頭乗せて。横になって。楽にしてねコマちゃん」


 そして近づいた先で姉さまにぎゅっと頭を抱えられ、なすすべもなく私は姉さまのお膝に沈みます。こ、これは……これは……ッ!


「(ひ、膝枕……ッ!?)」


 そう、それは膝を……より正確には太ももを枕に見立て。相手の頭を乗せてあげるという所謂膝枕というもの。わ、私……今姉さまに膝枕されちゃってる……!?


「(え、なんで?なんで?私、怒られるんじゃないのですか?なんでこんな……こんなご褒美みたいなことされているのですか?)」


 この状況を理解しようと必死に頭を回そうとしますが……無防備な事に姉さまがスカートを履いたまま膝枕なんてしているせいで、全く思考がまとまりません。白くてむちむちした姉さまの生の太ももに頭を、顔が埋められていると……愛しい人の香りに包まれる心地良い感覚とか、生足ぷにぷにの柔らかさとかぬくもりとか、一番大好きな人に頭を支えて貰えるという安心感とか幸福感とかが私の脳内を犯してきて……


 困惑したまま見上げる先には大きなお胸。そして優し気な聖母スマイルを浮かべたままの姉さまのお顔。……怒ってたんじゃないんですか?なんで『コマちゃん』なんて呼び方しているんですか?何故膝枕なんですか?


 もうダメ、わかんない。ますます混乱が増すばかりです。そんなパニックになりかけている私に対して、姉さまはこう語りかけてきました。


「ねぇコマちゃん。コマちゃんの今夜の予定はなーに?」

「よ、予定ですか……?えと……その。祝辞を仕上げようかなって思ってて……」


 姉さまの膝枕に、そして甘い甘い芳香に酔いかけながらも息も絶え絶えにそう答える私。その返答に対し姉さまは『うんうん』と頷きながら、


「そっかぁ。コマちゃんはとっても真面目で偉いねぇ。お姉ちゃんはコマちゃんの頑張るところ好きよ」

「あ、あはは……ありがとうございます。そう言って頂けると嬉し―――」

「―――でもダメ。今日はダメ。お仕事なんてさせてあげない」

「は、い……?」


 笑みを絶やさずそう言い放ったではありませんか。


「お姉ちゃん思うの。コマちゃんはさ、最近働き過ぎだと思うんだよ。学校にいる時は勿論の事。家に帰っても寝る間もなく働いて。今日だって折角のお休みなのに、休日出勤しちゃうし。いくら休めと言っても私の言う事聞いてくれなかったよね?このままじゃ遅かれ早かれ身体を壊しちゃうよ」

「ご、ごめんなさい……でも、それは……だって……姉さまに良いところを見せたくて……つい」

「わかってる。コマちゃんの気持ちはお姉ちゃんわかってるよ。だけどお姉ちゃんはコマがいつまでも健康で、ずーっと私の傍に居てくれる方が嬉しいの。案の定今日もまた夜も寝ずに働く気満々よね?多分ここで私がどれだけ言っても、コマちゃんは夜中にコッソリ起きて仕事しちゃうでしょ」

「……」


 流石姉さま。私の浅はかな考えなど、まるっと見抜いておいでで……


「だからお姉ちゃん決めました」

「決めたって……な、何をです?」


 若干嫌な予感がしつつも姉さまに質問する私。その質問に姉さまはふふんと鼻を鳴らしつつこう答えてくださいました。


「今晩は……私がコマちゃんのママになります。コマちゃんのママになって、コマちゃんを癒して癒して癒しまくって、そして徹底的に休んで貰います。お仕事なんてさせてあげません!」

「…………」


 そのドヤ顔気味の(超かわいい)姉さまの宣言に、私数秒絶句。マコ姉さまが……ママ?ママに?あ、ああなるほどです。さっきからずっと気になっていましたが……ママに成り切っているからこそ『コマちゃん』なんて呼び方をしているのですね。だから姉さま膝枕なんてやっているのですね。

