三角食べ

世界三大〇〇

第1話 パン、牛乳、おかずー

 サラリーマンにもなって、俺はそんなことを思い出した。



 パン、牛乳、おかず、パン、牛乳、おかずー


 しっかり守って食べれば、幸せになれるらしい。



 パン、牛乳、おかず、パン、牛乳、おかずー


 俺は、実に20年振りに三角食べをした。



「最後は、プリンだったよな」





 その日の午後イチ、やはりいいことなんてなかった。会議中には、座っていた椅子が壊れ、転んだ。視界には天井のLEDが飛び込んできた。ああ、つくづく運がないらしい。今日の会議、隣の席は社内一の美女の紀子ちゃんなのに。


「大丈夫ですか」


 紀子ちゃんが、仰向けに倒れている俺を起こそうとしてしゃがみこんだ。気遣ってくれたのなら嬉しいが、どうなんだろう。ただのぶりっ子にも思えてしまう。


「あぁ、大丈夫」


 ふと横を見ると、紀子ちゃんの短いスカートの中に、白い布切れがあるのが分かった。俺は、思わず口にしてしまった。


「白、なんだ」



 紀子ちゃんには色々と噂がある。柄物のお高いパンツを履いている日には直ぐに脱ぐが、白の安いパンツの日には決して脱がないというのが俺が知る最も信憑性の高い噂だ。俺が知っているぐらいだから、そんな噂が立っていることは紀子ちゃんの耳にも入っていて、かなり気にしているらしい。だが紀子ちゃんのそんな心境を知ったのは、後のことである。



「頭を打ってるんだ。とにかく安静にさせろ」


 心配性の社長もたまにはいいことを言う。というか、絶妙のタイミングで言ってくれた。ちゃんと俺の言葉をかき消した。おかげで白のことは誰にも聞こえなかったようだ。俺は担架で運ばれ、会議室から負傷退場した。1時間ぐらい寝てしまった。


「大丈夫ですか」


 そう言って見舞いに来てくれたのは、紀子ちゃんだった。紀子ちゃんは会議が終わると直ぐに駆けつけてくれたのだ。


「あぁ、大丈夫」


 会議室の椅子を用意したのは紀子ちゃんで、それが壊れたことで俺が転倒したことを気にしていたらしい。あれはぶりっ子ではなく、責任感に近い行動だったのか。



「もし本当に大丈夫なら、今日の夜ご飯、ご一緒してくれませんか」


 初めて聞いたっセリフだった。俺の人生では最上級のデートの誘いだ。


 残業もせず、駅までダッシュした。紀子ちゃんは美味しいパスタが食べたいと言って、俺の腕にしがみついて来た。その時になって、俺は初めて知った。紀子ちゃんは着痩せするタイプだ。胸にはたっぷりと脂肪がついている。


 店に着いた。パスタと、少々のワインは、俺と紀子ちゃんを幸せにしてくれた。白の噂を気にしていることをこの時に知った。



「あの、さっき、白って言ってませんでした?」


 俺は確かに言った。聞かれていたのかと思うと、恥ずかしくなった。俺は謝りながら正直に話した。白が大好きなことも話した。その甲斐あってか、紀子ちゃんは、正直に話してくれたから許すと言ってくれた。



「そういえば私、ちゃんとイッタことがないんです」


 紀子ちゃんが何を言っているのか、理解するのに数秒を要した。理解して仕舞えば簡単なことだった。紀子ちゃんは、白くても脱ぐのだ。気にしていたのはそのことだった。俺は、高価そうなホテルに紀子ちゃんを連れ込んだ。



 紀子ちゃんの白いパンツを脱がせ、紀子ちゃんの巨乳を堪能し、・・・。偶然だろう。俺にそんなテクニックがある訳ではない。だが、紀子ちゃんはちゃんとイッタ。相性というものなのだろう。



 パン、牛乳、おかず、パン、牛乳、おかずー


 この言葉は、子供には何のご利益もない。だが、大人にはあるのかもしれない。



 パン、牛乳、おかず、パン、牛乳、おかずー


 一戦終える度に、ちゃんと白いパンツを履かせ、順番を守った。



 パン、牛乳、おかず、パン、牛乳、おかずー


 パンツを脱がせ、巨乳を堪能し、オーガズムに達せさせる。



 パン、牛乳、おかず、パン、牛乳、おかずー


 守らなくてはいけない。



 パン、牛乳、おかず、パン、牛乳、おかずー


 2人で何度絶頂を味わっただろう。






「もうこれでおしまいよ」


 紀子ちゃんはそう言って、自らパンツを履いた。



 パン、牛乳、おかずー


 俺には、妻も子もいる。そんなことを思い出したのは、最後の最後だった。


 立派な不倫である。

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