あつかいに困る下駄箱のプレゼント

 ガタゴトと揺れる電車の中。


「あ、あの看板可愛い」

「猫か。可愛いな」

「あ、あのビル変な形」

「酒の瓶みてー」


 窓の外で流れる景色にしょうもない感想を言い合う。

 俺がつり革を持って前に立ち、竜神はつり革を下げるポールを持ってすぐ後ろに立ってくれている。

 竜神は自ら宣言した通り、学校への送り迎えをしてくれるようになった。登校二日目にあれほど俺を苦しめてくれた痴漢は、竜神が隣に居てくれるというだけでなりを潜めた。それどころか、相変わらずの満員電車なのに俺の周りに男が寄ってこようとしなくなった。竜神の強面の効果は凄いな。


『桜丘町――桜丘町――』

 アナウンスと共にドアが開き一気に客が電車から流れ出ていく。俺達も流れに交じって電車から降りる。


 鏡張りの壁に並んで歩く俺と竜神の姿が映った。

「!」

 自分の姿にちょっと息を呑んでしまった。

「どうした?」

「ううん、何でもない」


 何でもないと竜神に答えつつも、同じ方向に歩いていく同じ制服を着た女子達を見回す。

 うーん……。ちょっと悶々としながら桜丘高校に登校したのだった。


 靴箱をパカリと開くと、色とりどりの袋や小さな封筒、折りたたまれたメモ用紙が入ってた。

「ぬ」

「おー、すげえ」


 横で靴を履き替えていた竜神が硬直した俺の手元を覗いて感心する。

 一番手前の紙袋を開くと、新品のリストバンドと一緒にメモが入ってた。『プレゼントです。使ってください。良かったらメッセージ下さい 2年1組 北沢 大地』その後にはアプリのIDとメアドが書かれてる。


「どうしよう、これ……」

「全部に返信してたら一日が終わりそうだな」

「困るよ……」


 プレゼントなら手渡しで持ってきて欲しかった。そしたらその場で断れるから。貰っちゃったらお礼言わなきゃいけなくなるだろ。


 教室に戻ってから手紙類を確認すると、次から次に出てくる「連絡ください」や「好きです」の文字。俺を完全な女の子だと勘違いしてるんだろうな。

 プレゼントはアクセサリーやリストバンドで、その数は20近くもあった。


「おはよー、未来」

「おはよー」

 美穂子が登校してきた。そだ、相談したいことがあるんだった。


「ねーねー美穂子、俺も、もうちょっとスカート短めにしたほうがいいと思う?」


 俺のスカートは他の女子たちより遥かに長い。当然である。

 でも、さっき、鏡に映った自分の姿を見て気が付いたんだけど、長すぎて逆に悪目立ちしてたんだ。


 出来るだけ目立ちたくないし……それに、一緒に歩いてくれてる竜神に恥をかかせたく無いってのもある。


 というか、竜神に『こいつダセーから一緒に歩くの嫌だな』とか思われてたら洒落にならない。マジで。本気で泣くかもしれない。


「当たり前だよ。長すぎだもん」

 美穂子からの答えは簡潔だった。

「むぅ……」

 やっぱりそうだよなぁ。

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