十二月の妹も可愛い(後編)

 昨日の―――プチ修羅場&緊急ファミレス会議から一夜明けた今日。……本日12月13日は我が最愛にして至高の存在、立花コマの誕生日だ。


「…………はぁ」


 そんな世界が喜ぶ大変めでたい本日だけれど、私の心はどんよりとした不安に満ちていた。結局、昨日コマとヒメっちが何故私に嘘を吐いてまで二人一緒にいたのかわからず仕舞い。


「今日も……コマ、私と一緒に帰ってくれなかったし……」


 ため息を吐き独り言ちながら、私こと立花マコは帰り道を一人寂しくトボトボと歩く。昨日の今日だし、カナカナと浮気しているなんてあらぬ誤解を招かぬように―――


『こ、コマ?きょ、今日はその……お姉ちゃんと一緒に帰らない?実はコマに渡したいものがあってだね……』


 なんて言って、コマに誘った私だけれど。


『す、すみません姉さま……私、今日は姉さまより先に家に帰ってやらなきゃいけないことがありまして……』


 と、見事に振られたわけでして。


 いや、まあ……私もとある物をとあるお店から受け取らなきゃいけなかったし……良いサプライズになるから別々に帰ること自体は問題ないんだけれどさ……

 でもここまで避けられると、流石の私もマジでコマに愛想をつかされているのでは?と、嫌な勘繰りをしてしまうわけで。


「…………(ブツブツブツ)コマに限ってそんな事は絶対無いと信じているけれど、もしかしたら……付き合い始めて私のあまりのダメダメさを再確認してしまったコマに失望されたんじゃ……?見切りをつけられて、コマはヒメっちみたいな可愛くて賢くて運動も出来るコマに釣り合う人に魅かれはじめてるのかも。ヒメっちは否定してくれたし……万が一、いや億が一……兆が一の可能性だけど。もしも……コマとヒメっちが浮気をしてたら……」


 ……ああ、ダメだ。コマの生誕を死ぬ気でお祝いしなきゃいけない大事な日なのに、気持ちがどんどんネガティブな方に行ってしまっている……コマを、それから友人を疑うなんて最低だ私……

 こんな事考えてたら……ホントにコマに呆れられて捨てられちゃう……


「……あ、あはは……これって、まさかの破局ルートなのかなぁ……?もしそうなら、コレを作った意味……なくなっちゃうね……」


 コマの為、今日の為に……コマとの二人っきりになれる時間を削ってまで一生懸命作ったこの手の中の小さなもの。それを見つめて自嘲気味に笑う私。もしもコマが私と別れるのであれば……これ、無駄になっちゃうなぁ……そん時は、これ作るの手伝ってくれたカナカナにプレゼントしちゃおっかな……