 なるほどなるほどそういう事ですか。よくわかりま―――すみません、やっぱりよくわかりません。え、え?どうしましょう。姉さまが何言っているのか、ちょっと私理解出来ない……


「分かったかな?ま、そういうわけだから。早速始めちゃおうねコマちゃん」

「待ってくださいわかりません、全然理解できません……と、とりあえずですね姉さま。今日中に祝辞を完成させないと間に合わなくなっちゃうので、そのママになるお話しはそれが終わってから―――」


 なんて私が言い終わる前に。不意にマコ姉さまの手が動きます。その手はゆっくりと私の頭を目掛けて動き、


「あ、あっ……あっ……はふぅぅ……」


 そして私の頭を、撫で始めたではありませんか。慈しむように優しく髪を梳き、丹念に頭を撫で撫でしてくださります。

 その手つきに、その行為に抗議する声は引っ込んで……代わりに気の抜けた情けない声が私の口から飛び出てしまって……


「ふふ……気持ち良いね、コマちゃん。かわいいお顔になってるねぇ」

「あ、ダメ……や、やめ……」

「今日は休も?ね、休もうねコマちゃん。このままママとねんねして良いのよ?ママのお膝でねんねしようね。今はなんにも考えず、ゆーっくり休もうねぇ」


 私のその情けないザマを見て気を良くした様子のマコ姉さまは、更に私を甘やかします。最初は右手で髪を、頭を撫で。


「目を瞑っていいよぉ。ほーら、ねむねむになってきたよね?ゆーっくり夢の中でママといっしょにおちようねぇ」

「ま、まって……あっ、あっあっ……あぅ……」


 私の反応を伺いつつ耳を、頬を、喉を、唇をかわりばんこに撫であげて。その間左手は私のお腹をぽんぽんと、まるで本当に赤子を寝かしつけるように軽く叩いて……


「(まず、い……これはマズい……!)」


 その手があまりに気持ち良くて。普段から触りっこはしているハズなのに、今日のはまた格別に気持ち良くって。私をあやす天使のような甘々ボイスと極上の膝枕を味わっている事も相まって、トロンと瞼が落ちかけてしまいます。

 祝辞、書かないといけないのに……流されたらいけないのに……ドロドロに溶ける……寝落ち、しちゃう……


「だ、だめ……ダメですねえさま、止めてぇ!?」

「あらら……ダメよコマちゃん、そんなに暴れたら危な―――」


 天使のような悪魔の誘惑に、なんとか抵抗しようとする私。姉さまの手を何とか振り払おうとジタバタと身をよじる私。……それが良くありませんでした。


「ぁんっ!……も、もうコマちゃん?いたずらっ子ね」

「ッ!?わ、わわわ……も、申し訳ございません姉さま!?」


 姉さまの魔性の手を振り払おうとした矢先。偶然にも私の手は姉さまの柔らく豊満なお胸をがっしり掴んでしまいます。あ……姉さまの声、色っぽい…………じゃ、なくて!?


「わ、ワザとではないのです!し、信じてください姉さま!?」


 慌てて手を離し謝罪する私。そんな私を前に、姉さまは慈愛に満ちた笑みを絶やさずこう続けます。


「ん。良いのよ。ママはコマちゃんが望んでいる事、ちゃーんと分かっているからね」

「わ、分かっている?分かっているって……な、何を?」

「決まっているわ。胸を掴んだって事はアレでしょう?コマちゃんはお腹が空いたのよね。うん、分かってる分かってる。あ、ちょっと待っててね。準備は万端だからね。よいしょ……っと」

「ッ!?!!!?ね、ねねね……姉さま、何を……!?」


 突如としてニットの胸元を広げ、その大きなお胸の中をなにやらゴソゴソし始めるマコ姉さま。何事かと目を見開いている私の横で(念のため言っておくと断じて。断じて姉さまのお胸に釣られて目を見開いたのではありません。ええ、断じて違います)姉さまは胸の谷間から何かを取り出して、それを私に見せつけました。


