第8話 ダメ姉は、夕食する

「それじゃあいくよコマ、叔母さん」

「はいです」

「おう」

「全員手を合わせて……せーのっ」


 (主に叔母さんのせいで)ちょっとバタバタしちゃったけど、ようやく待ちに待った夕食の時間。三人で食卓を囲むため、まずは行儀よく手を合わせて―――


「「いただきます」」

「ごちそうさまでした……」

「「え?」」


 コマと叔母さんはいただきますの挨拶を、そして私はごちそうさまの挨拶をする。


「何だマコ。お前せっかく作ったのに食わないのかよ」

「あの……姉さま?姉さまもご飯はまだですよね?それなのに何故ごちそうさまと……?」

「い、いやその……」


 そんな奇妙な私の行動を不思議そうにしているコマと叔母さん。二人の疑問は尤もだろうけど……言えない。

 久しぶりのコマとの生の口づけが凄すぎて、ご飯どころじゃないと言うかもう色々とお腹いっぱいと言うか……しばらくコマの口づけの味を忘れたくないからご飯なんぞ食べたくないなんて二人には言えるわけがない……


「わ、私はホラ。あ、味見したりしてたからまだお腹空いてないんだよ……は、ははは……私に気にせず食べちゃって二人とも!冷めちゃうし作った私としては温かいうちに美味しく食べてほしいからね!」

「そう、ですか?……そういうことでしたらすみません、お先に頂きますね姉さま」


 私のそんな一言に素直に従って、メインディッシュの牡蠣とほうれん草のソテーに箸をつけるコマ。

 牡蠣は味覚障害克服に良いって聞くし、コマにはいっぱい食べて貰いたいところ。真心こめて気合を入れて作ってみたけど、さてお味の方はどうだろうか?期待と不安を感じながらもモグモグと美味しそうに食べてくれるコマの感想をドキドキしながら待つ私。


「ど、どうかなコマ?美味しい?」

「……ふふっ♪また一段と料理の腕があがっていますよ姉さま。とっても美味しいですっ!」

「ホント?え、えへへ……良かったぁ」


 私の心配をよそにとびっきりの笑顔をくれるコマ。この笑顔だけで手間暇かけて作った甲斐があったというものだ。


「やっぱり姉さまの料理は凄いです。何と言いますか、体の芯から幸せになる感じでしょうか?大好きです」

「そうかな?それは素材が良かったんだよきっと。それよりホラ、牡蠣のソテーも他の料理もどんどん食べてねー」


 いっぱいコマに自分の料理を褒められて、感動しながらもコマに他の料理や自分の分の牡蠣も進める私。幸せなのはこっちのセリフだよコマ……ああ、愛する妹にこんなにも喜んでもらえるなんて最高に幸せ……マジで死ぬほど嬉しい。


「うーむ。今日は牡蠣がメインかぁ……」


 そんな幸せオーラを振りまいている私たち姉妹の横で、つんつんと箸で牡蠣を突っつく叔母さんがそう呟く。ちなみに本来ならさっきコマの唇を奪いやがった罪で叔母さんはご飯抜きの刑に処すつもりだったけど、コマに説得されて一緒に食べることになった。慈愛の天使であるコマに感謝して良く味わう事だね叔母さん。

 にしても叔母さんったらどうしたんだろうか?やけに神妙な顔なんだけど……


「あれ……?もしかして叔母さんもご飯食べたくないの?あれほどお腹減ったって騒いでたのに」

「うんにゃ。腹自体は空いてるんだけどなー」

「んん?ならコマから食べていいって許可を貰ったんだし遠慮せずに食べればいいじゃん―――って、あっ」


 そこまで言ってふとある事を思い出す私。しまった……そういや叔母さんいつだったか牡蠣にあたって大変な思いをしてたっけ。

 もしかしたらその時のトラウマで食べたくないって事だろうか?ならちょっと悪いことしちゃったかも。


「あの時は辛かったなぁ牡蠣……」

「あー……えっと。その、叔母さん?ゴメン、ちょっと気が回らなかった。もし牡蠣を食べたくないなら無理に食べなくても良いんだよ」

「いやまあ食うけどな」


 逞しいなオイ。


「ふむ、相変わらず料理は上手いなマコ」

「人に作らせておいて失礼だなぁ…」


 心配したのにあっけらかんに丸ごとモグモグ一口で牡蠣を食べてしまう叔母さん。私の心配を返せ。あと料理だけとはなんだ料理だけとは。


「……まあでも確かに中ると怖いよね牡蠣。質の良い新鮮な牡蠣選んだつもりだししっかり加熱はしておいたけど、念のためコマもそれから叔母さんも、食後に熱いお茶淹れとくから二人とも後でちゃんと飲んでね」