「…………あ。もう着いたんだ……」


 そんな事をウジウジ考えながら歩いていると。いつの間にやら我が家に到着していた模様。


「(いかんいかん、しっかりしろ私。今は余計な事を考えるな……)」


 今日はコマのお誕生日だろ。うじうじする暇なんか無いだろ。気持ちをちゃんと切り替えて、コマに最高の御馳走を作ってあげなきゃならないだろうが……


「ふぅ…………よ、よし!た、ただいまコマー!」


 頭をぶんぶんと振りかぶり、ネガティブ思考を外に追い出す私。深呼吸をした後に、出来るだけ元気な声を上げて玄関の扉を開ける。

 そして開いた扉から真っ先に私の目に映ったのは―――


「あ……お、お帰りなさいマコ姉さま。お疲れ様です」

「…………ぇ?」


 ―――エプロンだった。フリルの付いた愛らしいエプロン姿のコマだった。


「…………」

「今日は申し訳ありませんでした姉さま。折角お誘いして貰ったのに一緒に帰れなくて……」

「…………」

「えっと、さっきも言いましたけど……今日はどうしても姉さまよりも早く帰宅して作ってみたかったんです」

「…………」

「い、一応食べられるとは思いますが、流石に姉さまみたいに上手くは―――」

「…………」

「……?マコ、姉さま……?」


 コマの声が全く耳に届かない。それ程までに熱中してコマを頭のてっぺんから足先まで、まじまじと舐めるように見つめる私。


 色は淡い桃色の花柄エプロン。ふんだんにフリルがあしらわれていて、コマが歩く度ふわりふわりとまるで天界から天使が舞い降りているように見えるのは私の目の錯覚ではないハズ。料理の邪魔にならないようにと、長く綺麗な黒髪をエプロンと同じ色と柄のシュシュで束ねているのもポイントが高い。ふわふわキュートでコマの愛らしさがいつも以上に増しているではないか。どうやら帰宅してすぐにエプロンを着たのであろう、制服の上からエプロンを着ているところなんか私にとっては垂涎もの。学生若奥様が帰って来た旦那様(=つまりはこの私)を料理中に『おかえりなさいアナタ♡』と出迎えてくれた的な何とも言えない背徳感漂うシチュエーションに正直めちゃくちゃ興奮してしまう。


「ね、姉さま?大丈夫ですか?なんだか固まっていませんか?私の声、聞こえていますか?」

「…………(スッ)」

「え?あの……え?」


 そんなコマを見つめながら、我が脳内フォルダにコマのエプロン姿を鍵付きで厳重保存。そして保存後に私は懐からお財布を取り出して、膝をつき財布の中にいた三人の諭吉さんを黙ってコマに献上する。


「あ、あの……えっと姉さま?この三万円は一体何なのですか?」

「…………今持ち合わせこれくらいしかないけれど、超絶かわゆいエプロン姿見せてくれたお礼サービス料金です……どうか何も言わずに受け取ってくださいコマ」

「……落ち着いてくださいマコ姉さま。興奮しすぎて鼻血どころか血涙まで流れてますし、言動が色々とおかしいです。とにかくお金はいらないですので……」



  ◇ ◇ ◇



 可愛いコマに可愛いエプロンを追加装備するというあまりの暴力につい我を失いかけてしまった私だったけれど……その可愛さという暴力の化身とも言えるコマに


『と、とりあえずリビングで待っていてくださいませ姉さま。積もる話しはその後で』


 と、これまた可愛くお願いされ。大人しくリビングで正座して待つ私。


「お、お待たせしましたマコ姉さま!出来上がりました……!」


 30分程経った頃。ようやくコマがキッチンから顔を出す。何だか美味しそうな香りと共にコマが持って来てくれたのは……


「……お料理?」


 明太パスタ、ローストビーフ、海鮮サラダにガーリックトースト、南瓜のスープにロールケーキ―――私の好物がてんこ盛りなお料理の数々であった。えっと……これは一体?

 疑問符を飛ばす私の前に、その美味しそうなお料理を並べてからエプロンを脱いだコマは(ああ、脱ぐ前に写真撮っておきたかった……!)深呼吸をした後にこう告げだした。


「……ま、マコ姉さま!」

「は、はいっ!?」

「お、おおお……」

「お?」

「お誕生日、おめでとうございますッ!」

「…………ん?」


 顔を真っ赤にしたコマが、そんな事を言い出した。……ん、んんん?誕生日?誰の?


「え?ごめんコマ、誕生日って……何の話?」

「え?いやだって……今日は、12月13日は……マコ姉さまのお誕生日でしょう?」

「ううん?私の誕生日?……いや何言ってんのコマ。今日は、12月13日は。愛するコマのお誕生日じゃないの」

「はい?…………あ、ああ。そう言われてみればそうですね。で、ですがその。私の誕生日という事は、つまり姉さまのお誕生日という事でもあります……よね?だって私たち、双子の姉妹ですし……」

「……?」


 コマに言われてちょっと考える。……コマの誕生日であり……私の誕生日?双子の姉妹だから……?

 えーっと。双子という事は、まあ当然同じ日に産まれてくるわけで。そんでもって私とコマは双子姉妹なわけで……


「…………ぁ」


 30秒ほど考えて、ようやくその事を理解する私。……ば、バカか私……!?い、今気づいたけど……コマの誕生日=双子の姉の私の誕生日じゃん!?つまるところ今日が私の誕生日じゃんか!?