「はーいコマちゃん♡ミルクですよー♡」

「…………」


 私、再びの絶句。先ほど以上に固まります。そりゃそうですよね?だって姉さまが谷間から出したのは、ミルクの入った哺乳瓶。あ、あはは……あはははは!そっかぁ。ミルクかぁ。

 うん、そうですね。姉さまがママに成り切ってるならば、当然こういう事もしますよね。あはは。あはははは…………いや、いやいやいや。もう待ってくださいませ姉さま。


 それを、飲めと……!?


「はいコマちゃん。おいしいミルクですよー♪お口をあーんしましょうねー♪」

「ね、姉さま?流石に本気、じゃないですよね?これはそのあのえっと」

「ん?……ああ、大丈夫。ちゃんと適温で美味しいハズよ。冷めないようにママのお胸でずっと温めていたし」

「秀吉ですか姉さまは!?……い、いえそういう問題じゃなくてですね!?」


 流石にこれ以上進むと、私もう戻れない気がします。先ほど以上に抵抗しようとした私ですが……


「安心してね。この哺乳瓶はちゃんと煮沸消毒しておいたから」

「ですからそういう問題でもなくて―――」

「……あ、もしかして哺乳瓶が嫌なのかな?ゴメンね。コマちゃんが昔使ってた哺乳瓶は残念ながら見当たらなくて、仕方なしに使代用してるけど……やっぱママの使ってた奴とか嫌だよね」

「…………なんですと?」


 その一言に抵抗を一時中断する私。哺乳瓶をジッと凝視すると、その底には『マコ用』と書かれているではありませんか。つまりあれは……赤ちゃん時代の姉さまが愛用し、毎日ちゅぱちゅぱ吸っていた哺乳瓶というわけで……

 それが今、姉さまのお胸で温められ。そして私の目の前に『どうぞ』と差し出されているわけで。


 …………想像して、思わずゴクリと生唾を呑み込んでしまいます。


「(お、おおおお……落ち着くのです立花コマ。冷静に、冷静になるのです。そんな誘惑に釣られてはなりません。心を鎮め、冷静にお断りするのです……!)」


 頑張れ理性。負けるな自尊心。気をしっかりもって私……!


「嫌ならこの哺乳瓶処分して、新しい奴買いに行くね」

「え……?」

「じゃあゴメンねコマちゃん、ママ今から買ってくるね」

「あ、あぅ……まって、いやでも……でも……あ、あぅぅうぐぐぐぅ……!!?!?」

「ちょっと待っててね。ママすぐに戻るから―――」

「―――イタダキマス」


 …………無理でした。この誘惑には勝てませんでした。



~コマちゃんミルク中:しばらくお待ちください~



 結局恥を忍んで姉さまの哺乳瓶で姉さまに抱っこされつつミルクを飲ませて貰った私。ただの牛乳を温めただけなのに……それは今までに味わった事のない極上の味がしました……


「うふふ♪良い飲みっぷりだったねコマちゃん。美味しかったかな?」

「…………ハイ」

「それはよかった。ああ、おかわりもこの魔法瓶の中にあるから欲しいなら遠慮しないでね。あ、勿論お腹いっぱいになったならねんねしても良いし、遊び足りないならママがいーっぱい遊んであげますからねー♡」