「助かります姉さま」

「えー、お茶ぁ?」


 素直に言う事を聞いてくれるコマと対照的にぶーたれた表情の叔母さん。コマは誰かさんと違って良い子だなぁ。あとそこの良い歳した大人は何が不満と言うのだ。


「折角美味いもんあるんだしお茶じゃなくて別のはダメか?」

「ほほう、例えば何さ叔母さん」

「例えば―――酒とか酒とか酒とかさ。ホレ、アルコールで殺菌も出来るし一石二鳥じゃんかよ」


 おい、何か変なこと言いだしたぞこの酒狂い。


「……今日は休肝日って約束でしょうが叔母さん。良いから黙ってご飯食べなって」

「叔母さま、毎日飲むのは流石に体に悪いですよ」

「ちぃ……この健康オタク共め」


 私とコマに窘められて溜息を吐きながら渋々引き下がる叔母さん。ホントこの人隙あらば酒飲みたがるんだから……


「つーかマコ。お前こそメシ食わなくていいのか?」

「私は良いんだよ。を補充したばかりだし」

「……はい?姉さま、コマニウムって一体何ですか?」

「…………あっ」


 い、いかん…叔母さんに呆れかえってついつい油断した…っ!?思わずコマの前でいつも脳内で考えていることを口に出してしまう私。

 おおお、落ち着け私……何とか誤魔化さないとコマに変な姉と思われてしまうだろうが……っ!慌てて弁解に入ることに。え、えっとよく考えろ……何か上手い言い訳は……


「そ、それはえっと…………こ、コマニウムって言うのはね……こ、コマの唾液から分泌されるカワイイカワイイ結晶の事で……摂取するとご飯食べなくて良くなる的な……私が発見した新しい物質で……でも摂取し続けると中毒になっちゃう禁断の……」

「そうか、なに頭の悪そうなこと言ってんだマコ」


 頭悪そうとは失礼な。……実際叔母さんの言う通り相当頭悪いこと言ってるから否定はできないけど。ホント私ったら何言ってんだろうか……テンパりすぎて自分でも何言ってんのかわかんねぇ……


「あら、でしたら姉さま。私もがあればご飯食べなくて良くなっちゃいますね♪寧ろすでに私はマコニウム依存症になっているのかもしれませんよ」

「そ……そう?それは……大変だね……あ、あはは……」


 幸いなことに特に気にした様子もなく私のそんな意味不明で奇妙な発言に乗ってくれるコマ。よ、良かった……コマに引かれなくてホント良かった……


「でも姉さま。叔母さまのおっしゃる通りちゃんとご飯は食べなきゃダメですよ、体に悪いです。何か食べたいものがあったら言ってください。私取り皿に取りますよ」

「そう?うーん、だったら……」


 食欲が無い(と勘違いされている)私に気遣うコマ。うぅ……この子はホントなんて優しい子なんだろう。

 コマのそんな気遣いを無視するのも申し訳ないし、流石にお腹も空いてきたところだ。名残惜しいけれど口いっぱいに広がるコマの残り香を漏らさぬように吸い込んで、私もそろそろご飯食べますかね。


 さて、私が今一番食べたいものと言えば。


「じゃあ―――


 もちろん、性的に。


「……は、い?ええっと……私を、食べたいのですか姉さま?」

「オイオイ……今のはさっきの発言がマシに思える程のアウトな発言だぞマコ」

「…………ハッ!?」


 い、いかん…コマの残り香嗅いでたら思わず興奮しちゃってまたヤバいことを口走って……っ!?どんだけアホなんだよ私ィ!?