 コマのことばっか考えて……じ、自分の誕生日忘れるとかどんだけダメなんだ私……!?


「あ、あはは!も、ももも勿論今日がコマの誕生日であり、私の誕生日だってわかっているよコマ!お、お祝いしてくれてどうもありがとう!お姉ちゃん、コマにお祝いされるのとっても嬉しいよ!」

「は、はい!本当に、生まれてきてくれてありがとうございます姉さま!」


 まさか自分の誕生日のことをすっかり忘れていたとは言えるまい。取り繕うように私はお祝いのお礼を言う。


「と、ところでコマ?お祝いしてくれるのは本当に嬉しいけど……この料理ってどうしたの?もしかして……これ、コマが……?」

「え、えへへ……そうです。私の手料理、です。そして私からの、姉さまへのお誕生日プレゼント……です」

「ッ!」


 私のそんな疑問に対して、コマは少しはにかんで話を続けてくれる。私への、お誕生日プレゼント……!?


「……今年は例年以上に悩みました。なにせマコ姉さまと恋人として結ばれてから迎えた、私にとって記念すべき姉さまのお誕生日でしたからね。どんなものが良いのか、どんなものなら姉さまは喜んでくれるのか……悩みに悩みました」

「そう……なの?わ、私はコマがくれる物ならなんでも嬉しいけど?」

「ふふ……姉さまならそう言ってくれるのは分かっていましたよ。……ですが。折角恋人としてプレゼントするなら、やはり何か特別なものが良いって思っていたので」


 そんなコマの一言に、私の胸は高鳴りを見せる。そっか……コマも、そう考えてくれたのか……


「一か月前からずっと悩んで。それでその……ある日思いついたんです。今まではダメでしたけど、姉さまと結ばれた事で私にも出来る事があるじゃないかって。……そうです。これまでは姉さまに頼りっぱなしだった、……姉さまと想いを遂げられた日から出来るようになったって思い出したんです」

「あ、ああうん。コマ、味覚障害治ったもんね」

「はい。それを思い出した時に閃きました。姉さまへのこれまでの感謝と、それから姉さまへの愛を理解してもらうには……手料理をプレゼントするのが一番なのではないか、と」

「ふぇ?」


 どういう事だろうかと首をかしげる私に、コマは少し苦笑い。


「……ほら。私って、味覚障害を利用して……姉さまを束縛していたじゃないですか。……でも、姉さまと相思相愛だってわかって。束縛する必要なんかないってわかってから味覚障害も綺麗に消え去りました。……私の味覚が正常なのは、姉さまのお陰。私が味覚を感じるのは、姉さまが私の事を愛してくれている証明なんです」

「だから……料理?」

「はいそうです。料理が出来るって事は、味覚が正常な証拠になりますからね」


 なるほどね。味覚が正常じゃないと味見出来ないもんね。


「……それと。一つ、姉さまに弁明しないといけない事があります」

「弁明?」

「昨日―――いいえ。この一か月姉さまから離れ、姉さまに黙ってヒメさまと共に行動していた理由についてです」

「ッ……!」


 その一言に心臓を掴まれたような感覚に陥る私。こ、コマ……やっぱり昨日だけじゃなくて一か月前からヒメっちと一緒だったのか……


「誤解無きように先に言わせてください。断じて、浮気などではありません。ヒメさまには私から協力して貰えるように頼み込んだだけなんです。ヒメさまに教えて欲しい事がありまして」

「頼み込んだって……教えて欲しい事って……な、なにを……?」


 これで『夜の情事のハウツーです』とか言われたら、私失神するかもしれん……


「決まっていますよ。料理のハウツーについてです」

「……ぁ」


 なんて邪推した私に対して、コマはあっけらかんとそう答えてくれた。…………あ、ああうん。そ、そうだよね。今の会話の流れからすると、当然そうなるよね……何アホみたいな事考えてたんだ私……反省。