「ぅぐ……」


 再び胸の谷間から、今度は魔法瓶やら赤ちゃん用のおもちゃやらを取り出してとってもいい笑顔でそんな事を言ってくるマコ姉さま。

 ……こ、これ以上は……これ以上は危険すぎます……


「も、もう結構です姉さま!?本日は本当にありがとうございました!」

「え?結構って……?」

「十分!十分に癒されました!癒されましたから……もう今日はこの辺で許してください……!?」


 手を合わせて涙目でそう懇願する私。


「……ん、んん?許すって……?何の話を……」

「ホント、今日までに祝辞仕上げないとマズいんです!そろそろ解放してくださいませ……!お願いです、どうか……どうか……」

「…………ほほぅ?」


 一瞬ぴきっと額に青筋を浮かべるマコ姉さま。……祝辞はただの言い訳。……ごめんなさい、でもダメなんです。そろそろこの天国のような蟻地獄から抜け出さないと……本格的に戻って来れなくなる……

 ……心地良過ぎるママの沼に、がっつりと嵌って、このままじゃもう私……本気でこれ以降姉さまの事をママと認識しちゃいかねない……私のなけなしの理性が踏みとどまってくれるうちに、ここから出ないと……もう……


「ふーん、そっかぁ。コマちゃんは……ここまでしても、ママの言う事聞いてくれないんだぁ……そっかそっかぁ……まだ無理する気なんだぁ……」

「あ、あの……別にですね、嫌だったわけじゃないんです……正直最高でした。最高すぎて……ダメだったんです……」


 平謝りしつつ懇願する私。そんな私を前にして、姉さまはため息一つついてから……


「…………うん、いいよ。そこまで言うならこの辺で勘弁してあげる」

「っ!ね、姉さま……!」


 私の祈りが通じたのか、案外あっさりと許してくださりました。よ、良かった……やっぱり姉さまは優しいです。どんな時でも、私が本気で嫌がる事は絶対にしませんものね。ああ、本当に良かった……







 そうやってホッと胸を撫で下ろした私でしたが……次の瞬間。本日三度目の絶句をする羽目になります。


「ん……しょっと。ふぅ……スッキリした」

「…………ぇ」


 ……完全に油断していました。お陰で止める暇などありませんでした。私を膝枕していたマコ姉さまは何の前触れもなく着ていたニットを、そしてブラを唐突に脱いでしまったではありませんか。


「……ぇ?ぁ、の……え?」

「それじゃあコマちゃん。選んで」


 脱いだ服をベッドに放り、上半身一糸まとわぬお姿になられた姉さま。唖然と、ただただバカみたいに姉さまのお胸を凝視するしか出来ない私に、姉さまはこんな二択を提示してきました。


「強制はしない。コマちゃんがもうこういう事されたくないなら……このまま自分のお部屋に戻って祝辞を書くなり何なりすればいい」

「……」

「でも……もしも今日は仕事を一切せず、このままちゃんと休んでくれるって約束してくれるなら―――」


 そう言いながら、作り置きにしておいたミルクの入った魔法瓶の蓋を開け、姉さまはそれをドクドクとご自身の胸に盛大にぶちまけ塗りたくると。


「……私のおっぱい、好きにして良いよ」

「~~~~~~ッッッ!??!!!!??」


 蠱惑的な笑みを浮かべつつ、そんな殺し文句を言い放ちました。


「ほんとうの赤ちゃんみたいに、私のおっぱいミルクちゅーちゅー吸って良いよ。舐めて、吸って、甘噛みして。今日一日、いーっぱいママに甘えて良いんだよコマちゃん」

「あ、ぁう……ぁ、あぁぁ……」


 白いミルクが滴るミルク以上に真っ白な乳房に、その中央には淡い桃色の乳首。そしてそれを一切隠すことなく両手を広げ、私を聖母の笑みで迎え入れるマコ姉さま。

 いいえ、この場だけは……姉さまとは言えませんね。私の、私だけのママ……


「ほら、コマちゃん―――おいで」

「ぁ―――」


 この瞬間、私の中の何かが壊れました。


 ……当然自分のお部屋に戻ることなど出来ずに。盛大に姉さまのお胸にダイブして……その後はそれはもう、いっぱいいっぱい甘やかされてしまった私。は?理性?自尊心?なんですソレ?こんな光景見せられて、耐えられる人いるわけないでしょうが。


