狼男とムーンストーン

柴犬&モナカ

第1話 ある日あるときある森で


 俺はいつもの森を歩いていた。

変わり映えもない道と、今日は特に晴れ渡っている空。

本当にいつも通り。


 聞こえてくるのは、遠くで泣いている鳥の声と俺のザクッザクッという足音だけ。

土のにおいと青臭い草の匂い。

それに混じって嗅いだことのあるような無いような香りが漂ってくる。


 神経を研ぎ澄ませ、頭を巡らすがその匂いが何なのかと言う結論には至らない。

まぁ、とにかく向かってみることにしよう。

別にすることもなく、俺はにおいのする方向へ歩いていく。

どんどん近づき、においは濃くなっていくがやっぱりわからないその匂いの正体。


 どんどん歩いていくと、遠くに光が降り注いでどこよりもキラキラと光っているところを見つけた。

においの発信源はたぶんそこだと考えられる。


 ゆっくりと近づき、木の間を通り抜けるとまるで舞台のスポットライトのような、まばゆい光で目がくらむ。

腕で顔を覆い、ちょっとずつ目が慣れてくるのを待った。

数分たち、やっと目が慣れるとそこには白い、白いものがいる。


 もう一回、においを嗅ぐがこの物体で間違いなさそうだ。

これは、まるで人間の形をしている人形の様だ。

……まさか人間?


 いやいや、俺こんな人間なんて見たことないし、人間って死んだって髪まで白くなるとは聞いてないから。

じゃあなんなんだ?


 あぁ!まさかこれが天使ってヤツか。

じゃあ俺死んだの?

いつの間にか死んでたの?


 いやいやいや、ちゃんと生きてる感覚あるし、てかいつ死んだんだよ。

…じゃあこれってなんだ?

俺は生きているか死んでいるか確かめるために得体のしれないものの口の前に手をやった。


 生き、てる。

次にゆっくり頬を触ると、柔らかくて暖かかった。

久しぶりの温かさに俺は鳥肌が立った。

そして下を向き、また思考を巡らせた。


 生きてるのは分かった。

じゃあなんでそんなに白いんだろう。

ますますわからなくなっている矢先だった。


 「お兄さん、だれ?」

小さく、まるで小鳥のような高い声が聞こえてきた。

俺はバッと頭を上げ声を発した生物のことを見た。

何よりも先に驚いたのはこいつが人間だったってこと。


 次に驚いたのは目が赤いってこと。

まるでルビーのように太陽の光を浴びて煌めいている。

俺が目を見開いてじっと何も言わず見ていたためか、「大丈夫?」

と目の前で手を無られた。


 「いや、大丈夫。」とは言ったものの、開いた口がふさがらない状態だ。

俺自身、人間に会うことはめったにないし、唯一の人間は覚えていないが俺の母さんだった。


 俺の父さんは人間と結婚し、俺を産んだ。

母さんは俺を産んですぐに村の奴らに殺されたらしい。

父さんに呪われたとか何とか言っていたとのことだった。


 母さんは父さんに俺を連れて逃げるように言った。

それで俺と父さんは生き残った。

まぁ、父さんも三年前に村の奴に殺されたけど、最後に言い残したのはムーンストーンを持っている少女を探せ、そうすれば助かる。


 だったけか?

あれだけ、村には行くなって言っていた父さんが唯一人間の少女を探せと言った。

何があるかわからないけど、俺はそいつを探さないといけない。


 そうだ!ここら辺で人間がいるところなんて村しかない。

こいつ、絶対村から来たやつだろ?

もしかしたらその少女のこと知ってるかも!


 「おい、お前さ村から来たんだろ?

ムーンストーンを持っている少女を探してるんだ。知らないか?」

俺はそう尋ねるが、返事が返ってこない。


 それは別に無視をしているってわけではなさそうで、ただ考えているのだろう。

目線を上に向け、必死に考えている。

たぶん、少女に見覚えがあるかないかを考えているのだろうと思っていた俺は次の言葉に仰天した。


 「私、わからない。

前までどこにいたのか、何をしてたのか。私、自分が誰なのかも思い出せない。」

俺も戸惑ったが、相手も相当戸惑っているようだった。

まず、ムーンストーンを持っている少女を知っているか以前に自分のことがわからなくちゃ話にならない。


 だがどうしよう。

ここは森の奥深くだ。

普通の動物だって寄ってくることは少ないのにこの6歳7歳の少女が一人でここに来るなんてこと出来るのか?


 第一もし迷ったとしてもここまでたどり着くことは子供の足では不可能に近いし、ましてや途中の道すがら、他の狼どもに食われて終わりって言うのが普通だ。

村からちょっと言ったことろには狼の巣があって、いつも腹を空かせているもんだからどういったって通り抜けれはしない。


 少女一人でオオカミ十匹以上を相手するのは無理だ。

もし突破できたとしても、体には大きな傷が付き服はボロボロに避けているだろう。

男でも超えるのは難しいのだからこんな小さいんだったらなおさらだ。


 もし、大人が途中まで付いてきていてこいつとはぐれたのだったらその匂いとか

音で、普通は分かるはずなのに今日、こいつに会う時以外はほかの獣の残り香すらなかった。


 なのにこいつはここに来る途中で必ず触るであろうササユリの花粉や、

茨の棘のために服が汚れたりボロボロになっているところが一か所もないのだ。

おかしい。


 …そういえばさっきからあいつが静かだけど。

ふと少女の方に視線を移すと。

「ね、寝てんじゃん!!」

子どもは良く寝るっていうけどこうも寝る奴初めて見た。


 少女はㇲピースピーと可愛らしい寝息を立てまるでさっき俺と有ったことなど無かったことのように寝ている。

はぁ、これからどうすんだろ。

子どもの世話なんてしたことねーし、ましてやこれ人間だからな。


 普通の子供だってものごころつくころにはもう、狼男は呪いだから絶対に近づいてはならないとか、森には近づかないとか知っていて忠実に守っているはずなのにな…。


 いや、こいつが変なんだ。

人間だけど肌は生きているかわからないほど白いし、それに目は赤い。

父さんが食ってた人間とはまるきり違っていて。

変と言うかもう神々しい、美しい。


 一つの芸術作品の様だ。

俺がずっと少女のことを見ていると、急に少女は喋った、そのままの体勢で。

「私、物珍しいでしょ?こんな変な肌と髪、それに真っ赤な目。

私がただ覚えているのはこのことで女の子とか男の子、大人にも気持ち悪がられて、

お前は呪いだって言われたこと。


 それと、唯一おばさんが私にくれたこの宝石と、ルーナ。

月って意味のルナって言うのが私の名前だってことだけ。」


 そう言って、ルーナと言う少女は自分の服の中に首から手を入れてネックレスを取り出した。

…これって?まさか?

「おい、これってムーンストーンとか言うやつじゃないだろうな…」

俺が、ちょっと身を乗り出して言うと、ルナは戸惑った様子で「そうだよ?」

と言った。


 これは!

「きた~!!!!!」

 

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狼男とムーンストーン 柴犬&モナカ @shelliemay_nakayoshi

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