京妖奇譚

ひじしま

File01 加賀谷志郎

幼い頃から頭がよかった。

一度見聞きすれば大抵のことは完璧に出来てしまい、分からないという感覚を恋しく思っていた。まだ見ぬ感情にいつか出会いたい、と。

恵まれた家柄に頭脳、運動はさほど得意ではなかったが不出来というわけでもなく、通知表はいつだって5と◎の舞踏会だ。

教師の称賛のワルツに華々しい功績のオーケストラ、招待状なんて要らないけれど。

とにかく、両親は惜しみなく愛情を注いでくれていたし友人関係も良好で、所謂勝ち組のくくりに僕はいた。

人生がイージーモード、正しく順風満帆ライフを送っていたが、心はいつも渇いていた。胸が熱くなる出来事を、奇想天外なことばかり起こる世界を渇望していた。

出来ないことが無いというのは、寂しくつまらないものだった。

いっそ大規模な犯罪組織でも立ち上げて、世界を派手に騒がせてやろうか、なんて馬鹿な考えが頭を擡げ始めたその折、ソイツは現れた。現バディであり僕が唯一理解できなかった男、聖ヶ崎晴屋ひじりがさきはれるやである。

最初の一言はこうだった。

「やあ少年、実につまらなそうな不細工な顔つきですネェ。キミ、笑顔って知っていマス?まずはこのワタシ、聖ヶ崎晴屋の完全に完璧にbeautifulなsmileをご覧に入れまショウ!」

それに対する僕の返答は、

「なんだコイツ」

の一言に尽きる。停止した思考のどこか片隅で、確かに笑顔はうつくしい、と誰かの声がこだました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る