空の風、海の波。(ソラのカゼ,ウミのナミ。)
琥珀 燦(こはく あき)
『天の風、海の波。(ソラのカゼ,ウミのナミ。)』
ソラが、まだ、一日中夜のように真っ暗だった、昔々のお話。
ソラは、ひとりぼっちでした。
生まれたときから、ひとりぼっちでした。
気がつくと、彼は、そこにいたのです。
誰も、彼を守る者はいませんでした。
だけど、彼は、すべてを見守っていました。
静かに、静かに、世界を見守っていました。
世界中のすべてが、彼の存在を当たり前のように思っていたけれど…彼は、世界のすべてを愛していました。
だけどある日、ソラは、自分がとてもさびしがっていることに気付いてしまったのです。きっかけがあったわけではないけれど、さびしいな、と感じてしまったのです。そして、このさびしさが、きっと永遠に続くのだと思うと・・・
ぽろ、ぽろ、ぽろ・・・
涙が突然溢れてきました。
ソラは、さびしさに涙を流すのは初めてだったので、びっくりして、余計にさびしくなって・・・涙が止まらなくなってしまいました。
ソラは、長い長い間、泣き続けました。自分のさびしさの深さが悲しくて、もっともっと悲しくなっていくのでした。
あるとき、ソラの耳に美しい歌声が届きました。ソラはそぅっと耳を澄ませました。その時、何百年もの間、泣いてばかりだった、ソラの涙は、やっと止まったのです。
サラサラサラサラ・・・サラサラサラサラ・・・
耳元にささやきかけるような、少しくすぐったい、優しい歌です。ソラはじっとその歌に聴き惚れてしまいました。歌はソラのブルーブラックの心に広がり、すっかりさびしさを追い出してしまいました。
ソラは歌声のほうへ目をこらしました。
そこには、大きな大きなウミがありました。ウミはソラによく似た、深い深い青色をしていました。その表面は柔らかく動いて“ナミ”を作り、あの美しい歌を生み出すのです。
ソラはウミが大好きになりました。ウミと友達になりたくて、ウミの歌をおっかなびっくり真似てみました。始めは、音を立てることさえ難しかったのですが、少しずつヒュウヒュウと、たどたどしい音が出るようになりました。
音が出るようになれば、歌の上達はとても早い早い。ソラは歌うことの楽しさを知り、ウミの歌に併せて少しハーモニーを付けてみたり、メロディを変えてみたり、ついには、ソロで、自分が作ったメロディを歌うようにさえ、なりました。
そうやって、世界に“カゼ”が生まれたのです。
ソラとウミのハーモニーは、とてもとても美しくて、ソラでさえ時に感動を抑えきれなくなるのです。
大好きなウミをいっしょに歌えることが、こんなにも幸せなことだなんて!
あるとき、ソラは、感動の溜め息をひとつ、ついてしまいました。その拍子に、真っ赤な大きな星がひとつ、転がり落ちて、美しいブローチになりました。
ソラは、そのブローチを感謝と友情を込めて、ウミにプレゼントしました。
ウミは美しいプレゼントをとても喜んで、胸元にそっと止めました。そして、そのブローチに“ヒトデ”と名づけました。
ウミは、プレゼントのお礼に、ナミに漂うクラゲの、一番透き通っていて、一番白く輝いているものを、ソラに捧げました。ソラはたいそう感激して、自分の黒髪に、そのクラゲを飾りました。そして、その光り輝く美しいプレゼントに“ツキ”と名づけました。
ふたりは、とても幸せでした。もう、さびしくなんかありません。
ふたりの心が通じ合ったとき、心の中に、まあるい、真っ赤な火が灯りました。
ふたりはそれを“タイヨウ”と名づけました。
タイヨウは、ふたりの幸せのしるしのように、今も明るく世界中を照らしているのです。
そうやって、世界は幸せで満ち満ちているのです。
空の風、海の波。(ソラのカゼ,ウミのナミ。) 琥珀 燦(こはく あき) @kohaku3753
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