12月のダイアリー 10

11月28日(木)晴


昨日の西田教授のアドバイスどおり、できるだけ冷静に客観的に、みっこと川島君のことを考えているうちに、わたしはふと、去年のみっこの誕生日に、ディスコに行ったときのことを思い出した。

あの夜、偶然みっこの元彼の藍沢直樹氏と出会って、藍沢氏から聞かされた運命論めいた話に思いを巡らせた。

ドレッシングルームの片隅で、華奢きゃしゃな背中を丸めて嗚咽おえつするみっこの姿が、今でも目に焼きついている。


『恋愛にも起承転結があって、いつかは『ターニング・ポイント』を迎える』

なんて藍沢氏は、それが避けようのないことのように語っていた。


『いったんターニングポイントを迎えてしまえば、あとは坂を転げ落ちていくだけで、どんなにあがいても取り戻せないし、取り戻せないから心が執着してしまって、まるで取り憑かれたみたいに、よけいに愚かなことばかりしてしまう』

という藍沢氏の言葉には、ちょっとしたショックや反感もあったけど、あれから1年近くが経った今、わたしと川島君の仲は、彼が予言した起承転結を、辿った気がしないでもない。



わたしたちの『ターニングポイント』って、いつだったんだろう?


夏休みにわたしの目の届かないところで、川島君とみっこがデートしていたディズニーランド?

それとも、わたしがみっこへのコンプレックスを改めて痛感した、川島君とみっこと三人で行った湯布院プチバカンスのとき?


ううん。もっと前かもしれない。


『あたし… 好きな人が、できちゃったみたい』

って、みっこが川島君への恋心にめざめてしまった、モルディブからの帰り道?

それとももっとさかのぼって、みっこと川島君がはじめて出会った、みっこの誕生日?


それがいつだったにしても、そこで『ターニングポイント』だと気づいて、わたしがそれを防ぐように努力していたら、わたしたちはこんなひどい結末を迎えずにすんだのかもしれない。

もし、わたしがもっと早い時期に、みっこから『川島君が好き』だって聞かされて、それを受け入れられていたら、わたしたちはもっと他の道を辿れたかもしれない。



…それは、やっぱりないかな。


みっこが川島君を好きでも、彼女と親友でいられるなんて、それはない。

わたしがみっこの気持ちを受け入れるなんて、それはおそらく、できない。


もしみっこが、はるみやマユみたいに地味で目立たない女の子で、わたしが川島君への片想い中だったら、みっこの想いも受け入れることができたかもしれない。

だけど、抜群の美少女でモデルをしていて、ダンスもピアノもプロ並みに上手な森田美湖に、『川島君のことを好きになった』って打ち明けられたら、わたしはきっと動揺する。

みっこみたいに、とびきり魅力的で素敵な女の子が、自分の彼氏に恋していると知ったら、わたしは嫉妬で狂い、根も葉もない妄想に心をかき乱されて、いてもたってもいられなかったと思う。

わたしはやっぱり、みっこに対してひどいことを言って、ケンカになって、最終的にはみっこに、友情を取るか恋愛を取るか迫ったと思う。

そこでもし、みっこが友情をとってくれて、川島君への想いを断ち切ったとしても、そのあともいつまでも、みっこはまだ川島君を好きなんじゃないかと疑って、事あるごとに疑惑を持ち出し、結局は仲たがいしてしまうだろう。

みっこもそうなることを予感していたから、川島君への想いはひた隠しにしていたし、モデルをしたことも、ディズニーランドや長崎に行ったことも、わたしに知られまいとしていたんだと思う。


結局、みっこが川島君を好きになってしまったのが、ターニングポイント。

終わりのはじまり。


だけど、人を好きになる気持ちなんて、止められない。

わたしたちはやっぱり、最後はこうなる運命だったのかもしれない。


でも、他に道はなかったの?

わたしたちがうまくやっていける方法は、本当になかったの?

運命に負けるのなんて、いや。

運命は、わたしの手に負えないものかもしれないけど、わたしも運命の思い通りになりたくない。

だけど。


今のわたしには、他の道は見えない…


西田教授のおっしゃるように、こうやって自分を顧みていれば、いつかは自分を客観的に見れる日が来るのかな?

それはいつ?

失恋の重さで心が潰れる前に、救われる日が来るの?


つづく

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