第百八回 諸葛宣于は四雄の兵に説く
晋帝の
さらに、漢兵の帰路と糧道を断ってその巣穴を覆すため、夷族の主帥とも語らってこの戦に加わらせようとしたのであった。
漢の
慕容氏は
▼「有熊氏」は
一日、
漢主の使者として諸葛宣于が
※
慕容隗は衆人に命じて謀士を揃え、諸葛宣于を迎えて
「漢の
「そうではありません。ただ非常の利益があってそれを
「それは何のことであろうか」
「先に司馬冏が檄文を発して使君を幕下に収め、軍勢を発して
「事実である」
「晋朝の不道は誰もが知るところ、司馬氏は内にあって血族が殺し合い、母を
▼「足下」は相手を呼ぶ呼称であるが同等または格下の相手に使われ、官職を尊重する「使君」と比して軽い。ここで諸葛宣于は意図的に慕容隗を見下げて挑発している。
「そうではない。吾が父子は晋に仕えて封爵を受けている。詔を奉じて出兵せねば、宿世の徳に背いて大国の信を失うというものである。それでは叛臣と選ぶところがあるまい」
「今や中原は乱れて英雄はその志を伸べようとしております。ただ遼東だけが安寧にあるのです。兵法に『国を建てるを上とし、国を保つのはこれに次ぐ』と申します。今や足下の軍勢は晋朝に畏れられながら、時勢に乗じて
慕容隗は諸葛宣于の言に理があると考え、賓館に引き取らせて酒肴を薦めた。
※
その間に衆人を集め諮って言う。
「諸葛の言を聞くに、理にあたるところが多い。お前たちはどう考えるか」
「諸葛の言は時勢に適っております。今や中原は大乱に及んでおり、まさに境界を固めて民を安んじ、軍勢を養って鋭気を蓄え、後事を計るべき時です。遠路に軍勢を出して
「兵法では攻めるべき時と守るべき時を区別し、その時になすべきことをなして変化が起こればそれに応じるのを上策とします。晋朝のために軍勢を出したところで、必ず勝てるとは限りません。その間に奸雄が隙を突いて吾が境界を侵せば、吾ら自身が危うくなりましょう。禍がこれより起こることも考えられます。ゆえに、晋朝には『即日に軍勢を発する』と詐って答え、ただ延期して日を送れば面目も立ち、吾らも安んじておれましょう」
その他の謀士、
「遥か遠くに虚しい忠節を尽くして近くの大義を失っては本末転倒、さらに隣国の劉淵と怨恨を結べば後々の患いともなりましょう」
慕容隗は聞いて意を決し、諸葛宣于を召し出して言った。
「謹んで教えに従い、敢えて晋朝のために軍勢を動かすまい」
諸葛宣于は
それより西に向かって
諸葛宣于は拓跋猗盧にも利害を分明に説いたため、拓跋部も出兵を取り止めて封境を守ることに決した。それより南に下って
それより諸葛宣于が平陽に戻って報告をおこなうと、漢主劉淵と陳元達は嘆息して言う。
「
二人は宴席を設けて慰労したことであった。
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