痴漢、めっちゃ怖い!!!!!!!!
恐らく真赤だろう顔で、台所で茶を飲んでる母ちゃんの前に立つ。
これまで、こんなに恥ずかしいことがあっただろうか、いや、ない。初めてこの体で風呂に入った時だって、こんなにまで緊張しなかった。
でも伝えなければならない、よし、いうぞ――――!
「母ちゃん、俺の体に生理が始まったんだ」
いった――――――!
やった、やったぞ、ようやくいえた! 頭の中にファンファーレが吹きまくる。
「あら、そうかい!」
妙に弾んだ母ちゃんの声。どうやらファンファーレが吹いたのは、俺の頭だけじゃないようだ。
「そりゃお目出度いわね! お赤飯を炊かなくちゃ。炊飯ジャーに残ってるご飯は冷蔵庫で冷やして、明日チャーハンにしようかしらね」
「余計なことすんな!」
財布を持って台所を出ようとする母ちゃんに後ろからタックルをかます。
が、母ちゃんはさっさと家を出て行ってしまう。本気で赤飯を炊くつもりだな。
「今日は何かの記念日だったか?」
夕食で出た赤飯に、珍しく早く帰ってきた兄ちゃんが箸を取りながら目を丸くした。
家じゃ、記念日には赤飯って決まっているのだ。
「未来が大人になったんだよ」
「生理がきたのか?」
ずばっと兄ちゃんに問われ、俺はやけになって「ああそうだよ」と言い捨てた。
因みに父ちゃんはかなり昔に亡くなっている。家の家計は十五歳年上の兄ちゃんの収入と、母ちゃんのパートでやりくりしている。
「そうか。ならば体に異常は無かったんだな。よかったよ」
兄ちゃんはそれだけ言って、黙々と飯を食い始めた。俺もそれに習う。母ちゃんだけが「やっぱり女の子がいると、食卓が華やかになるわね」と喜んでいた。
食事が終ると兄ちゃんの部屋へ呼ばれた。
「何の用だよ」
「話しておく事があってな。座れ」
家は築四十年も越えて傾きかけたボロ家だ。歳月を連想させるように、全部屋が畳敷きの和室である。兄ちゃんの部屋だってそうだ。なのに兄ちゃんの部屋には不釣合いにソファが置かれていた。言われるがまま座ると、やたらとふかふかで体が半分沈んでしまう。
「お前の体の主――上田早苗は自殺を図った際、性的暴行を受けた形跡があったそうだ」
「え――!!?」
唐突に切り出された内容に、叫び声を上げて反射的に体を抱きしめた。
「未遂ではあったそうだがな」
「そう……」
無意識のうちに傷に触ってしまう。
「ねぇ兄ちゃん、早苗ちゃんを襲った相手って、誰?」
「不明だ」
――――☆
翌朝、俺は、人いきれに閉口しながら、電車に揺られて浮いたり沈んだりしながら足を踏ん張っていた。
男の体だったら人と人と隙間無く密集してたって、がんとして自分の位置を確保できてたんだけど、女の子の体じゃそれは不可能だった。
まず周りが背中だらけ。見てるだけで息苦しい。
「ゃ……!?」
大きな手が俺の太ももに触れた。
手汗でべとついた気持ちの悪い感触が内またを撫でる。
足の付け根まで撫で上げ、下着にまで伸びていく。周りは背中だらけだったけど逃げられるだけ掌から逃げた。でも駄目だ、追ってくる……!
怖い怖い怖い! 本気で体が震える。やめろって言いたいのに声が出ない。
逆らったらもっとひどい目に合うかもしれない。痴漢の顔を見ることもできない。
顔を見ちゃったら口封じの為に殺されるかもしれないから。痴漢された上に殺人事件の被害者にまでなりたくない。
誰か、助けて!
思わず周りを見るけど俺の周りは不自然に男ばかりだった。
スーツを着て眼鏡を掛けた中年のサラリーマンと目が合う。多分父ちゃんが生きてたら同じ年ぐらい。
(助けてください……!)
半泣きの口パクで訴える。
痴漢を捕まえてくれなんて言わない、場所を入れ替えてくれるだけでもいいから!
そのおっさんは助けてくれるどころか俺を痴漢の方に押しやり、体を押し付けてきた。狭い間に挟まれた俺の胸がおっさんの胸で押し潰される。
感触を確かめるみたいに、何回も。おっさんがニヤニヤ笑い、息を荒げて、震える俺を見下ろし、下半身まで体に押し付けてくる――!
「――――!!!」
ひどい絶望に息が止まった。
後ろから伸びてくる指は、パンツの中に入って――。
「やだぁああ……!!」
ようやく、俺は悲鳴を上げることが出来た。他の乗客がこちらを注目したので指もおっさんも離れていく。
電車中に響くんじゃないかってぐらいに心臓がバクバクなってる。体の震えが止まらない。
目の下がぐわっと熱くなって涙が溢れた。ボロボロ溢れシャツにまでシミを作っていく。う、やばい、ガチ泣きだ。こんなところで泣きたくない、恥ずかしい……! 痴漢に泣かされるのも悔しいのに……!!
昨日買ったばかりのリストバンドで拭うけど、涙はなかなか止まってくれなかった。
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