惑惑うらない探偵「ミス・テリー」

やましん(テンパー)

第1話   「復讐はわくわくで」

 最近、ダ・ジャレー事務所には、お客さんがさっぱり来なかった。

 しかし、事務所の外の通路は、待合の人でいっぱいだったのである。

 その原因は、いつのまにか隣の事務所に引っ越してきていた、「ミス・テリー」の事務所に間違いなかった。

 そこで、ある日ダジャレーは、まず朝からノットソンを並ばせて順番を取った。

 夕方5時前になって、ようやく順番が回ってきたので、ノットソンの姿は消して、自分が代わりに入り込んだ。

 その間には、最近興味がある「ヴォイニッチ手稿」に関する長い論文を、全部読み終えてしまった。

「どうぞ、お待たせいたしました。」

 なんとも美しい、女性の秘書らしき人物が招き入れてくれた。

 デスクに座った「ミス・テリー」は、銀縁の眼鏡をはずしながら、ダ・ジャレーをしげしげと眺めた。

「まあ、これは、お隣の先生ではありませんか?」

「ふむ、よくお分かりですな。」

「それはもう、見えておりますもの。」

 彼女の机の上には、「まあるい大きな」玉が置いてあった。

「これで、占うのですかな?」

「はい。そうです。『占い探偵』ですもの。で、ご用件は?ああ、失礼しました、名刺をどうぞ。」

『占い型探偵「アブルガイウムイスズガヒトカミフジツキマラウミタイラヤギウナハラ・・・・』

「何だこりゃあ。目がかすむなあ・・・」

 その下側に『ミス・テリー』とあるが、上側の文字はどこまで行ってもキリがないのだが・・・。

「これは不思議だ! ああ、いや、実は、最近お客さんがまったく来なくて。それで、どうしたらよいか、あなたに見ていただこうと思いましてね。」

「まあ、ほほほ。いえいえ失礼。ダ・ジャレー先生ほどの方が。もちろん結構でございますわ。私は、お客様は選びませんの。」

「それは結構なご趣味ですな。」

「はい。そうですね。まず、ちょっとお顔を失礼。ふむふむ。で、最近、体調はいかがですか?」

「いやあ、それがですなあ、もともと幽霊のせいか、だるくて、うっとおしくて、人様が恨めしくて・・・もうたまらんのです。ここには、近くに人もいなかったし、誰も来ないし。でも、あなたのおかげで、たくさんの人が来るようになったので、呪いもかけやすいかなあ、とは思っておりまして・・・」

「まあまあ、それは大変ですわ。ふむふむ。あなた、ストレスたまってませんか?」

「は?」

「人に言えないような、ストレスです。仕事上、秘密も多いでしょう?」

「それはまあ・・・」

「あの、私こういう仕事も致しておりまして。」


 『銀河宇宙地球滞在型ストレス症候群カウンセラー』

 〈地球唯一の資格保持者です。ご相談承ります。〉 

    「アブルガイウムイスズガ・・・・・・・」

             ・・・『ミス・テリー』


「なんですかな、これは?聞いたこともないなあ。」

「はい、あなたが地球に来た頃は、多分なかった名称ですわ。ここ最近認識されだしたものです。まあ、平たく言いますと、地球に滞在している宇宙人が多くかかっていると考えれている病気ですの。これ資格者証ですわ。」

「はあ・・・確かに。」

「多くの宇宙人にとっては、戦争などは大昔の遺物ですし、ましてや、病気と言うものも、長くなかったのです。しかし、地球に赴任してきた宇宙人を中心にして、争いごとだらけの地球環境にうまく適応できずに、かかってしまう、恐ろしい病気なのです。倦怠感、疲労感、不成功感、そうして他人に対する理由のない不安、恐怖、さらに嫌悪感や被害妄想が多く発症し、やがては、最悪、精神錯乱状態にまで陥ります。」

「それは、怖いな・・・」

「はい、あなたは、その前期症状によく似ています。危険ですわ。」

「ぼくは宇宙幽霊ですよ。」

「幽霊さんの罹患率も高いと言われておりますのよ。超能力なんかを持っている場合が多いので、なおさら危険性が高いとして、最近注目されております。これが証拠。『宇宙医療学会会報』の最新号です。差し上げますから、どうぞお読みくださいな。」

「はあ・・・・・」

「で、対策ですが、まずよろしければ、しばらく週に一回、ここにカウンセリングにおいでください。私は正規の資格を持っている唯一の地球在住者です。二か月間やってみて、効果が出なかったら、プロキシマケンタウリbの専門家をご紹介しますわ。ちょっとお高いですけれど。ですから、出来る限り、ここで処置しましょうね。それからよろしければ、私が、あなたに合いそうなお客様を回してさしあげますわ。あなたは、妖怪とか魔女さん方面に、大変お強いとか。」

「いや、まあ、そうですが・・・」

「でしょう。ですから、そこに適合する方をご紹介いたしますわ、まあ、多少紹介料は頂きますが、お仕事はそれで出来るでしょう。いかがかしら?」

「いや、それあ、まあ・・・いいかも・・・じゃあ試しに1~2回頼もうかな。」

「はい。そてでけっこうです。請求書はその都度お回しいたします。ああ、今日のもね。では、今日はこれでおしまい。早く元気になりましょうね。」


 ダ・ジャレーは事務所に帰ってきた。

 ノットソンが勝手に現れて、聞いた。

「どうだった?」

「は、何が?」

「何がって、偵察に行って、ちょっと脅してくるとか言ってたじゃあないか。」

「いや、もういいんだ。消えろよ。」

「あ、そう・・・・」

 ノットソンが消えて行った。

「不思議だ。なんだか、少しやる気が出てきたような気がする。まあ単なる、精神的疲労なんだ。」

 

 ミス・テリーは、それこそ20年前に、ダ・ジャレーの依頼者だった母を持つ。 ただしそのことは、もちろんダ・ジャレーは知らない。

 その母は、夫が浮気しているようだ、と彼に調査を依頼してきたのだ。

 まあ、勿論、二人とも地球人ではない。

 仕事で地球に来ていた、生粋の宇宙人である。

 もっとも、夫の浮気の相手は、地球人だったらしいが。

 ダ・ジャレーは、その現場を確認した。

 そこで止めておけばいいものを、ダ・ジャレーは、母に同情していたので、夫を脅迫した。夫は地球人の女性を連れて、宇宙に逃げた。

 母は、「タイヘン・バッハ」の崖で、飛び降り自殺してしまった。

 

 彼女は、宇宙拳法の達人に弟子入りし、その援助で様々な教育を受けながら、両親の事件を調べ上げた。

 ようやく浮かび上がったのが、ダ・ジャレーであった。

 彼女が、ダ・ジャレーを怨まないほうが不思議と言うものだ。


 そう、彼女の復讐は、今、まさに始まったばかりなのだ。

 ちなみに、彼女には、他の名刺もある。


   『宇宙幽霊退治士』

  〈地球唯一の資格保持者です。二か月で宇宙幽霊を退治! 随時承ります!〉

           アブルガイウムイスズガ・・・・・

                ・・・「ミス・テリー」








 





















 

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  惑惑うらない探偵「ミス・テリー」 やましん(テンパー) @yamashin-2

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