メアリーズ・ヒーロー 〜正義を名乗る偽善者たち〜

馬ナマコ

プロローグ


「…」


 周りには大きな木々が俺を囲い、あたり一面には雑草が生い茂る。なぜ俺はここにいるのだろう、そもそもここはどこなんだ…今思ってもあまり理解はできなかった、なぜなら唐突な出来事だったからだ。



「昨日の番組面白かったよな!〇〇でさ〜」


「そうだな!最高だったな!」


 俺の名前は五条定ごじょう さだめ。ごく普通の高校生だった。こんな他愛もない話を繰り返し友人と共に帰宅していた時だ何気ない会話、いつもの風景、見慣れた景色、全てが全ていつも通りの日々。


「おっ!レアキャラ手に入れた!」


 その日の放課後、たまたま帰りの途中に公園のベンチに座りながら、俺は友人の前でソーシャルゲームのガチャをしてなかなか出ないキャラクターを引き当てた。それ自体はなんともないがそれを見た友人は欲しいキャラだったらしく


「あー!それ俺に見せろよ!」


 と強引に俺のスマホを無理矢理奪い取り


「くっそー!羨ましいぜ!俺にくれ!」


 と友人は悔しそう呟きながら俺のスマホを見ながら睨みつけた。


「おいおい、そろそろ返してくれよ。」


 俺は笑いながらスマホを取り替えそうと手を伸ばした。


 その時だ。


 いきなり目の前が真っ暗になり、意識が遠のいていき。そして気がついたらここにいた。


意味がわからないと思うがそう言わなければ答えようがない


 急な出来事に頭は混乱してるし、心臓も未知の恐怖にばくばくとしている。確かに言えることは死んだとかそう言った類ではないということだ。


そして今ここに至ったわけだ。


少し落ち着き、散乱するバッグや生い茂った草木、辺りを見渡してからなんとなく思ったことがある。

それは…


よくある異世界モノの展開だ。


 なぜそう思ったのか、特にこの世界を理解したわけではないが、なんとなくそんな気がした。


 友人から一度そんな感じの本を借りて読んだことがある。


 主人公がいきなりトラックにはねられ、神様にチート能力を授かって美少女に囲まれるという、いわゆるチーレムと呼ばれるやつだ。しかしそういったからには俺にもやばい能力があるはずだとなんとなく思った。神様らしき人物には出会ってないがそんな気がした。そう思い、右手を伸ばし『なんか能力がでろ』と念じ、「」と呟いた。

 すると…



 そよ風が吹く



 それだけだ、後は何もない。むしろ能力でもなんでもないただのそよ風だ。

そしてこっちを見る顔色真っ青な少女が…、顔色が悪いというよりはもともと青い肌をしたと言った方がいいかもしれない。


 ここで俺は初めて気づき、異世界の民族に何かされる恐怖より。痛いことをしたという後悔と羞恥心があふれ出した。


 その少女の顔色よりも人前でとんでもなく痛いことをしていたという方が強くなっている為、顔が上がらない。


 その少女が意味のわからない言葉(英語?ロシア語?)みたいなことを言ってこちらに向かってくる。俺は…


「は、はろー?」


 と顔を真っ赤にして返した。むしろそれしかできなかった。伝わらないとわかっていても何もしないよりはマシだとおっ持ったからだ。すると少女は俺に向かって右手をかざし、謎の光を右手に宿しながら、こう俺に向かって言った。



 それが、その言葉が、彼女と俺の物語が幕をあけるものであったことはその時の俺には知る余地もなかった。

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