花の姫
霞
第1話
赤いチューリップの茎をしならせ、ゲンジは隣の白い花に大きく飛びうつった。
「姫さまっ!」
花の中には衛兵もつけていない、孤立した皇女さまが細い両腕で細剣を構えている。その眼前には敵兵が二人、左右からじわりじわりと距離を詰めていた。圧倒的不利な状況にありながら
しかし剣を握りなおし、戦う姿勢を崩さない貴人の表情には、焦りはあっても恐怖は感じさせなかった。
「ゲンジ! よく来てくれた、ここが落ちれば我が国は降伏するしかない! なんとしても死守せよ!」
皇女さまはゲンジのほうを振り向くことなく声を張った。
ゲンジが皇女さまと敵兵の間に飛び込むと二人の兵は後ろに飛び退って突然現れた、黒衣の闖入者と距離をとる。彼は体躯に合わない──身長の二倍以上ある──槍を滑らせるように回転させ、矛先を下に向けて体の重心を下げた。その間合いは広く、この距離でもちりちりと鋭利な刃が敵の足元に届かんとする。
「えああっ」
低く唸って、右側にいた敵が剣を振るい飛びかかってきた。ゲンジは低姿勢から大きく跳ね上がると、体に槍を引きつけ、正面で相手の初撃を受け止める。
ぎゃいん、と金属音が響き、周りの花弁がぶるりと震えた。
花の姫 霞 @kasumimato
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