第57話 ダメ姉は、叩かれる

「(ブツブツブツ)まったく……信じられません……っ!」

「あ、あの……コマ……?」


 例のナンパたち三人を叔母さん&編集さんに任せ、私の手を引くコマ。普段は物腰柔らかく、あまり表だって感情を出すようなタイプじゃないのに……コマは苛立ちを隠すことなくブツブツと呪詛めいた言葉を漏らしながら、ズンズンと元いた場所へと戻っている。


「(ブツブツブツ)こんな場所で……姉さまに対して……あ、あんな……あんな最低最悪な事を……!」

「こ、コマ……ごめん。手、ちょっと痛いんだけど……」

「(ブツブツブツ)姉さまが抵抗しないのを良いことに、調子に乗って……!常識が無いにも程があります……!」


 私を連れ出そうとするコマの手は余計な力が入り、痛みすら感じてしまう。ただ……私がその事を指摘してもコマの耳には届いていないようで、決してその手を緩めるような事はしない。

 私の声が届かないほどコマは怒っているみたいだけど……なんでコマはこんなにも怒っているんだろう……?ぜ、全然心当たりがないからわからん……


「……って!こ、コマ!ねぇコマ!ストップストップ!ほ、ほら元の場所に着いたよ!」

「…………え?……あ、ああそうですか。着いたのですか……」

「ちょっと座ろうか!ねっ!お姉ちゃんと一緒に座ろうね!」

「……はい」


 そうこうしているうちに元の場所に辿り着く。何が何やら私にはわからないけれど……そのまま通り過ぎようとしたコマを引き留めて、一旦落ち着くようにシートに座らせてみる事に。


「…………」

「……あ、あのぅ……こ、コマ?コマさーん?」

「…………」

「うぅ……」


 座らせることには成功したけれど、コマのご機嫌は全然治っていない模様。私の呼びかけにも応じることなく、何かを思い返しているのか悔しそうに黙り込むコマ。そのせいでお通夜のようにこの場から溢れてしまう冷たく暗い空気が私に重く圧し掛かってくる。

 ぐぅ……マズいぞ、私こういう不穏な空気めっちゃ苦手だわ。……何でコマが怒っているのかも分かんないし……困った、こういう時私って姉としてどんなアプローチすれば良いんだろう……?


「え、えーっと……えーっと……あっ!そ、そうそう!コマ、喉渇いてたんだよね!こ、これ飲み物!お待たせだったねコマ!」


 数分間の沈黙に耐えられなかった私は、何とか空気を明るくするべく片手でも何とか零さずに持ち帰ることが出来た先ほど購入したジュースを差し出してみることに。

 こ、これでどうか機嫌を治してくだされコマさんや……


「…………」

「あ、あの……コマ……?じゅ、ジュース……飲まないの?」


 恐る恐るコマにジュースを差し出してみたけれど、コマはそのジュースを手に取らず……私の瞳をじっと見つめてくる。

 な、なんだろう……コマに見つめられるなんて、普段ならめちゃくちゃ嬉しいはずなのに……今日はちょっと……怖いような……


「……大体、姉さまも姉さまです」

「へ?わ、私が……どうかしたの……?」


 数秒ほど言うべきか言わざるべきか迷った表情をしていたけれど、流石に我慢がならないと言いたげにコマは私にそう切り出す。


「どうかしたの、ではありません。先ほどのナンパの事です。……何故あの時、あんな酷い事をされて、姉さまは一切抵抗なさらなかったのですか……?」

「へ?」


 さっきのナンパ?……あれ?もしかしてコマ、私がナンパに絡まれた事を怒ってるの……?


