第23話 王都にて 5
「それでバルダッシュの戦いで我々に助力し、この度はシス・ペイロスまで一緒に来るというのか?」
「その通りです。奴らを皆殺しにするなど私一人ではできないことかと思っております。公爵様の手勢と協力すればなんとかなるかと」
タギの言い分をセシエ公がどれほど信用しているのか、その表情からはうかがえなかった。
「お前がレーザー銃を持っているのなら、大きな力になるだろう。その点では有難いことではあるな。なにしろ今大急ぎで、飛んでいるものを鉄砲で撃つ訓練をしているがなかなか当たらん。射程もせいぜい百ヴィドゥーだ。お前のレーザー銃だとどれくらいの射程になるのだ?」
「動かぬ的に確実に当てられるのは五百ほどかと」
セシエ公はふーっと息を吐いた。
「勝負にならぬな。アラクノイが持つレーザー銃も同じくらいの射程を持つのか?」
「はい。有効射程は同じくらいですが奴らは決して上手な射手ではありません。狙われても三百以上の距離では警戒する必要はありません。ただ大量に撃ってきて狙いの粗雑さを補っています」
「それでもまともに撃ち合えば、射程外から撃たれ放題というわけだ。鉄砲の射程内に入るまではお前が頼りということか」
「いえ、なんとか公爵様の鉄砲隊が役立つ状況を作っていただきたいと存じます。私の持つレーザー銃の弾も多くはございませんので」
「ほう、やはり弾が必要なのか?レーザー銃にも」
「はい、普通の鉄砲と同じく、弾がなくなればただの鈍器にすぎません」
「覚えておこう。なんといってもお前のレーザー銃が我々の攻撃の切り札だからな。使いどころを間違わないようにしなければならぬか」
よろしくお願いしますというようにタギが頭を下げた。
「ウルバヌスがお前の腕を褒めていた。どの程度の腕なのか知りたいところだが、残弾が少ないのでは、勿体ないことはさせられないな」
「はい、できればそのようにさせていただければと。私も公爵様の前でむき出しの武器を手に持ちたくはございませんので」
離れているとは言っても、護衛の三人は中庭の中にいて、油断なくタギを見つめていた。もし不審な動きをすれば容赦なく攻撃してくるだろう。尤も、そんな護衛などタギがその気になれば役に立たない、自分だったらかろうじて間に合うかもしれないがというのがウルバヌスの考えだった。その場合でもせいぜい盾になって時間を稼ぐくらいだろう。レーザー銃がなくてもタギはおそらくこの世界でも指折りの危険物だった。セシエ公はずいぶん危ない橋を渡っている。
「ふん、殊勝なことを言う。まあ良い。当てにさせてもらうぞ」
「ご期待に沿えるようにと願っております」
「今日はご苦労だった。来春までは自由にしていてよい。ウルバヌスに連絡を取らせるから、居場所だけははっきりさせておけ」
タギはもう一度、正式の礼をした。
「レリアンに懇意にしている宿がございます。冬の間はそこにいるつもりでございます」
マルシアにランが家事全般を教えてもらっているところだった。だからランもレリアンに戻りたがるだろう。
「レリアンか」
まだセシエ公の支配下にはいってない街だった。しかしそれほど待つこともなく、また戦うこともなく自分に屈するだろう、とセシエ公はみていた。
タギはセシエ公の前を退出した。門を出る前に執事のテカムセに呼び止められて、支度金だと金袋を渡された。ずっしりと重いその袋の中には金貨が二百枚入っていた。
タギが帰った後、セシエ公はテカムセを呼んだ。
「どう思う?」
タギのことだった。
「危険な男のように見えました」
「そんなことは分かっている。レーザー銃がなくてもかなりのことができるだろう。待機させていた伏兵にも気づいていたようだしな」
「しかもわざわざ公爵様に気づいているぞと報せておりましたな」
セシエ公が苦笑した。
「あのわざとらしい視線か」
「はい」
「問題はどこまで信用できるか、だな」
「少なくともアラクノイと戦っている間は味方でしょう」
テカムセはタギがアラクノイを排除するといった時の殺気を思い出していた。あれでも抑えていたのだろうが、漏れ出てくるものだけでも背筋が冷えた。あれを顔色も変えずに受け流していたセシエ公の胆力の方が例外なのだ。
「私もそう思う。アラクノイがいなくなっても敵に回るとは限らない、むしろ配下に加えたい。その辺りはうまく立ち回ればいいだろう。どうしようもなければマギオの民をぶつければよい」
「そんなことにならないことを祈りますな。マギオの民がやせ細るでしょう」
「そうなっても構わぬがな。王国の再統一ができればマギオの民など、ウルバヌスのような腕利きが一定数いればよい」
「御意」
「マギオの民と言えば、ガレアヌスの代わりに指揮を執る、ファルキウスと言ったか、いつ顔を見せに来るのだ?」
「ウルバヌスの話では数日中に王都に到着するとのことです」
「そうか、ガレアヌスの息子ということだが、どの程度の男なのかな」
「会ってみなければ分からないことでございます」
「まあ、そうだ。王都に来たら教えろ。適当なところで会おう」
「御意」
言うだけのことを言うとセシエ公は再び書類に目を通し始めた。
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