ダメ姉は、その後を語る(カナカナ編)
~SIDE:コマ~
「―――で?今のは一体どういうつもりだったのかしらコマちゃん」
愛するマコ姉さまのクラスで姉さまとの関係を宣明した私、立花コマ。クラスの皆さまほぼ全員が動揺し、人気者の姉さまに『どういうことなの』と駆け寄る中。ただ一人、この私に静かに問いかけてきました。
「ハテ?どういうつもりとは何の話でしょうか叶井さま?」
「とぼけないの。今のコマちゃんの恋人宣言ってさ―――このわたしに向けたものだったんでしょ?何の意図があってこんな事をしたのよ」
その人物は……私同様にマコ姉さまに恋い焦がれている存在。私の最大の敵であるマコ姉さまの一番の親友―――叶井かなえさま。……流石、鋭いですね。
「どうもこうもありませんよ。私、さっき言いましたよね?『折角私と姉さまが恋人同士になったというのに私も―――姉さまも。未だに告白をされたりアプローチを掛けられたりするじゃないですか』と」
「ええ、言ったわね。それが何かしら?」
「ここで公言しておけば―――恋人同士になった後も何度も何度も姉さまにアタックし続けている誰かさんもわかっていただけるかと思いまして。私たちがどれほど愛し合っていて。そしてどれほど両想いで誰かが入る隙間など無いという事をね」
そしてその事を理解してくれれば、流石の叶井さまも姉さまの事を諦めてくれるハズ。
「ふーん。そっか」
「……?」
そんな事を考えながら得意げに話した私でしたが、なんだか妙に反応が薄い叶井さま。
……おかしいですね。私と同じくらい姉さまの事が大好きな叶井さまですし、私てっきりもう少し感情的になられるのではと思ったのですが……
「……ふふふっ。どうしたのコマちゃん?意外そうな顔をしているけど?」
「あ、いえ別に……」
「もしかして……マコとコマちゃんが付き合い始めたからわたしが動揺するんじゃないか、とか。好きな人が取られてショックを受けるとでも思ったのかしら?」
「ぅ……」
図星を指されて逆にこちらが動揺させられてしまいます。そんな私を見てやれやれと首を振る叶井さま。
「甘いわね。そんなの今更なのよね」
「な、何を……?」
「今更なのよ。あんたら姉妹が相思相愛なんて、最初からわかり切っている事。私の恋の大前提」
「恋の……大前提?」
「ええそうよ。わたしはね、コマちゃん。コマちゃんに恋をしているマコに恋をしているの。だから……あんたらが付き合い始めたくらいで今更動揺なんざするハズないじゃないの!」
「んな……!?」
「つーかさ、寧ろ恋人関係になるのにどんだけ時間かけてるのよ。遅過ぎじゃないの、待ちくたびれたわ!マコは言わずもがな、コマちゃんも案外ヘタレなんじゃないの?」
「うぐ……」
手痛い反撃を喰らってしまい、思わず目を逸らす私。
「で、では……叶井さまは最初から……私たちが相思相愛なのがわかっていたと?」
「ええそうよ。それが何?」
「で、でしたら!でしたら、マコ姉さまの幸せを想うなら……マコ姉さまの事を諦めてくれるんです……よね?私の事を好きな姉さまを……叶井さまは好きなんですし」
恐る恐るそのように問いかける私。そんな私に対しニヤリと嫌なお顔で叶井さまは笑い、こう続けます。
「ねえコマちゃん。話しが変わって悪いんだけどさ。わたし最近あるジャンルの本にハマっててね」
「……?いきなり何ですか?」
「こういう本を読んでるとね、わたしこう思うのよ」
「……何ですか?」
「―――略奪愛っていうのも、悪くないんじゃないかって」
「悪いです」
ふと叶井さまが座る机の上を見てみると、『略奪愛』だの『不倫』だの『横恋慕』だの……私にとっての不吉なワードが散らばる沢山の本や漫画が所狭しと置かれてありました。
何てことでしょう。この人……本気だ。本気で私から姉さまを
「マコとコマちゃんの関係が出来上がってからがわたしの本番なのよ。そういうわけで。わたしはマコとコマちゃんがどんな関係になろうとも、この恋を諦める気はさらさらないから安心してね☆」
「まったく安心出来ないんですが!?」
「まあ、せいぜい油断しない事ね。気を抜いたらわたし……マコの事、情け容赦なく頂いちゃうから」
そんな恐ろしい台詞と共にクルリと踵を返した叶井さま。
「ああ、それから……さっきはありがとうねコマちゃん。墓穴を掘ってくれて」
「墓穴……?な、何の話ですか」
「コマちゃんとしては皆の前でマコとの交際を公言する事でわたしや……わたし以外の密かにマコを慕う子に牽制をかけて諦めて貰うって算段だったんでしょうけど……あれを見なさいコマちゃん」
「あれ……?」
そう言って前方を指差す叶井さま。私も釣られるように視線を叶井さまが差す方へ向けてみると。
『『『ブチコロスぞ立花ァアアアアアアアア!!!』』』
「おお上等だ、文句があるならかかってこいやオラァアアアアアアアア!」
一斉にマコ姉さまに飛び掛かる皆さまと、涙目になりながらも応戦するマコ姉さまのお姿がそこにはありました。
…………あ。
「ああなったマコをカッコよく助ければ……マコもわたしの事をまた意識してくれるかもしれないじゃない?あわよくば惚れてくれるかもしれないじゃない?わたし的にはチャンスが広がって大助かりなわけよ♡改めてありがとコマちゃん。墓穴を盛大に掘ってくれて」
それだけ言って叶井さまは乱闘の場へと足を運ばせます。姉さまを助ける為に……そして私から姉さまを奪う為に。
「わ、渡しません……!絶対に、姉さまは渡しませんよ叶井さま……!」
私も遅れて姉さまを救うべく叶井さまの後を追います。見くびっていたわけじゃない。姉さまに惚れるお方ですし、凄い人だと敵ながら尊敬もちょっとしていたつもり。
ですが……改めて確信しました。この人……叶井さまは……多分、これから先もずっと最大の脅威となり得る人だと。
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