貴方にこの命を
柴犬&モナカ
第1話 始まりの日は突然に!
今思えばあの日から私の運命がガラリと変わったんだ。
こんな時なのに私は茫然と思う。
貴方との毎日は夢のように “幸せ”だった。
○ ○ ○
私はいじめられっこになった。
もともと、海老原 麻綾とは仲が悪かったし、目をつけられていたが彼のことと
あの出来事が重なっていじめられるようになった。
その彼とは 一之瀬 蓮のことだ。
彼はいつも目立っていたが、口が悪いのと厳しい目つきは悪い評判を呼ぶことも多々あった。
同じクラスだが話しかける機会など無く、これからも話すことなど無いと確信していた。
だが、あの日は突然にやってきた。
ある日の昼休み
長い長い授業が終わり、チャイムが鳴る。
「「ありがとうございました。」」
生徒たちは起立し、先生に一礼する。
「ありがとうございました。明日までにワークを終わらせてくるように。」
先生はそう言うと生徒たちのブーイングも聞かず、そそくさと帰って行った。
先生が帰ると女子生徒たちはいっせいに立ち上がり、向日葵の方へ駆け寄る。
「向日葵ちゃん!あんな難しい問題が解けるなんてさすがね。
教えてくれない?」
「向日葵ちゃん、今度一緒に遊びに行きましょうよ。」
「え~うちが向日葵ちゃんと行く!」
彼女たちの容赦ない質問攻めは、まるで熱愛報道があった芸能人を質問攻めにしているパパラッチの様だ。
向日葵がそう考えていると、人がどんどん分かれていく。
その理由は考えなくても分かった。
海老原 麻綾だ。
麻綾は向日葵の机へと歩み寄ると一言「ごきげんよう」と言った。
他の女子たちの目線はすべて麻綾に集まる。
麻綾は、大富豪の一人娘でのびのびと育てられ、叱られたこともないためか
人を見下す傾向にある。
一言でいうと厄介なやつだ。
向日葵は深い深呼吸をし、気持ちを整えてから「こんにちは」と言った。
二人の間に緊張が走る。
「貴方、さっきの問題が解けて図に乗っているみたいですけど、私が手を挙げた時は私に譲って下さらない?」
この麻綾の言葉に皆凍りつく。
さっきまで自分たちがほめていたことだったからだ。
「そ、そうだよね。麻綾さんが手を上げたらふつう譲るものよね」
数人の女子たちが麻綾に味方する。
味方しないと後でどうなるかわからないからだ。
麻綾は続ける。
「それに、私が話しているときに少しでも相槌を打とうとは思いませんの?
この私があなたに話をして差し上げているのだから。
どんな教育を受けていらっしゃるのかしら。わたくしは…」
こんなことはいつもなので向日葵はため息をつき立ち去ろうとした。
いつもなら、私が身を引くことで麻綾が満足し高笑いが後ろから聞こえるはずだが、
今日は何かが違う気がして、血の気が引いた。
「苺谷さん。」
麻綾が今まで聞いたことのないほどの優しい声で私に語りかける。
(!)
「あなたって、動物とおしゃべりできるんですってね。
もともと頭が少しダメな方だとは思っていましたけれど、とうとう幻聴まで起こり始めたんですわね?」
夢だと思った、たちの悪い悪夢だと思いたかった。
なんで、なんで知っているの?
からだが固まり、声も出ない。怖い。
次の瞬間、声が出なかったのがウソのように私はこう叫んでいた。
「「やめて」」
やってしまったと思い、後ろを見た時にはもう遅かった。
女子たちの目は恐怖に変わり、宙に浮きもがいている物を見ていた。
「助け て」
か細く聞こえたその声の持ち主は紛れもない、麻綾だった。
ツタで体を締め付けられ、顔は青白くなっている。
「「離して!!」」
私が言うとツタは麻綾をゆっくりと離した。
ツタは麻綾を寝かせると、私の方に手を(ツタを)伸ばし私の頭を触った。
大丈夫。そう私に語りかけたツタは、麻綾に近づき頭をなでた。
すると、麻綾は目覚めた。
起きた麻綾が最初に言った言葉は、震えていたが殺気立っていた。
「許さない。あんたのことは一生許さないわ向日葵!!
覚えてなさい。いつか いつか必ずあなたを絶望に落として差し上げるわ。」
そういうと麻綾は教室から出て行った。
他の女子たちも、おびえながら全員出て行ってしまい、私はもうおしまいだと思った。
だが、一人残っていることに気が付いた。
それも、近づいてくる。
私は頭を下げ、机を見る。
怖いのだ、何を言われるか。
「来ないで」小さくつぶやいた言葉はあいてに聞こえなかったのだろうか。
どんどん近づいてくる。
もう声を出す気力もなくなり、何を言われるかドキドキしていると
意外な言葉が聞こえてきた。
「見直した。」
ゆっくり頭を上げるとそこには 蓮がいた。
「え?」意味が解らない。
「見直したって言ってんだよ。まさかこの年で耳わりーのか?」
(そういうことじゃないんだけど…)さっきの嬉しかった気持ちは少し薄らいだが、
話しかけてくれることはうれしい。
友達にならなくても。
「聞こえてたけど、何であなたが見直したっていうのってこと。」
少し間が開いて、蓮は頭をポリポリと掻いた。
人と接するのが苦手なのか?