「えっと……なんでって言われても……下手に抵抗したら折角買った飲み物を零しちゃいそうだったし……」

「…………飲み物なんて、どうでも良いでしょう?」

「え?ど、どうでもいい……?」


 コマは声を震わせながらそんな事を言い出す。そ、そうかなぁ……?こんだけ暑いんだし水分補給は大事だと思うんだけど……


「飲み物よりも何よりも、優先すべきは姉さまの身の安全です。飲み物などいくらでも替えがききます。ですが……姉さまの身体は、替えなんて……替えなんて……ッ!」

「い、いや違うんだよコマ。あのね、今海の家って飲み物がほとんど売り切れててさ。替えがきかない状態で……」

「……そういう話じゃ……ないです……」


 言い訳するようにそう言ってみる私だけれど、コマはますます声を……そして身体をワナワナと震わせる。


「……よしんば抵抗出来なかったとしても。それでも……悲鳴をあげたり助けを呼ぶくらいは出来たのではないですか?周囲にはライフセーバーの方々も他の海水浴客もいらっしゃいました。それなのに何故……何故姉さまは……あんな人たちにされるがままに……っ!そもそも元を正せば、何故私や叔母さまたちを連れて行こうとしなかったのですか……?」


 爪が喰いこむほど拳を固く握りしめ、歯を食いしばり、唇を噛んで、それでも苦しそうに私にそんな疑問をぶつけるコマ。んーと……何故と言われてもね。


「そりゃあ……。それに、こんな私みたいなダメな奴なんかに好意的な目線向ける人とかいるわけ無いって思ってたから、かな?」

「~~~~~~ッ!」


 その疑問に対して思った通りの事を素直に話してみる私。


「いやーワリィなマコ、コマ。遅くなっちまった」

「お待たせしましたお二人とも。ご安心ください、あの三人は私と先生で適切に処理を―――」


 そのように私がコマの疑問に答え、叔母さんと編集さんもちょうど戻って来た……次の瞬間。



 パンッ!



「「「……え?」」」


 そんな乾いた音が、私たちの耳に響く。


 一瞬何が起こったのかわからなかった私だったけれど、その音の後に自分の頬からジンジンとした熱を帯びた痛みが身体中へ染み込んできた事で……ようやく自分が、目の前のコマに平手打ちを食らった事に気付く。…………え?え?


 これには一部始終を見ていた叔母さんも編集さんも、勿論叩かれた私も驚いた。そりゃそうだ。あの温厚で他者に対して手を挙げることなどあり得ない、姉思いの妹の鑑のようなコマの予想外の行動だもの。私を含めた三人が驚愕するのは無理もないことだろう。


 …………だれど。


「…………あ、れ?……わ、わた……わたし……いま、なにを……?」


 誰よりも何よりも、この場で一番驚いているのは……私を叩いた張本人のコマのようだ。

 不思議そうに自分の右手と、私の頬を順番に眺め……そして自身が何をしたのか理解した途端、先ほどから見せていた怒りの表情から一変。血の気の引いた表情へ変わっていく。


「わた、し……ねえさまに、手を挙げ……て……?うそ……」

「こ、コマ……?あ、あの……だ、大丈夫……?」

「っ!?」


 状況が全く分からないながらも、恐らくさっきとは違う意味で身体を震わせ始めたコマに手を伸ばそうとする私。けれどコマはその私の伸ばした手を払い、怯えるように後ずさり……


「―――っ!!!」

「「「…………」」」


 呼び止める間もなく、私たちから背を向けてあっという間に走り去ってしまった。あまりの出来事に私も叔母さんも編集さんもこの場から動けず仕舞い。


「…………ハッ!?お、おいコマ!?待て、どこ行くんだお前!?コマっ!」


 真っ先に我に返ったのは、流石と言うべきかやはりと言うべきか……私とコマの保護者であるめい子叔母さんだった。


「ちぃ……!シュウ、ワリィ!マコの事を頼んだ!アタシはコマを追う!」

「了解です先輩。何かあったら携帯で連絡を。マコさんは私に任せてください」

「サンキュ!じゃあ頼んだぞ!―――コマ!だから待てってオイ!……あー、くそ。アイツやっぱ足速いなぁちくしょう……!」


 私の事を編集さんに託してから、走り去ったコマを追いかけてくれる叔母さん。普段はアレでも叔母さんはこういう時しっかり保護者してくれるからありがたい。


 その一方で、コマの姉の私はというと……


「こ……ま……?」


 ……手を伸ばしたまま、ただ茫然とコマが走り去っていった方を見つめ立ち尽くすだけであった……



 ◇ ◇ ◇



 コマの後ろ姿が見えなくなってしまった途端に、へなへなとその場に座り込んでそのまま動けなくなってしまう私。


「…………コマ……どうして……?」


 座り込んだまま考えるのは、コマのあの一連の行動。……さっき編集さんにも話したことだけど、私とコマは喧嘩をすること自体は無かったわけじゃない。ごく一般的な兄弟姉妹並みには喧嘩もしてきた自覚はある。

