俺たちは刑事だ!

アクト=裏付け(1)

 副都心や海岸線を含めた東京の心臓部は、オリンピックの開催に合わせてインフラの整備、施設の再開発が進んでいる。


 そのうちの一つ、渋谷。

 若者のトレンドを発信するファッション街も、様変わりしてきた。

 渋谷区から空港までのダイレクト・アクセスを可能にした、バスターミナルも、その全貌を露わにし、渋谷ヒカリエを始めとする、地上の駅と地下メトロをつなぐ、アーバン・コアが、通行の利便性を高めた。 


 更には、日本進出を計る、海外企業への提供を目的とした、オフィスのハイグレード化も加速。

 現在の渋谷は、ビジネス・チャンスの可能性を秘めている。


 確かに、ここ数年、天を仰げば、高層ビルはまるで、地面から太陽に向かって伸びる、菩提樹のように建設され、かつての夢想家達が思い描いた、近未来都市を具現化していると言っていい。

 

 などと、物思いにふける滝馬室たきまむろは、助手席から、流れて行くビルを眺め、憂鬱な気分を誤魔化そうとする。


 洒落た眼鏡が鼻に付く、サイバー捜査官こと加賀美の手腕により、地域を特定すると、早速、詐欺犯の情報を求め、足を運ぶ。

 

 港区から渋谷区まで、地図上で北西にミニバンを走らせ、恵比寿を経由する。

 最近オープンしたばかりのヒカリエが、混雑する人通り越しに見えてくると、渋谷駅、西館の百貨店が、コンクリートの城のごとく目に飛び込んでくる。

 

 そのまま、車を進め立体交差点の下道、国道二四六号に入り、西へ進んだ。

 

 二四六によんろくから脇道に逸れると、小さなパーキングにミニバンを止めて、滝馬室と優妃は周辺の調査を開始した。


 我が有限会社ミズーリは、出社が九時から退社が五時までと、労働基準法の、正しく基本を遵守している。

 そして、土日は休みと、非常に労働環境が整った会社だ。


 にも関わらず、部下である事務担当の天野・優妃は、その基本を無視して、週末のプレミアムフライデーに、上司である俺を連れ回し、地取りに勤しんでいた。


 優妃の安全運転に揺られながら、部下から強いられる、長時間労働をどこに訴え出ればいいのか、考えているうちに現地に到着。


 渋谷区桜ヶ丘は、若者の活気溢れる原宿や表参道とは打って変わって、落ち着き払った、大人の隠れ家に似た雰囲気を醸し出していた。


 まず、一日かけて、桜ヶ丘周辺のマンションやビルに足を運び、一階から最上階まで訪問して話を聞く。

 先の調査方法と同じく、水の営業に託けて地域に聞き込みをした。

 詐欺被害の注意いを促しつつ、最近、近辺に引っ越して来た住人や、目にする、挙動が怪しい人間などの話を聞く。

 

 そのついでに、ミネラルウォーターの新規購入者を開拓。

 おかげで、この前の地取りと合わせて、今月のミズーリの売り上げは、先月を大きく上回った。

 

 今日は気分よく帰れそうだ。

 その日は、午後五時を目処に地取りを切り上げる。

 

 次の日。

 地取りにより、あるマンションの一室が怪しいと睨んだ――――。


 再び、国道二四六号から逸れた脇道。

 ビルの周辺に、より高いビルやマンションが建設されているだけなのだが、こうして見ると、高いビルとマンションの間を埋める為に造られたように見え、肩身の狭さに悲壮感が漂う。


 広い駐車場の上に、教会が建っているからか、地域には穏やかな空気が包んでいるようだった。

 とても、詐欺集団がいるようには思えないが、それが、拠点を選定した者の狙いなのかもしれない。

 

 T字路の抜け道を、台形のマンションが塞ぎ、周辺を低層のマンションが囲む、その並びに、五階建て縦長の箱ビルがあった。

 白い外壁は、自然光を反射して、白色を際だたせていた。

 部屋は一つの階に五部屋あり、いつもの調子で、水の営業にかこつけて、一階からローラーかけた。


 廊下の内装も白で統一した、同マンションの三階に来ると、他の住居者、少し異質な部屋に気付いく。

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