「ち、違うんだよコマ!コマをモグモグしたいって意味じゃないの!い、今のコマ食べたいって意味は…………そ、そうっ!そのコマの口付けたコマの食べかけの……つまりはコマの甘い唾液付きのタケノコのパスタを食べたいって意味なんだよ!」

「ふむ。私の食べかけを食べたいのですか」

「言い訳も碌に出来ないとか……マコは本当にアホだなぁ……」


 焦って取り繕おうとすればするほど更にわけのわからないことを口走ってしまうこの私。叔母さんのかわいそうな子を見るような視線が痛い。言い訳も碌に出来ないとは私ってどんだけダメなんだ……

 ああ、ホントあかん。これ絶対引かれた…コマにうちの姉はキモイってドン引きされたわ……そう思いながら恐る恐るコマの様子を見てみると。


「はい、姉さま。あーん♡」

「……えっ?」

「……あら?食べたいんですよね?私の食べかけのパスタを」


 食べていたパスタをフォークでくるくる器用に巻き取ったかと思いきや、何故か私の目の前に差し出すコマ。……え?…………えっ!?


「あ、その……コマ?い、良いの……?い、今の発言は私のちょっとしたジョーク的なアレだったんだけど…」

「ふふふっ♪まあ、確かにちょっと行儀は良くないですけど……ここは我が家で他の人は誰も見ていませんし別に構わないでしょう?さあどうぞ姉さま」

「ま、マジで……?いいの……?」

「おーい、お前ら。一応アタシもいるんだけどー?アタシが見てるんだけどー?」


 怪我の功名と言うべきか、何故かあーん♡までしてくれると言うコマ。私のさっきからの珍妙な発言を気にしていないどころかこんなサービスまでしてくれるなんて……ええ子や……やっぱり私の妹はええ子やで……っ!


「はい姉さま、あーん♡」

「あ、あーん……」


 気恥しさとコマの食べかけのご飯を食べられる興奮でいつもの口づけなみに緊張しながらも、大きく口を開けて迎える。そんな私にコマはゆっくりフォークを近づけて優しく口に運んでくれた。

 パクンと食べると口いっぱいに広がる幸福感。


「どうですか?美味しいでしょう?」

「う…ん、めっちゃ、おいしい…」

「そうでしょうそうでしょう。何せ私の姉さまのお料理ですからね、美味しいに決まってますよ♪」


 嬉しそうに微笑むコマだけど…いや、私の料理がどうのこうのじゃなくて、コマの食べかけだから美味しいんだけどね。多分私にとっての最高の調味料ってやつだよ、コマの食べかけは。


「さぁ姉さま。続きしましょうねー♪はいもう一度あーん♡」

「あ、あーん♡」

「おーいそこでいちゃついてるバカップル……もとい双子共。アタシがいること完全に忘れちゃいないだろうなー?無視すんなお前らー」

「「っ!?」」


 またコマにあーんしてもらおうと雛鳥のように口を開けていると、拗ねているような口調の叔母さんにそう指摘される。突然声をかけられて思わずバッとお互いに離れる私とコマ。

 すまん、悪いけど素で忘れてたぞ叔母さん。


「ったく。目を離せば……あ、いや。目を離さんでもすぐ二人だけの世界に嵌るよなお前ら。ちっとはアタシにも構えや」

「うっ……すみません叔母さま……」

「コマ、謝る必要ないよ。構えとか子どもか叔母さんは」

「ガキんちょに子どもって言われたくねーよ」


 だったら良い歳しといて子どもっぽいこと言わなきゃいいのに思う。


「ま、それは一旦置いておくとして。ちょいと二人に聞きたいことがあるんだが良いかい?」

「「聞きたい事?」」


 ご飯を食べながら叔母さんが私たちにそう言ってくる。何だろう改まって。私もコマもご飯を再開しながら叔母さんの話を聞いてやる事に。


「お前らさ、確か明日だよな?」

「「……半ドン?」」


 突然また変なことを言い出す叔母さん。何だそれ?半分のどんぶり?壁ドンの亜種?


「あん?何だお前らその反応は。明日半ドンじゃないのか?」

「ちょい待ち。そもそも半ドンって何さ叔母さん」

「えっ?」

「すみません叔母さま。私もどういう意味かわからないのですが……」

「んな…!?なん……だと……!?バカな、通じないだと?これがジェネレーションギャップというやつなのか……?」


 変なことを言い出したかと思えば、急に落ち込む叔母さん。よくわからんけど忙しい人だなぁ。


「あー、コホン。ええっと……つまりな。二人とも明日は半日授業だよな?」

「うん。まあそうだけど」

「そっかそっか。じゃあ二人とも、何か明日用事でもあるか?」


 用事…?そう言われてコマと二人顔を見合わせる。えっと……何かあったっけ?