「姉さまへの誕生日プレゼントを料理にすると決めた後も……如何せん今までまともに作った事がなかったので上手に作れるか自信がなくて。ですからこの一か月……ヒメさまからご教授頂いたんです。なにせヒメさまは、他でもないマコ姉さまの料理の一番弟子。マコ姉さまが認めたヒメさまならば料理の師として仰ぐのも問題ないと判断しまして」

「あ、あはは……そっか。そうだったんだ……」


 コマの説明でようやく心から安堵する私。……昨日ヒメっちが言っていた『……心配しなくても明日になればわかる』という発言の意味がようやく分かった。

 ……ごめんよコマ、それにヒメっち。恋人兼妹と親友の浮気を疑うなんて最低だわ私……


「一から。それこそ料理のさしすせそから学んで……ようやく昨日ヒメさまから免許皆伝を頂きました。先ほども言いましたが、流石に一か月程度では姉さまの素晴らしい料理に並ぶことなど不可能でしたが……それでも何とか食べられると思いますので」


 謙遜するコマだけど。見た目といい香りといい私の目の前のコマの手料理は、その辺の料理のお店にも引けを取らない素晴らしいものだと長年料理を続けて磨かれた私の自慢の目や鼻が教えてくれる。

 ……たった一か月でここまで作るのに、どれだけの努力をコマは……


「……姉さま。今までずっと頼り切ってしまってごめんなさい。そしてありがとう。これからは私も……姉さまの為にお料理作ります。姉さまが私を想って一生懸命愛情をこめて料理を作ってくれたように。私も姉さまを想って作ります。このプレゼントはその第一歩です」


 そう言ってコマは私の前に並べた料理を指差す。……そうか。コマが、これを。この美味しそうな手料理を……私の為に……


「改めて、お誕生日おめでとうございます姉さま」

「……ッ……あ、あり……が……と……うぅぅ……」


 最高のプレゼントと共に最高の笑顔で私の生誕を祝福してくれるコマ。

 ……ああダメだ、泣くな私。泣いたら折角のコマの手料理が、塩っ辛くなっちゃうだろうが……



 ◇ ◇ ◇



 コマのプレゼント……コマの手料理は、本当に最高だった。最高に美味しくてつい『ちょっと加減が分からずについ作り過ぎちゃったんです。ですから残しても大丈夫ですよ?』と言ってくれたコマの忠告も無視してぜーんぶペロリと完食しちゃうくらい最高に美味であった。ああ、私あんなに美味しいもの生まれて初めて食べたかも……誕生日最高……コマ最高……!


「―――って、誕生日で思い出した……いかんいかん。大事な事忘れるところだったわ……」

「……?姉さま、大事な事とは?」


 食後にコマと二人仲良くソファに座り、幸せ絶頂気分のままコマの淹れてくれたお茶を啜っていたところでハッとする私。あまりのコマのサプライズお祝いに感動し過ぎて本来の目的すっかり忘れてたわ……


「あ、あー……コホン。ねえコマ。私も……ちょっと昨日の件について弁明させて欲しいんだ」

「弁明、ですか?それって…………あぁ。叶井さまの件、でしょうか」

「う、うん……お察しの通りカナカナと二人でいた件、です……」


 カナカナの話題になった途端、どういうわけか部屋の温度が5℃くらい下がった気がするのは気のせいだろうか?……気のせいという事にしておこう。うん。


「え、ええっとね!アレは誤解なの!断じてその……浮気なんかじゃないの!私が心に決めたのはコマだけだから!コマの事を放っておいて浮気なんてあり得ないからね!」

「……うふふ。分かっていますよマコ姉さま。マコ姉さまが、浮気なんてするわけ無いと私信じていますから心配しないでくださいまし」

「そ、そう?なら良かっ―――」

「―――ただ。やはりマコ姉さまの恋人としては。やはり私に嘘を吐いてまで二人っきりになっていた事は……不安ですので。納得のいく説明をして欲しいなとは、思っています♡」


 …………とっても素敵な笑顔なのに。何故だろう?コマのこの笑顔を見ていると脊髄に氷柱を差し込まれたような感覚になるのは……ほ、ホント浮気とかじゃないからね?


