愛の総量

きっと愛の総量が違うのだ。


「ねえ、先週キスしてないよ」

上目遣いでキスを請う。

寝転がる裸の肩に頭を乗せると、先ほどまでの行為で激しく動いたからか心臓の音が良く聞こえた。智は首を傾げる。

「そうだっけ、覚えてないな」

波留がまだ恨めしげにしていることに気づくと、智は半身を起こして軽く口付けした。


智と初めて身体を重ねてから、1年が経った。

相変わらず週に一回、それ以上でもそれ以下でもなく、規則正しく逢瀬を重ねてきた。

最初こそ智は、口説き慣れている人間特有の軽さで波留に触れていたいたが、気づけば腕を組むのもキスするのも、いつも波留からだった。


だから試しに先週、一日触れるのを我慢した。

前を歩く腕に指を絡めるのを止め、隣に座った肩に頭を乗せるのを耐えた。

そして智がキスもせず、抱きしもせずに波留とセックスをし、太ももに射精したとき、繋がっていたのは精神どころか肉体ですらなく、性器だけだったのかと思った。


でも智にとっては、些細な問題だったようだ。

キスなんて、しようとしなかろうと。気づきもしなかった。


「寂しいな、釣った魚にもたまには餌くれないと死んじゃうよ」

冗談めかして言ってから、今度は波留の方からキスをする。


−たまに忘れてしまう。二人の間には、なんの約束も無いことを。

彼女という言葉で縛っておきたいほど、波留の存在は智にとって重要ではない。


(あなたは私のことを、私があなたを想うよりずっと少ない熱でしか考えないことが切ない)


智は、波留を失うことを想像して、泣くことなんてないだろう。波留が自分を捨てるなんて欠片も思わない。

だって、どれだけ波留が自分を好きか知っているから。

惚れた方が負け、というのはきっと正しい。


(あなたと私は気が合うけど、あなたが私を愛おしそうに見つめることがないのを、私は知っている)


きっと愛の総量が違うのだ。

(出会った頃よりあなたが好き)

でも一方通行の想いは、膨らむほど自分が疲弊していく。


恋愛映画を見れば、感情移入できない駄作でも勝手に涙が溢れる。

(ああ、しんどいな。恋愛って、こんなだっけ)


好きって言って。

手を繋いで。頭を撫でて。腕を組ませて。抱きしめて。キスして。

(でもあなたが私に触れるのは、セックスするときだけ)


もう、都合のいい女でいられなくなっていることに今更気づく。

壊れるほど愛されたい。苦しいくらい求められたい。

“セフレ”に餌を与えると、恋心だけが大きく育ってしまうようだ。

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