「んーと……コマ?生助会せいじょかいのお仕事って何か他に残ってたっけ?あとコマ自身に何か用事とかある?私は別に何も無いんだけど……」

「いいえ。今日のうちに頼まれていた生助会のお仕事は全て済ませています。それと私も明日特に用事は無いですよ姉さま」


 あ、ちょっとだけ補足しておこうか。『生助会』っていうのは私たちが入っている例のボランティア部の正式名称のことだね。生徒補助委員会、略して生助会。

 昔は生徒会の補助的な活動をする委員会だったそうだけど、今はどういうわけか生徒会が無くなって代わりに生助会が残っていると言う意味の分からない状況になっているとかなんとか。

 あとこれは余談だけどうちの妹である可愛くて優秀で天使な学園のアイドルのコマが入っていることもあって学校の皆からは聖女会せいじょかい、なんて呼ばれていたりもする。


「そんなわけで一応急なお手伝いとかが入らなきゃ私もコマも用事は無いと思うんだけど…それがどうかしたの叔母さん」

「よっしゃ。そりゃあ好都合だな。んじゃさマコにコマ。明日はさ―――」


 と、叔母さんが機嫌よさげに何か提案しようとした矢先。



 PRRRRR! PRRRRR!



「っ~~~~~~!?」

「あら……?電話ですね」

「おっ、ホントだ」


 突然廊下の方から電話が鳴り響く。こんな時間に誰だろ?


「あ、私が出ましょうか姉さま」

「いや大丈夫だよコマ。私出るから」

「ま、待て!いい!アタシが出るからマコも座っときな!」

「お、おぉ……?」


 立ち上がった私たちを制して、普段は『立っている者は親でも使え』スピリッツの叔母さんにしては本当に珍しく自主的に電話を取りに向かう。どういう風の吹き回しだろうか?



 PRRRRR! PRR―――ガチャ



『も、もしもし…………お、おうアタシだ!お前さんもご苦労さんな!……え、え?ああうん。ダイジョウブ……ちゃ、ちゃんと仕上がった……ぞ。……は、ははは…そうだよな!締切を守るのは当然ダヨナ……うん。…………えっ!?あ、明日確認に来る……!?え、えーっと……あー……うん。そ、そうか。いや問題ねぇよ……ああ、わかったよ……じゃあまた明日な……』


 叔母さんが電話を取りに行った数秒後、コール音は鳴りやむ。それからしばらく会話が聞こえて、大体一分くらいで会話を終え叔母さんが戻ってきた。


「……ハァ…」

「何で戻って早々に溜息吐いてんのさ叔母さん?」

「どなたからのお電話だったのですか叔母さま?」

「え、あ…いやその……ま、間違い電話だったんだよ!いやぁ、迷惑な話だよなー!は、はは…」


 戻ってきた叔母さんは何だかとってもどんよりとしたオーラを背負っているようで。笑ってはいるようだけど苦々しい表情を隠せていない叔母さんが弱弱しくそう返す。さっきからどうしたと言うんだ。


「……ねえ、何だか顔色悪いけど本当に大丈夫なの叔母さん?もしかして体調悪いの?」

「へ、平気平気!そ、それよりもさっきの話の続きだけどよ二人とも!お前ら明日は暇なんだよな?」


 話題を必死に変えるように無駄に明るい口調で叔母さんはそう尋ねてくる。


「さっきも言ったけど、まあ一応時間はあると思うよ」

「私も姉さまと同じですよ」

「よし、だったらさ」


 そう言ってニィッと笑顔を見せて叔母さんは一言。


「―――明日は三人で…花見、行こうぜ」

「「……花見……?」」



 ◇ ◇ ◇



 ―――翌日:学校―――


「「「えっ……?今日は家族で花見に行く……?」」」

「うん、そう花見。うちの叔母さんが昨日急にそんなことを言いだしてさぁ」


 叔母さんが突発的にそんなことを提案した翌日の休み時間。友人たちと駄弁るついでにその事を話す私。


「何でまたこんな時期に花見するんだよ。時期外れじゃないか?」

「確かにまだ四月ではあるけどさ、もう大分桜の花びら散ってるわよね……」

「少なくともこのあたり一帯はもうほとんど散った気がするんだけど……良いのマコ?」

「あー……まあ散ってるよね。それはわかってるよ。だから残念ながら花見と言うかピクニック的な感じになると思うんだ」


 友人たちの言う通り、時期的に花見のシーズンは終わりかけている。これが一週間前くらいなら最高に良いロケーションでの花見になったんだろうけどね。

 ……まあ、とは言えコマという至高の華を見て愛でるという意味ではちゃんと花見になるわけだし、私としては桜の花びらが散っていようがいまいがコマと一緒なら何も問題ない。