「も、勿論説明させて貰うよ!え、ええっとね……その前にコマ。一つ言わせて欲しい事があるの。言って良いかな?」

「……はい。どんな姉さまの言葉でも、受け入れるつもりです。どうぞ」

「じゃあ遠慮なく。コマ―――お誕生日、おめでとう!」

「…………え?」

「生まれてきてくれて、私の妹として生まれ育ってくれて、本当にありがとう!大好きだよ!」

「あ、はい……ありがとう、ございます?」


 浮気の弁明を聞かされると思っていたのだろうか。私のお祝いに少し面食らった表情を見せるコマ。


「あのね。実はお姉ちゃんも……コマと同じことを考えていたの。『折角恋人としてプレゼントするなら、やはり何か特別なものが良い』って」

「え……姉さまも……?」

「そうなの。コマの恋人として、コマの生誕を祝える……そしてコマと恋人になれたことも一緒に祝えるような……そんな贈り物が何かないかなってこの一か月ずっと無い頭をフル回転させて考えたんだ。夜も寝ないで学校で授業中に昼寝して。一生懸命考えて……そして私もコマと同様に、とある物を手作りしてコマにプレゼントしようって思いついたの」


 そう……悩みに悩んだ甲斐あって、ダメな私にしてはとてもナイスな事を思いついた。これならばコマも喜んでくれそうだし、恋人としてのプレゼントとして最適なんじゃないかなと思ったのだ。


「けど……一つだけ問題があってね。お料理とかお裁縫とかなら私も人並みに出来ると自負はしているんだけど……プレゼントしようと思った物って、流石の私も専門外の分野でさ。どう作れば良いのかわからずに途方に暮れてたんだ」

「……もしかして、それで叶井さまに頼んだんですか?『知恵を貸してほしい』って」

「お、おぉ?よくわかったねコマ。そうなんだよ。そういうのに詳しそうなカナカナに相談したんだよ」

「…………な、なるほどです。ああ、だから叶井さまは昨日あんなに呆れて……」


 私と違い、お洒落でファッションセンスがとても高い我が親友……カナカナに一か月前泣き倒して力になって貰えるように頼んだ私。

 ……その選択は間違っていなかった。『そういう事なら良いトコ紹介してあげる』とカナカナに勧められたお店は、私の要望をちゃんと叶えてくれたのだ。


「この一か月、コマとの時間を削って……カナカナと放課後一緒に行動していたのはね。コマへのプレゼントを作る為だったの。ほ、ホラ!コマも知っての通り、私って不器用だからね。カナカナとかお店の人の助力もあったけど何度も失敗して……失敗を重ねながら何とかコマの誕生日前日―――つまり昨日完成したんだよ。今日寄り道したのはその完成した品物をお店で受け取る為だったんだ」

「そういう……事だったのですね」

「だから断じて!ホントに断じて浮気じゃないのコマ!それだけは理解して欲しい!あと一か月も寂しい思いをさせてしまってごめんなさい!」


 コマの為とは言え、浮気の可能性を少しでも考えさせてしまった時点で恋人失格。その事に関してはきっちり謝らなくては。頭を下げ真剣に謝る私。

 そんな私の謝罪に対して、コマはそっと私の手を握りこう返してくれた。


「……頭を上げてくださいマコ姉さま」

「こ、コマ……?」

「謝らなければいけないのは、私の方ですよ。……姉さまが浮気なんて、絶対に無いと信じていました。でも……でも、もしかしたらと思う気持ちが無かったわけではないんです。姉さまはいつだって私の為に頑張ってくれるのに。その気持ちを疑うなんて……妹兼恋人失格です。本当にすみません」