「なんでっていわれても、ひ弱そうなお前があの麻綾に一泡吹かせれたってことだよ。
あいつ見かけ以上にひねくれてるから俺、あいつ嫌いなんだよ。
でも、何言ってもべたべたくっついてくるからだれかあいつに一発言ってくれねーかなって思ってた。まぁ、少しすっきりしたわ サンキュ。」
思いがけない言葉に唖然とした。
麻綾は私たちに自慢そうに蓮と付き合っていると言っていたからだ。
「麻綾と付き合ってるって聞いていたけど?」
正直、私は麻綾と蓮は付き合っている物だと思った。
そして、蓮も麻綾みたいに馬鹿な人だと。
「んなわけねーだろ!!だれがあんな腹黒猫かぶり女と付き合うかよ!!」
急に大声を出した蓮に一瞬たじろいだが、それとともに笑みが込み上げてきた。
私の思ってることをすべて言ってくれたんだから。
私が微笑むと蓮は「何で笑ってんだよ」と不服そうに尋ねた。
「だって、私の思ってたこと全部言ってくれたんだもの。」
そういうと蓮はふーんと私を見つめ、「あっそ」と一言言った。
「「キーンコーンカーンコーン」」
盛大に鳴り響く鐘の音。
気づけばもう昼休みも終わる時間。
ぞろぞろと何も知らぬ男子たちが帰ってくる。
男子たちが全員教室に入るとあの忌々しい麻綾が女子たちを従えて帰ってきた。
その目は私に向けられていて、かすかに微笑んだ気がして私はこぶしを握りしめた。
私の頭の中ではさっきの麻綾の言葉がぐるぐるとまわっている。
だが、何事もなく残りの授業が終わり安心しかけていた。
今はもう帰りの会、日直が司会をしている。
「今日も一日良くできていました。明日も一年生のお手本となり、また三年生を支えながら活動していきましょう。
次はみんなからの連絡です。ある人は挙手をお願いします。」
3,4人が手を挙げ、あした持ってくる物をみんなに伝える。
「もういませんか?」
日直の言葉に皆首を振り、次に行こうとした時だった。
「はぁい ありましてよ。明日の日程なんて馬鹿げたことではなくて、皆さんの命に関わることでぇす。」
麻綾だ。いつもの何倍も甘えて声をだし、みんなを見る。
「はい。海老原さん。」
日直が指す。言われることはもうわかっている。
私は覚悟をきめ堂々としていることに決めた。
「ありがとうございまぁす。日直さん。
まず最初に、苺谷さんは殺人鬼でぇす。」
クラスがざわめく。
殺人鬼?私が?麻綾をツタで絞めてしまったことはいけないことだけど、殺しはしないし、そんなことして人生を棒に振りたくもない。
「どういうことですか?海老原さん」
日直が聞く。
「今日、私は苺谷さんに殺されかけましたのよ。
うそだとおっしゃるのならばこちらにも手はありますわ?
私が殺されかけたのを、多数の方々が見ておられたの。
そうよね皆さん。」
現場にいた人たちが一斉に立つ。
まるで裁判だ。
「そ それはどのような経緯で行われたのですか?」
さすがに日直も、こんなに目撃者がいると見過ごせないようだ。
「えぇ、お話しいたしますわ。
それは、今日の昼休みのことでした。
私は授業が終わってから、女子の皆さんが苺谷さんに駆け寄って行って何かお話していることに気が付き、そのお仲間に入ろうと思ったのです。
それで、近づいて行ってお仲間に入れていただいても良いか聞いたのです。
そしたら、苺谷さんはいやだと言い、私がなぜかと尋ねると
どこからかツルが伸びてきて私をしばりつけたのです。
本当に殺されるかと思いました。」
麻綾は早口で休みもせずに言葉を言ったので、2、3度咳き込んだ。
「でも、その証拠がないし、なぜ苺谷さんがそんなことをする必要があったのでしょうか。それに、莓谷さんが必ずしもやったとは思えませんし…」
日直は冷静に麻綾に問う。
そのとおりだ、今の状況だといくら目撃者がいたとしても証拠がなければ意味はない。
「この際仕方がないですわね。美香、あれを。」
麻綾はまるで、召使を呼ぶように2回手をたたき、クラスメイトで麻綾の後ろに付いて回っている、大黒 美香を呼び何かを持ってこさせた。
ス、スマホ?学校にスマホは持ってきてはいけないことになっているけどそれをわざわざ持ってきて見せるなんて。まさか…
「スマホ?海老原さん。学校にスマホを持ってきてはならないと何度も言っているではないですか!」
そんな日直の叫びには目もくれず麻綾はスマホを操作する。
その顔には気味の悪い笑みがこぼれていた。
「これを見てくださいまし?」
私の嫌な予感は的中した。
スマホには必ずカメラ機能と言うものが備わっている。
と言うことは…
「助け て」
とても短い映像だが、決定的な部分がおさめられている。
さっきの光景が頭の中でぐるぐる回っている。
たぶん、麻綾は自分が悲劇のヒロインだと思わせるため自分に有害な場所は
編集したのだろう。
これでみんなにとって私はヴィランになったのだ。
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