「パンツ見えちゃうよ」
やっと一日終った……。
「未来、遊びに行かねぇ? 駅前にすっげー曲数多いカラオケできたしさ」
「やめとく」
さして親しくもなかった奴からの誘いをにべもなく断る。
前の体だったら速攻で行ったけど、今じゃとても男に付いて行こうなんて危険な真似する気になれない。一緒に行ってくれる女がいれば別だけど――なんて、少女思考になっている自分を発見して、うんざりと首を垂らした。
「んじゃ明日行こうな」
「明日もちょっとな……」
「なんで? 用事でもあるのか? あぁ、金無いの? それだったら奢ってやるぜ。飯も込みでさ」
下心が見え見えだから嫌なんだよ!
などといえるはずもなく、適当な断りの文句を探して頭を回転させる。
ナンパな男に付きまとわれる女の子の気持ちが良く判るな。しなくていいはずの苦労をさせられるなんてバカバカしいよ。
「明日は僕と約束があるから。ね、未来」
間に割り込んで助けてくれたのは浅見だった。
「あ、うん」
普段は教室の片隅でまるで存在感無く蹲ってるだけの浅見に割り込まれ、そいつは意表を付かれていた。二の句を発する前に二人して教室から逃げ出す。
「サンキュ、助かったよ」
「これぐらいなら、いくらでも」
玄関まで一緒に行って、そっからは別れた。
サッカー部の部室に行きたかったから。
レギュラーで出場するはずだった次の試合で、俺の穴を誰が埋めてくれるのか気掛りだったし、先輩たちや監督に謝罪もしておきたかった。
グラウンドの一角――というにはかなり広めのスペースで、サッカー部が練習していた。俺が居なくなろうとも女になろうとも関係無く、いつもどおりの練習風景にちょっとだけ拍子抜けした。
何となく切り出していきにくくて遠巻きに練習を眺める。
「うわ、超可愛い子発見~」
緊迫感の無い声と共に肩に掌が乗った。
「サッカー部見に来たんスか? あ、ひょっとして、誰かの彼女?」
「達樹」
この学校の中等部のサッカー部のキャプテン、王鳥 達樹(おおとり たつき)だ。
金髪に近い茶髪を短くしてムースでつんつん突っ立てて、いかにも軽そうなナンパ少年のバカ面で覗き込んでくる。
「あれ、おれのこと知ってんだ。そんな有名人かな?」
「俺だ、日向未来だ」
一瞬、達樹が笑顔のままで凍った。
「ええぇええぇ!? 未来先輩、なんで女の子になっちまってるんですか!? 冗談でしょ?」
「聞いてないのか?」
「何を?」
驚いて三歩ほど下がる達樹に説明する。
「うっそ信じられねぇ」
「テレビで特集も組まれたみたいなのにな」
「あ、ここんとこ、夜遊びばっかでテレビとか見てなかったし、学校にもきてなかったし」
達樹が高等部の練習風景を見に来るの事態も稀だ。
全く、こんなんでキャプテンなんだから、この学校のサッカーのレベルの低さが偲ばれる。
「事故って良かったっスね先輩。こんな可愛くなれるなんてさ。男手玉に取り放題じゃねえの?」
「そんな気持ち悪い事できるか」
「ねぇ、あっちで見ませんか? 木陰になってて座れるトコもあるんですよ」
「おい、コラ」
訊ねてる癖に意見など聞く気もないようで、腕を掴まれ引っ張られる。
達樹の言うとおり木陰になってる場所に高めの花壇があった。今の季節は六月。初夏といえども日差しはきつい。木陰はありがたいな。
促されるままに座り、また片膝だけあぐらをかく。
「パンツ見えちゃうよ」
「大丈夫だよ」
「足白いッスね」
「触ろうとするんじゃねぇ!」
伸ばされる手をペシンと払う。
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