 ……だけど。喧嘩と言っても大抵はただの口喧嘩で、コマを叩いたこともコマから叩かれたことも、生まれてから一度たりとも無かった。


 つまりは……コマは初めて手を出してしまう程に怒っていたって事になる。


 ……私……コマに嫌われちゃった……?コマに……拒絶されちゃった……?でもどうしてコマは、私に平手打ちをしたの……?コマがそれ程までに怒った理由って何……?どうして私は、あんな辛そうな表情をしたコマを追いかけてあげなかったの……?どうして私は、コマを傷つけてしまったの……?一体何に対して、コマは傷ついていたの……?私の、何が悪かったの……?


『―――さん?……じょうぶ、ですか?マコさん?』


 胸の中いっぱいに、疑問や後悔がグルグルグルグル巡っていく。どうして?どうして?どうして?……わからない。つらい。ダメ……ダメ……!わけがわからなくなる。気持ちが悪い…………嫌だ……嫌……いやっ!

 例え世界中の人々に拒絶されるような事があっても、私は一向に構わない。だけど。……だけど世界でただ一人……大好きなコマに拒絶されるのだけは―――


「マコさんッ!!!」

「…………え?」


 胸の内にどす黒い感情が溢れ出し自暴自棄寸前のところで、まるで喝を入れるように私の名前を呼ぶ声が頭上から聞こえてきた。


「……しっかりなさってください。貴女がそんな調子でどうするのですか」

「…………へんしゅう、さん……?」


 恐る恐る見上げてみると、そこには編集さんの姿が。手に持っていた物をスッと私に手渡しながら、私の目を覚まさせるようにはっきりとした口調でそう言い放つ。


「海の家で氷を貰ってきました。兎にも角にもまずはその頬を冷やしましょう。そのままにしておくと後で腫れちゃいますからね」

「あ……は、はい……」


 渡してくれたのはビニール袋いっぱいに入った氷。編集さんに言われるがままにそのひんやり冷たい氷をコマに打たれた頬に当ててみると、ズキズキとした痛みがちょっぴり和らいでいく。

 そしてその氷の冷たさは、私の頭に昇っていた熱い血を冷ましてくれた。……お陰で、少しはパニックになりかけていた頭も冴え始める。……落ち着け、冷静になれ私……編集さんの言う通り、私がこんなに取り乱してどうするんだ。


「……少しは落ち着きましたか?」

「はい。ありがとうございます、編集さん」

「それは良かった。マコさんに何かあったらコマさんも先生も悲しみますからね」


 その様子をしばらく無言で伺っていた編集さんは、私が落ち着いたのを見計らってから声をかけてくれる。


「さてマコさん。私もめい子先生も途中からしか見ていないので、お二人の間で一体何があったのかがわかりません。……マコさんにとってはお辛い事でしょうが、出来れば先ほど何があったのか……話していただけませんでしょうか?事情が分かれば、多少なりとも力になれるかもしれませんので」

「……はい」


 編集さんにそんな提案されて、さっきの出来事をかいつまんで話してみる事に。私にはコマが怒った理由がわからない。

 ……だけど。もしかしたら編集さんなら何かわかるかも……


「―――というわけです。……後は編集さんと叔母さんが見た通りの結果になりまして……」

「…………なる、ほど」


 そんな藁を掴むような一縷の望みをかけて私が説明し終えると、編集さんは眉間にしわを寄せてしばらく無言で考え込む。

 数分後、考えがまとまった編集さんは私に話しかけだした。


「ねえマコさん。マコさんは……何故コマさんに叩かれたのか、その理由はわかりますか?」

「……いいえ。恥ずかしながら、どうして叩かれたのか……何に対してコマが怒ったのか……全くわからないんです。……その。編集さんはどうしてか……わかりますか……?」


 恥を忍びつつ恐る恐るそのように尋ねてみる。この口振りからすると……編集さんはコマのあの行動の理由がわかっているみたいだけど……


「そうですね。当然ながら私はコマさん本人ではないので、コマさんの気持ち全部を理解出来ているわけではありませんし推測の域を出ないでしょう。……それでも構わないなら、私のわかる範囲で答えますが……」