「い、いや!コマが謝る事無いの!悪いのは私だから!さ、サプライズとか余計な事を考えずに予めコマに説明しておけば心配もさせずに済んだわけだし……ごめん、ごめんね」


 お互いに謝り合う我ら立花姉妹。とりあえず誤解が解けて良かったよ……もしや一か月で破局か……!?とかちょっと心配してたからね……


「ところで姉さま?プレゼントとは一体どんな物なのでしょうか?」

「おっとゴメン。弁明に必死で渡すの忘れてたわ。んじゃ改めまして」


 さて。紆余曲折あったけど、ようやくコマの誕生日プレゼントを渡せるね。……よっし。気合入れてプレゼントしなくては。


「あー、コホン。最初に言っておくけれど期待はしないでね。これ作るの初めてだったし……お店の人が必死に補正してくれたけど、それでも形がちょっと歪かもだし。正直お店で普通に買った方が出来良いと思うんだ。ま、まあそれでも私、一生懸命コマを想って一か月頑張って作ってみました」

「はいっ!ありがとうございます姉さま。どんな物であれ、姉さまの手作りというだけで最高の贈り物ですよ」

「あ、あはは……ありがとね。あと……もう一つ付け加えて言うけど。これってさ、製作費は私のお小遣いから出したんだよ。つまり私が自分で稼いだお金で作ったわけじゃなくて……しかも一番安いやつだから。あくまでも仮の物って事は理解しておいてねコマ」

「……仮?えっと……あの、すみません姉さま。何の話でしょうか?」


 意味不明と言いたげなコマをよそに。私はコマの手に―――左手に手を添えて、こう続けた。


「これが、私からの気持ちです。どうか受け取ってくださいコマ」

「…………え」

「正式な物は、将来自分で働いて稼いで……そしてそのお金で改めて作り直すよ。とりあえずこれは仮の―――仮のとして持っていて」

「…………え?」

「お誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。そして……私の恋人になってくれてありがとうコマ。ダメダメなお姉ちゃん兼恋人だけど、いつか立派な……コマが胸を張れるような恋人になります。だから―――その時は私と、結婚してください」

「…………」


 そう言って私は、コマの薬指に手作りで作った婚約指輪をそっとはめてあげる。私がコマに選んだプレゼント。それは……ハンドメイドの婚約指輪とプロポーズ(仮)。

 これならコマも喜んでくれると期待してみたんだけど……ど、どうだろうか?


「あ、あの……コマ?どう、かな?や、やっぱちょっと気が早い?指輪贈るとか、流石に重かったかな?」

「…………」

「さ、さっきも言ったけど、これあくまで仮だから!気に入らなかったら捨てても良いし、プロポーズもそんなに深刻に考えなくていいからね!?ぶっちゃけ私の自己満足みたいなところもあるから!だからその―――」

「…………姉さまは」


 と、しばらく無反応のまま左手の薬指を……私の作った婚約指輪を見つめていたコマがポツリと何か言い出す。


「姉さまは……ズルいです」

「え?ずる……?」

「期待しないでと言いながら……何ですか?こんな、こんな……ずるい、ズルい……」

「あ、ああああのコマさん……!?もしや何か気に入らなかったのでせうか!?だ、だったらごめ―――」

「こんな、完璧な贈り物ズルい……!もう私、ダメ……こんな事されたら……もう、ダメ……ッ!」

「ほわぁ!?」


 そう言ってコマは私を力強く抱きしめて、抱きしめたまま私をソファに押し倒す。え、え……?


「嬉しい……!好き!大好き!します!姉さまと結婚します私!貴女の伴侶として、一生貴女について行きます……!」

「こ、コマ……タイム、落ち着いて」

「しました!今私たち結婚しました!夫婦……いえ、婦婦となりました!あとは……結婚初夜を迎えるだけ、ですよね!?任せて姉さま!一生の思い出になる、素敵な夜をプレゼントしますね!」

「いや、だからちょっと待っ―――」

「大好きです……!姉さまぁ!!!」

「んぐっ!?ん、んんんーッ!?」


 …………押し倒された先で、嬉し涙を瞳に貯めたコマに、それはもういっぱいいっぱいキスをされました。


 あとこれはどうでもいい余談だけれど……この後私は、もう一つのコマへの誕生日プレゼントとして……その。


 …………おいしく頂かれました。

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