月が綺麗ですね。-Another Story-

星成和貴

月が綺麗ですね。

 バイトの後輩の内田さん。

 大人しくて、仕事も全然できなくて、正直不安で仕方がなかった。

 だから、俺はずっと内田さんの事を目で追っていた。

 その内に気付いたことがある。内田さんは不馴れでも、自分には難しいことでも嫌な顔一つせず、一所懸命頑張っていた。

 だから俺は気付けば違う意味で内田さんを目で追うようになっていた。


 そう、俺は内田さんの事を好きになっていた。


 だから、ずっと一緒にいたくて、内田さんと一緒のシフトの時には適当な理由をでっち上げて一緒に帰り始めた。

 最初は不審がられるかな、なんて思っていたけれど、あっさりとOKしてくれた。

 そして、これが俺たちの習慣になった。いや、俺だけがそう思っているのかもしれないけれど。



「俺も散歩したかったし、ついでだから」

 そんな適当な理由で先に帰ろうとした内田さんと今日も一緒に帰ることになった。

 手を伸ばせば触れられる、けれど決して触れられない距離。それが俺たちのいつもの距離。


 もっと、近くにいたい。


 もっと、一緒にいたい。


 この想いを伝えたい。


 そういつも思うのに、断られるのが、拒絶されるのが怖くて最初の一歩が踏み出せなくなっている。

 内田さんの事を想えば想うほど、その一歩が難しくなる。

 そんなことを考えていたら、「あ……」と、内田さんが不意に声を上げた。

「内田さん、どうかした?」

 内田さんの方を向いて聞くと、微かに震え、それでも、強い意思を持った目で俺を見ていた。


「月が、綺麗ですね」


 その言葉に俺はかつて、I love youをそう訳した人がいる、そんな話を思い出してしまった。

 もしかして、内田さんも同じ気持ちでいてくれた?そんな淡い期待と、もし違っていたら?という不安が同時に込み上げてきた。

 だから、俺は、内田さんの手を優しく握り、


「俺もそう思ってたよ」


 俺の想いを込めて、それでもどっちとも取れる返事をした。

 俺は恥ずかしくて内田さんの方を見られなくて、空を、満月から少し欠けた、それでも綺麗な月を見上げた。

 握った手から体温がどんどん高くなってきている気がする。

 内田さんも俺の手を握り返してくれているのが分かる。

 きっと、今、俺たちは同じ景色を見ている。綺麗な月を――。


 今日見た景色を俺は決して忘れない、そう思った。

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