「構いません。教えてください。どうか、お願いします」


 何だっていい。今はとにかく私の何が悪かったのか一つでも多く知りたい。そう考えて編集さんに頭を下げてお願いする私。


「……わかりました。思い当たる原因はいくつかありますが……まず一つ目から。……マコさん。マコさんはつい先ほどこの私に『この海にいる間だけ、コマのボディガードになってくれませんか』と頼んできましたよね。覚えていますか?」

「え?え、ええ勿論……」


 突然そんな話を振られる私。そりゃ覚えてはいるけど……その話とコマに叩かれたことに何の関係が……?


「では何故マコさんは私に、コマさんのボディガードをするよう頼んだのですか?」

「え?な、何故って……だって、お昼にコマがナンパに絡まれちゃったらしいですし……コマがまたナンパに付きまとわれてしまったらと思うと……心配だったから……」

「そうですね。大事にしている妹さんの事が心配だったのですよね。……そのマコさんの不安に思う気持ちは、コマさんも一緒だったのではないですか?」

「…………え?」


 編集さんに言われて、初めてその事を考えてみる。……コマも、私と同様に不安だった……?


「コマさん自身がナンパにしつこく付きまとわれたのですよ?その嫌悪感はマコさん以上に理解していたハズ。だからこそ『飲み物を買いに行く』と言ったマコさんに『一人では危ない』とコマさんは真剣に忠告していたのです」

「ぅ……」

「にもかかわらず、マコさんはその忠告を碌に聞かずに行ってしまわれた。……大好きで大切なただ一人のお姉さんであるマコさんが、無防備に一人で海の家へ向かわれた時のコマさんの不安げな表情……マコさんに見せてあげたかったですよ」


 編集さんの責めるような少し強めの口調に胸が苦しくなってくる。

 それじゃあ私……コマが私の事をそれほどまでに心配してくれていたのに……その気持ちに全然気づいてやれなかったって事……?


「結局コマさんの懸念通り、マコさんはナンパに絡まれ……挙句あんな最低な事をナンパたちにされていたわけでしょう?あの連中、放っておいたらもっと酷いことをしていたかもしれません。……全く、コマさんが『姉さまの戻りが遅すぎます……!叔母さま、編集さま!様子を見に行きましょう!』と言ってくれなかったらどうなっていた事か」

「……」

「それなのにマコさんは……危惧していた光景を見せられた挙句、必死になって助けてくれたコマさんに対して『私ならどうなっても全く問題なんて無いから』と言い放ったのです。……流石の温厚なコマさんだって、それを聞いて黙ってはいられなかったのではないでしょうか?少なくとも、私が同じ立場だったら怒りますよ」

「……うっ」


 そこまで言われてようやく私も少しは理解する。……確かにその通りだ。心配してくれた人に対して考えなしにそんな事を言っちゃうなんて……アホ過ぎるにも程がある……これじゃあ引っ叩かれても当然としか言いようがないじゃないか……


「で、でも……でもですね編集さん!?そ、その時点では好意を向けてくるような人がいるなんて夢にも―――」

「マコさん」


 と、言い訳しようとした私に対し、それ以上は言わせないと言いたげに突然編集さんが強い口調でその私の台詞を遮る。


「マコさん、は良くない。それが謙遜さから来る言葉なのか、それとも別の意図があって言っているのかそこまでは私にはわかりません。ですが……そんなむやみやたらに自分を卑下するような言葉を使うのは、非常に良くない」

「……はい?」


 予想していなかった話についていけなくなる私。え、えっと……何の話だろう……?