 …………そんなわけでこの夜は。控えめに言って、最高の夜でした……



 ◇ ◇ ◇



~SIDE:マコ~



 ……コマを癒し、休ませ、甘やかす。そんなちゆり先生直伝のオペレーションは大成功。


「…………そうでしたか。姉さまに助言をしたのはちゆり先生、でしたか」

「うむす。ああしたらコマも絶対癒されるって教えてくれたんだー♡」

「…………(ボソッ)あの人またしても姉さまに余計な事を……ま、まあ今回はGJと言わざるを得ませんが……」

「?何か言ったコマ?」

「いいえ、何でも♡」


 あの後コマは私に思いっきり甘えてくれて、そして甘え疲れた後は……私の胸の中で今までの徹夜の分を取り戻すようにぐっすりと眠ってくれた。


「いやぁ、あんなにコマが甘えてくれるなんてね!お姉ちゃんは嬉しいよ!あんなのでよければ毎日でもさせてあげるからねコマ!」

「ッ!?ま、毎日…………だ、ダメです!毎日はダメ!魅力的過ぎますが、あんな凄いのは……色々とダメになります!禁止!禁止です!癖になったらどうするんですか!?」

「えぇー……ダメなの?別に癖になっても良くない?お姉ちゃん、コマにいっぱい甘えられて嬉しかったし」

「…………せ、せめて一週間に一回……い、いえ。二回か三回程の頻度で……お願いします……」

「!おっけー!任せてね!昨日は急過ぎて哺乳瓶くらいしか用意出来なかったけど、次やる時は前掛けとかがらがらとか、あと……オムツとかも用意してあげるからネ!」

「おむ……!?さ、流石にそれは……まだ早いかと!?」


 というか、大成功過ぎたっぽい。これ以降時々コマは日頃の疲れとかストレスを発散するように甘えてくれるようになったし。いやぁ、甘えられるって最高よね。やっぱ先生に相談して良かったわ。








 ああ……ちなみにこれはちょっとした余談。今回のオペレーション、大成功って言えば大成功だったけど。反面3つほど困った事が出来たのはナイショだ。


「ところで?今日の生助会のお仕事ですが―――」

「ぶふっ!?ちょ、ちょっ……コマ!?また言い間違えてる、言い間違えてるから!?」

「え?…………あ」


 ……一つ目はアレ以降。コマが私を『マコ姉さま』じゃなくて『ママ姉さま』と言い間違えてしまう事が度々出てきた事。


『お、おい聞いたか今の……ママ姉さまって……』

『オイオイオイ。立花姉の奴、さては家でコマさんに妙な調教をしてるんじゃねーだろうな……』

『きっとアレよ。マコの奴が無理やりやってんのよ。『今日から私をママと呼びなさい!言いつけ守らなかったらおしりぺんぺんよ!』って強制してるのよ……』

『『『気持ち悪いなあのダメ姉……』』』


 二つ目はそのコマの呼び方のせいで、友人たちから普段以上に妙な目で見られるようになった事。


 そして三つ目は……


「―――(ガシッ)聞いたよ、マコ。いいや、師匠」

「うぉ!?び、ビックリした……ひ、ヒメっちどうしたの?てか師匠って何さ?」

「……コマと、赤ちゃんプレイしたんだって?」

「…………君は何故それを知っているんだい?」

「そんな事はどうでも良い。それよりも……お願いマコ、やり方教えて」

「はぁ!?ま、またぁ!?」

「すっごい良かったんでしょ?私も……私も母さんとそういう事したいの……!母が娘役、娘が母役の赤ちゃんプレイ……倒錯的過ぎてきっとすっごい盛り上がる……!是非ともこの私めにそれを伝授してくださいエロ師匠……!」

「誰がエロ師匠だ誰が!?」


 …………真正マザコンの親友にまたも土下座され、渋々コマとのプレイを赤裸々に語る羽目になった事……かな。

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