警察の砦(1)
――――――――午後八時。
強制捜査で、乗り込んできた警察に連行されてから二時間。
目の前には、黒いスーツを着たオールバックの刑事は、射抜くような眼光で、こちらを見る。
取り調べを担当する彼の説明に、滝馬室は聞き耳を立てた。
「この後、あなたは四十八時間以内に検察庁に送られ、検察官による聴取が行われます。弁護士を通して検察官と相談し、あなたに詐欺行為をさせていた人物の名前を教えて頂ければ、あなたがこれまで働いた詐欺行為を、いくつか取り下げます」
詐欺犯なのは確定なんだな。
「今ここで、警察に詐欺を支持した”トップ”を教えて頂ければ、こちらから検察官に厳罰を
聴取に対して、滝馬室は苛立たしげに答える。
「だから何度も言うように、水の販売をしている小売り店で、たまたま営業にいっただけで、関係ないんですよ」
「なるほど。では、あの場所が、詐欺グループの活動拠点だと言うことは、ご存じでしたか?」
「知っている訳ないないでしょ?」
嘘だぁ――――。
入念に下調べをした上で、あの場に乗り込んだ。
取調官は両手を重ね合わせると、机に突き出し、質問の内容を変える姿勢を見せる。
「あなたの連れの女性が、”自分たちは刑事だ"と言っています。ご存じではないかもしれないので、説明します。一般の方が警察を名乗ると、偽証行為に当たります」
あいつ、余計なことを言いがって。
この後の話が、ややこしくなるだろうが?
「あぁ……実は彼女。メンヘラと呼ばれる、精神の病んだ人間なんです。自分が刑事何て、飛んだ妄言ですよ」
滝馬室は、取調官が溜め息を付いて、呆れている様子を見ると、上手く誤魔化せたと
まったく――――熱血爆走、女刑事め!
俺達、表向きは一般人を装っているんだぞ?
警察内部でも、限られた者しか知らないのに、おいそれと、身分を明かしてどうする?
まぁ、そんな説明すらも、取り調べをする、目の前の刑事は信用しないだろうが。
目の前の取調官は、詐欺グループとの関わりを否定しようとする、でまかせだと思っているだろうが、困ったことに、その、女の言うことが、正しいのだから難儀だ。
皮肉にも、手柄を立てて警視庁に戻ると、豪語していた彼女が、詐欺グループと間違えられて、警視庁に連行される形で、戻って来るはめになるとは、運命の悪戯は気が利いていると言うか、余計なお世話と言うべきか……。
質問に進展がないと、聴取をする刑事は、苛だたしげに、机の脇に設置されたカメラを曲げた人差し指でノックし、それまでの機械的な口調を一転させ、好戦的な物言いになる。
「おい、よく聞けクソガキ? この後、このカメラで、お前の証言を記録する。その証言は法廷での証拠になるんだぞ? だから、法廷で不利な証言にならないよう、今、供述の予行練習をしている。手間をかけさせるな」
四十過ぎて、クソガキと言われるのは痛恨だな。
カメラによる取り調べの撮影は、問題なく聴取が行われたことを、法廷でアピールする為の物だ。
だが、それでいて、被疑者を有罪に持ち込む為の、撮れ高を納めなければならない。
その為、取り調べで聞いた質問と、法廷で確認する質問に、矛盾がないよう記録を取る前に、どんな内容を話すか、予め聞き、事前に録画される内容を決める。
カメラに記録される内容に、警察が容疑者に対して、不当な扱いをした場合は問題になるが、記録される前の内容に関しては、黙殺されている。
しかも取り調べをするのが、警視庁の中でも、一際、厳しく問い詰める捜査二課。
捜査二課が相手にする知能犯は、経済犯罪に長けた犯人で、綿密な計画の元、警察の目を欺き、長期に渡り不正を行う連中だ。
法的な逃げ道も用意するなど、一筋縄では行かない。
そんな、知能犯を追い詰める、取調官の追い込みは情け容赦ない。
ゆえに、他の捜査課の取り調べと比べて
取調官は、再び溜め息から始め、口を開く。
「では、もう一度、聞きます……」
自分も、かつて、取り調べをする側だったが、される方に回るのは耐え難い、
いや、耐えられない。
突然、部屋の扉が開き、開いた扉の風が、膠着した室内の空気を押し流した。
一人の刑事が入って来ると、室内にいる顔ぶれを一通り確認し終わり、滝馬室に目を向け、驚愕の表情で言う。
「――――タキ?」
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