「ともあれ。そう言うわけだから放課後は私とコマと叔母さんで花見に行ってくるよ。それに伴い今日の生助会のお仕事はお休みってことでよろしく」

「「「えぇー!?」」」


 念のため本日の部活は休みと言う報告をすると、クラスメイトたちは皆不満げな反応を示す。いやぁ、人気者は辛いなぁ。


「おいおい君たち。私とコマが頼りになるのはわかるけど、偶には休みをくれないと困るぞー?」

「「「くそ……今日忙しいから雑用押し付けようと思ってたのに……」」」

「待てやコラ」


 ……人気者は、辛いなぁ。


「あ、あのさ。一応言っておくけど生助会はあくまでボランティア部なんだからね?パシリ部とかじゃないんだからね?そこのところ勘違いしていないかな皆?」


 昨日もそうだったけど何か最近無駄に仕事押し付けられている気がするし、再確認してもらうために皆にそう尋ねる私。


「いや、大丈夫。それくらいわかってるって。なあ皆」

「あ、そう?なら良いんだけど」

「そうだな。お手伝いを頼むのであれば頼りになるコマちゃんで」

「雑用・パシリに使うのであればダメなマコを使えってことだよね」

「わかってないな畜生め」


 こいつら一度ぶん殴っても良いんじゃないかなって、私思うの。


「と、とにかく。今日は頼まれごとされてもやれないから、皆もそのつもりでお願い―――」

『姉さま、メールです。姉さま、メールです』

「おっ?なんかメール来たわ」

「「「……うん!?」」」


 と、そう言いかけたところで私の携帯からそんな可愛らしい声のメール着信音が聞こえてくる。おや、誰だろうか?


「ゴメンよ皆、ちょいとメール確認させて。……あ、叔母さんからだ。えーっと、何々―――」

「「「ちょっと待てやそこのシスコン」」」

「ん?」


 メールを確認しようとすると、何故だかクラスメイト全員が私にストップをかけてくる。あれ?なんだろうこの皆の冷たい視線は?


「なになに?そんな変な顔してどうしたのさ皆?」

「どうしたの、じゃねーよ。お前がどうしたんだよ」

「今の着信音(?)は一体何なのよマコ……?」

「今のって……ああコレ?ただの可愛いコマボイスのメール着信音に決まってるじゃん。それがどうしたの?」


 そう答えると何故か更に皆の目がキツくなる。え、何その反応?


「お、お前……まさか妹ちゃんの声を盗聴してメールの着信音にしてんのか……?」

「うわぁ……盗聴って。マジかよマコ」

「こいつ妹に対して犯罪行為しでかすとか……ホント終わってるな……」

「んなっ!?盗聴!?何て失礼なこと言うんだ君たちは!?」


 どうやら何か重大な誤解をクラスメイト達にされているようだ。私の名誉のためにもここはちゃんと説明せねばなるまい。


「ち、違うよ!盗聴なんかしてないってば!これは私が正式にコマに直接『コマの声を着信音にしたいから録音させて』ってお願いして録音・編集した着信音なんだし!」

「「「気持ち悪……っ!!!」」」


 きちんと説明してあげたのに、皆が私を見る視線が冷たい視線からゴミを見る視線にランクアップ。何故だ。


「うわぁ……ドン引きだわー……正直ドン引きだわーお前」

「コマちゃんもかわいそうに……多分姉の執拗なお願いに断れなかったんだろうな……」

「つーかコイツ、今この件に関しては盗聴してないって言ったぞオイ。つまり別件で盗聴してるってことだぞオイ」


 あ、あれぇ……?弁明したつもりが何か更に悪化してる気がするぞ……?


「ま、よく考えたらそれもいつもの事だしいっか。えっとそれよりメールメールっと」


 変態扱いはもう慣れっこだしひそひそと何か呟いているクラスメイトたちは放置して、届いたメールの中身を確認する私。

 なんか叔母さんからのメールだけど何があったんだろう?まあ、どうせ大した内容じゃないだろうけど―――


『FROM:叔母さん 買い出しするから何か買うものあったらメールよろしく』


 …………一大事だコレ。

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