「……コマさんが怒った原因はそこにもありそうですね。マコさん、以前から私も気にはなっていたのですが……貴女は自分の事に対しては、あまりにも無防備で無関心で……そして卑屈すぎる」

「無防備で無関心で……卑屈……ですか?そ、そうでしょうか……?」


 編集さんの話にいまいちピンとこない。そっかなぁ……別に私そんなつもり無いんだけど……


「今回のナンパとの対応にしたってそうです。身体を触られて抵抗しないばかりか、嫌悪感すら抱かないなんて……見ていて少々不安になりましたよ」

「い、いやいや。一応私だってナンパたちに身体触られるのは嫌でしたよ?」

「……それは単に、『飲み物が零れそうで嫌だった』というだけじゃないですか?」

「ぐっ……」


 ジト目で編集さんに指摘される。いやまあ……確かにその通りです……


「大体『私ならどうなっても全く問題なんて無いから』―――という台詞が自然と出てくる時点でよくないです。自分の事をもっと大切にしないと……それとマコさん、自分で気づいていますか?『私なんか』とか『私みたいなダメな奴』とか言うのが口癖になっていますよ」

「そう……なんですか……?」

「ええそうです。何と言いましょうか……ような……そんな印象を受けますね」

「……っ!!?」


 そんな何気ない編集さんの一言に、心臓を鷲掴みされた気分になる私。


「そういうマコさんの自身を顧みない口癖や態度もコマさんの怒った原因の一つではないでしょうか」


 動揺している私をよそに編集さんは続ける。


「あのね、マコさん。マコさんの長所は謙虚なところだと私は思っています。立派な特技や誇れるものがあっても自分の能力に自惚れず過信することなく、より良きコマさんのお姉さんになろうと日々成長しようとしていますよね?それはとても素晴らしい事です。…………ですが、マコさんの場合は謙虚を通り越して卑屈すぎる。過度な卑屈さは自分だけでなく、他人も傷つけかねないと気づくべきだ」

「過度な卑屈さは……他人も傷つけかねない……」


 編集さんの言葉を反芻してみる。……そんな事、考えたこともなかった。


「マコさん。今しがた貴女はこう言いましたね。『私みたいなダメ人間なんかに好意を向けてくるような人がいるなんて』と。……貴女の一番悪いところはそこだ。本気で知らないのか意図的に知らない振りをしているのか知りませんが、貴女の事を好意的な目で見ている人は……貴女の傍にいますよ。誰よりも近くに、ね」

「え……?」

「それなのにマコさんは……卑屈になりとことん自分を『ダメだダメだ』と卑下するせいで、貴女の事を大切に想っている人の『好きです』という言葉も『私なんかを好きになるなんて何かの冗談だろう』とまともに取り合っていない……蔑ろにしている。好意を持っている方の言葉の裏にある真意を理解しようとしていない」


 一言一言力強く、私の心に深く語り掛けるように話す編集さん。私のすぐ傍に、私の事を想う人……


「その点がマコさんの最大の短所だと思います。マコさん、鈍感すぎるのは罪ですよ。……だってそれは、貴女の事を想う強い気持ちを軽んじている事と同義ですからね」

「あの、編集さん。それってどういう……」


 ……何だかさらりと編集さんに凄い事を告げられた気がする。……そうなると……コマが私に平手打ちを食らわせるほど怒った……一番の理由って……つまりは―――


「……すみません。流石に少々深入りし過ぎましたね」

「ふぇ?」


 と、ちょっと余計な事まで言い過ぎてしまったといった気まずそうな表情で謝る編集さん。


「これ以上私から言えることはありません。この先まで言ってしまったら……色々とフェアではありませんから。後はマコさん自身で私の言ったことを参考にして考えてみてください」

「……わかりました」


 正直に言うと、まだわかっていない事も多々ある。……けれど、非常に編集さんの話は参考になった。……うん。そうだよね。後は自分で考えないと……


「さて、と。私も言いたいことは言いたい放題全て言わせてもらったわけですし……ではそろそろ行きましょうかマコさん」

「へ……?行くって……どこへですか……?」

「ハハハ!そんなの決まっているじゃないですか」


 私の隣に座っていた編集さんは、そう言いながら立ち上がり私に手を差し伸べてくれる。言うまでも無いといった顔で編集さんはこう続ける。


「先ほどめい子先生と携帯で連絡してみたところ……コマさんはコテージにいるそうです。さあマコさん。仲直りに行きましょうか」

「っ!…………はいっ!」


 色々とアドバイスをくれた編集さんに心の中で感謝をしつつ、私も立ち上がる。

 ……そうだ。きっとここから先は私がやらなきゃならない事。自分でやらかしたミスは……自分の手で挽回しないと。さあ……待っててねコマ。お姉ちゃん、すぐに行くから。

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