ちょっと無双します


「誰も見ていないし、最強系主人公みたいなアレをやっちゃいますか」


 日曜日から月曜日に変わった頃、青年はひとり、モニターに向かって呟いた。

 「明日は仕事だから、早く寝たほうがいい」なんて思われるかもしれないが、この日は祝日で休みなのだ。


「えっと、まずは異世界に転生するところから……、いや、『転生』っていうのは、現実世界で死ぬことが定義に含まれているから嫌だなぁ。こういうのは、『異世界転移』っていうのだろう」


 青年はおもむろにシャープペンシルを持って、指揮棒のように、宙に軌道を描いた。


「我を、の地へといざなえ。アザー・ワールド」


 次の瞬間、青年は広大な草原に立っていた。頭上から太陽が、白い光を照らしていた。


「ああ、太陽が眩しい。しかし、なんて暖かいんだろう」


 青年は目を閉じ、穏やかな表情で深呼吸する。空気がおいしい。

 そして青年は、今いる世界に意識を集中させる。どこか、何か、無双できるようなシチュエーションはないだろうか、と。


「こども、か」


 青年が目を開けたとき、ベージュ色をした石造りの建物が、草原のなかに並んでいた。場所が変わったらしい。

 青年は、建物をひとつ選ぶと、ひょいと屋上へ飛び移った。そして寝っ転がった。


「ふぁぁぁ、今日もいい天気ですなぁ」


 休みだからということで、気にせず放置していた髭をいじりながら、青年は異国の空を眺めていた。


「きゃっ!」


 次の瞬間、突如現れた少女が、青年の脇腹に足をとられて転倒した。

 

「ごっ、ごめんなさい!こんなところで寝てるなんて思わなかった」 


 少女はすぐさま起き上がると、青年にお詫びの言葉をかけつつ、走り去っていった。


「あらら、行っちゃったよ」


 青年はおもむろに取り出した文庫本を開くと、仰向けになったまま、本を読み始めた。

 そこへ、少女を追ってきたと思われる黒服の男二人が現れる。


「おっと、誰かいますぜ、兄貴」

「構うな。早く行って、あいつを捕まえろ。銃で脚を撃ち抜いてもいい」


 黒服の男が拳銃を取り出した刹那、銃声が鳴り響き、取り出した拳銃は吹き飛ばされた。

 それを見た、もう一人の黒服(兄貴分)が、青年に銃を向けたが、引き金を引く前に、同じく銃を吹き飛ばされてしまった。


「うーん、なにか違う。眠いし帰るか」


 青年は元の世界、自室に戻ると、パソコンの電源を切り、布団に潜った。


「まあ、少し楽しかったな。気兼ねなく行けた感じ」


 時計は二時を回っていた。

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エチュード 長芦ゆう @nagaashi

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