【休載中】イセカイサイクロン ~Earth's Wind's Souldiers~【期間不明】
かーや・ぱっせ
始まりの章
000話 プロローグ
人の生き方は風に例えられると思う。
はじめは誰もが小さな風で。
あらゆる場所に向かっては、あらゆる物事に出会って、自分らしい吹き方を模索しながら。
時にはいがみ合って。
時には寄り添い合って。
そうして風は大きくなって、世界中を縦横無尽に駆けていくの。
――これは、可能性に満ちた少年少女が、イセカイで“嵐”となる物語。
ときは現代。アスファルトが敷かれた街へ、容赦なく陽の光が照りつける候。とある住宅街のとあるマンションに住む彼女にも、その光は差し込んだ。
「う……んぅー……」
カーテンの隙間からやって来た陽光を受け、ベッドの上で顔をしかめる者が一人。おもむろに身体を起こしたかと思いきやコテンと前のめりになった。
「あぁつぅいいぃ……朝から汗だくだよー……」
うだりながらもその人は、服をつまんでバサバサと内側に風を送ろうとする。それから鎖骨まで伸びた乱れ髪を手ぐしする要領で掴むと、その人へ電源が入ったかのようにまぶたが開かれた。
「もしかして今日って!」
ぱっと振り返りカレンダーを見る。“8月”という大見出しのすぐ下、“1”を囲った大きな赤丸に“自由研究!”という赤色の文字があった。しかもそのカレンダーがある勉強机には律儀に手提げかばんが、荷物を詰めた状態で置かれてある。さらに近くにあった目覚まし時計を取ると彼女の顔がみるみる青ざめた。これに追い打ちをかけるがごとく、この家の呼鈴が鳴り響くのだった。
「大変! 急いで準備しないと!」
寝間着を床に脱ぎ捨ててはタンスからTシャツとスカートを引き抜き身につけようとした時。
「マルー! 健君が来――」
「わああダメ! お母さん開けないで!」
「ごめんなさい! 着替え中だったのね!」
華奢な身体をとっさに隠して母親の目をかいくぐった少女・マルー。彼女のこれは愛称で、本名は
マルーはどうにか着替えを済ませると、ヘアゴムと手提げかばんを手に部屋を出た。
「お母さんひどいよ! 勝手に部屋のドア開けるなんて!」
「ここまでずっと起きてこなかったんだもの、仕方ないでしょう?」
「早くしろよマルー。二人を待たせるんだぞ」
「分かってるってば! でももうちょっと待って!」
玄関の外で待っている少年・
「いつもごめんね健君。こんなマルーと昔から仲良くしてくれて」
「まあ、別に。慣れてるんで」
「健君はいつも優しいわね。あなたがお隣さんの子でよかったわー」
「おまたせ健! 早速行こう!」
健がマルーの母親と会話しているうちに、髪をおさげに結った彼女が現れた。
「いいマルー? ケガと無茶はしないように! あとこれ、今日の朝ごはん!」
「ありがとうお母さん! じゃあ行ってくる!」
マルーに握られたのはこぶし大のおにぎり。包みを広げ、口に頬張りながら外へと出てゆく。
こうして、少年少女の夏が始まるのだ。
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