アジェンダ=逆探知?(1)

 有限会社ミズーリのオフィスを出て、左へ五歩足を進める。

 コンクリートと木製の壁を伝うと、ミズーリと同じような扉にたどり着く。


 すぐ隣の部屋は、六畳程の空間で、陣取っているスチール製の棚には、ミズーリの備品や水の在庫が保管されている。


 滝馬室は優妃の尻に敷かれ、渋々、機材の運び出しを手伝わされている。


 隣の部屋から二つの段ボール箱を、それぞれ持ち運ぶ。


 先頭を歩く優妃の箱は、大きさの割りに、軽そうに見えるが、方や、同じくらいの大きさの箱を運ぶ滝馬室は、重さで箱から手がずり落ちそうになる。


 優妃が段ボールを運びながら仕切りに髪を揺らしているのは、いい女を演出する為の、右頰にかかるボブ・ショートの髪が、彼女の半分の視界を邪魔しているからだろう。 


 オフィスに持ち込むと、二つ箱を優妃のデスクに置いた。


 優妃が運んだ、段ボール箱から中を出すと、ヘッドホンと何重にも絡まったコードが出て来る。


 そして、滝馬室が運んだ段ボール箱から出て来たのは、箱と同じ大きさの、四角形の機材。


 最近のオーディオ機器にしては、やけにデカい。


 鉄の重みを感じさせる銀色の箱。

 外寸法は、間口が六十六センチ。

 奥行きが二十八センチ。

 高さが二十五センチ。


 ブルーレイ・レコーダーを三台分積み重ねた、大きさはあると見ていい。

 一昔前のビデオデッキも大きかったが、ここまでの大きさではない。


 間口には、黒いダイヤルが付いており、縦が二列、横が五列。

 それぞれのダイヤルの回りに細かい数字が表記されている。

  

 誘拐事件が起きた時に、犯人の電話のやり取りに使用し、時には、居場所の特定にも関わる機材。

 サード・パーティーの潜入捜査において、カルト教団とコンタクトが必要になる場面で、使用されると踏み、警視庁の備品保管庫から貸し出された物だ。


 だが、そんな場面は訪れるず、オフィスの物置に閉まったまま、古代の遺物としてほこりをかぶっていた。

 

 、こんな方法を使うとは、ナンセンスもいいとこだ。

 だいたい、ここにはな物が欠けている。


 古い機械の為か、優妃が配線の接続に手間取っている。

 彼女は見たことも触れたこともない代物に、果敢にも挑戦しているのだ。

 さすがに、ゆとり世代と揶揄やゆするのは、かわいそうかもしれない。

 だが、おぼつかない手つきで、四苦八苦している彼女を見ていると、とても逆探知が出来る様子に見えない。


 刑事人生に熟達した滝馬室は、見かねて手を差し伸べる。


「優姫さん。ちょっと貸してみな?」


 優姫は突っぱねるように返す。


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