第133話27-3.卒業パーティー

「現実世界の日本で、ホワイトプライドユニオンの麻薬ルートを解明しました。ホワイトプライドユニオンの悪魔が三人から四人ぐらい関わっている。そいつらを捕まえるか殺すかしたい。湯崎さんに相談したら、麻衣さんの方が適任だろうって」

「その情報は、ソレルが掴んだものなのかい?」

「はい」

「じゃあ、確実だ。相手の魔物の総数は?」

「不明です。湯崎さんは悪魔一人に四体で推測していました」

「用心するならそれぐらいだろうね。とすると、こっちの手勢は二〇人以上欲しいところだ。大捕物だね。でも、湯崎の手を患わせるほどじゃない」

「敵は車を利用して麻薬の運搬をしているんですが、アジトは無いようです。複数のドライバーに車を運転させて、運転手が交代する隙に麻薬を車に積んでいるという話でした」

「そうなると、襲撃場所は駐車場か……」

「はい。ただ、ランダムに車を停めさせているみたいで、その時にならないと具体的な場所は分からないそうです」

「それじゃ、事前訓練は無理だな。ぶっつけ本番かあ」


 バンテージをほどいた麻衣は渋い顔になった。彼女は大きく伸びをしてから、話を継続する。


「他にも問題があるね。人目だ。ディルヴェの本拠地でも攻撃を隠さなかった連中だ。どこの駐車場か知らないが、ドンパチが始まったら警察への通報は確実だろう」

「それは考えたんですけど、目くらましに配松さんを使えませんか?」

「……なるほど。配松を警察に送り込むつもりか。悪知恵が働くね。短時間だったら可能だろう」

「作戦を立ててくれますか?」

「いいよ。ただ、条件がある」


 麻衣は言葉を句切り、麗奈のいる場所を目で示した。


「そろそろ麗奈をお手つきにしてやれ。自分だけ魅力が無いんじゃないかって、病んできちゃってるんだよ」


 赤毛の女性が小声で話し出したので、志光もつられて声を下げる。


「それに関しては、麻衣さんにだって責任があるんですからね」

「アタシに? どんな?」

「はっきり言って良いですか?」

「良いよ」

「僕と一番〝合体〟してるのは麻衣さんですよ」

「…………嘘」

「嘘じゃ無いです。クレアさんはアソシエーションの会合があれば魔界日本にいないし、ソレルも虚栄国との掛け持ちだから、ぶっちゃけ二人は週に一回ぐらいの頻度があれば良い方なんですよ。麻衣さんは、違うでしょ?」

「……まあ、そうかな?」

「そうかな、じゃないですよ。ここ一ヶ月の平均は週三回ですよ。それを週一に減らせば、見附さんにも手が回るというか……」

「いや、待て。アタシが週三回だとして、残りの二人が週一回ずつなら二日余るじゃないか」

「その二日は譲りませんよ。僕にだって独りで寝たりソロ活動をしたい日はありますからね」

「なんだ。キミがオナ禁すれば良いだけの話じゃないか。問題解決だ」

「いやいやいや! 違うから!」

「違うも何も、最後に出すんだから一緒だろう?」

「一緒じゃないし!」


 志光と麻衣がやりあっていると、幽霊のような顔をした麗奈が間に割って入ってきた。彼女はかすれた声で少年に恨み言を述べる。


「私……オナ×ー以下なんですねぇ。薄々分かっていましたけど」

「ち、違う!」

「でも、さっきソロ活動をしたい日があるって言っていたじゃないですかぁ」

「その語尾をちょっと伸ばす喋り方を止めてください。怖っ」

「志光君。そりゃ怖くもなるだろうさ。だから、さっさとお手つきにしとけって言ったのに」

「いや、そう言われても、僕だって自分に自信が無いというか、初めての人を上手くリードするだけのテクニックはまだ身についていないというか……」

「そうやって先延ばしにしていると、いつか取り返しのつかないことになるかもしれないねえ」

「夏休みの宿題みたいな言い方は止めてくれませんか? デリケートなことってタイミングが重要だと思……」

「そうですねぇ。夏休みの宿題は、放っておいても高齢処女になったりしませんからねぇ」


 麗奈の地獄の底から響いてくるような一言が、志光の発言を遮った。麻衣は部下と上司を見比べてから、提案を出す。


「どうだろう? 今回の作戦が上手くいったら〝見附麗奈、さよなら処女記念パーティ〟を開くというのは?」

「……なんですか、そのバチェラー・パーティーみたいなのは?」

「あれ? 博学なキミにしては珍しいな。独身さよならパーティーの女性版があるのを知らないかい? ヘンズナイトとかバチェロレッテ・パーティーって言うんだよ」

「いや、それは初耳ですね」

「麗奈の場合は、独身じゃ無くて処女を卒業するんだけど、まあ似たようなモノだから気にしなくて良いか」

「そのパーティー、いいですね!」


 赤毛の女性のアイデアを聞いたポニーテールの少女が、いつもの快活さを取り戻した。彼女はふふっと笑って志光に頭を下げる。


「よろしくお願いします! ちなみに、棟梁が了解して下さらないなら、私はこの仕事を辞めるかもしれません」

「いや、それは困る! 見附さんのことは、凄く大事な戦力として考えているんだから……」

「戦力以外にも大事な存在として扱って欲しいんですけど」

「……分かった」

「ということは、パーティーを開いてくれるんですね?」

「作戦が成功したら開く。それでいいかな?」

「やった!」


 麗奈は両手の拳を握りしめた。麻衣は笑いながらポニーテールの肩を叩く。


「見附、良かったな。これから面子を選ぶから集合をかけろ。ただし、今日の警備担当者は除外しろ」

「はい! 行ってきます!」


 少女はポニーテールを揺らしながら階段を駆け下りた。トレーニングルームにいた女性陣も、緊張した面持ちで赤毛の女性の様子を伺っている。


「次は武器か。大塚のゲートに用意してある備蓄じゃ足りないな。特に弾丸はここから持ち出さないと」

「そういえば、一回の戦闘でどれぐらい弾薬を使うものなんですか?」

「ケースバイケースだけど、五〇発ぐらいが限界かな? 一〇発入りの弾倉が二つ入る運搬箱二つに、最初から銃本体に装着した弾倉の一〇発分の合計だね。それ以上は弾丸の重さより大きさのせいで、単独で運搬するのが難しい」

「ああ、かさばりそうですね」

「そういうことだよ。じゃあ、美作のところに行って、事前の輸送を頼んでおこうか」

「はい」


 志光が頷くと、麻衣は床に置いたバンテージとグローブを拾い、所定の位置に戻してからミニスカートを履いた。赤毛の女性が着替えを済ませると、少年は彼女と一緒に美作純の部屋へ足を向けた。

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