三章 おかえりくださいませ、ご主人様!

3-1

「メイドカフェに行きましょう!」

 少女の顔が息の掛かるくらいの至近距離まで迫って来て、俺の視界を埋め尽くす。

 いきなり何言ってんだ、このおバカ後輩は。

「日本語でおけ」

「召使い喫茶に行くでござる!」

「誰がメイドカフェを日本語にしろっつった!?」

 でも、召使い喫茶ってなんだかいかがわしい響きだな。

 ……って、そんな話をしてるんじゃない。俺はどうして急にメイドカフェに行きたいなんて言い出したのか、理由を聞いているんだ。

 放課後の部活帰り。

 街灯も消えて太陽も沈み、すっかり暗くなった校門。その横で俺を待ち伏せしていた鴇ちゃんが、開口一番にメイドカフェに行きたいと言い出した。

 最近の女子高生の間ではメイドカフェが流行ってるのか。聞いたことないけど。

「で、なんでメイドカフェ?」

「いや……。あのですね……。この前テレビで見たんですけど……」

 鴇ちゃんが恥ずかしそうにもじもじしながら、俺を見てくる。

「あの、『萌え萌えキュン!』ってやつ、やってみたくて……」

「あー……、わかる。俺もそれ見たわ」

 メイドカフェではメイドさんが、直々にご飯が美味しくなるおまじないをかけてくれる。そんな特集が組まれているテレビ番組がこの前放送されていた。

 おまじないの方法は色々あるらしいけど、そこでやっていたのは、手でハートのマークを作り、可憐な笑顔と一緒に『萌え萌えキュン!』ってやるやつだ。

 あれは萌えた。

「ですよね! 先輩休日はどうせ暇でしょ!? 行きましょう!」

「部活だよ! 人を暇人みたいに言うな!」

「でも、午前中だけですよね? 私も午前中は部活なんで午後から行きましょう」

 目をキラキラ輝かせる鴇ちゃん。そんなに行きたいか、メイドカフェ。

「大体、なんで俺なんだよ。友達と行けばいいじゃねえか」

「は? 先輩に何言ってるんですか? 友達とメイドカフェなんて行くわけないでしょう」

「じゃあ俺はなんなんだよ」

「んー、と……。メイド仲間?」

 今までメイド好き名乗ったことすらねえよ

 いやまあ。人生で一度くらいは行ってみたいと思ってたけどね、メイドカフェ。

「じゃあ、そういうことで。土曜日の午後二時に駅前まで来てくださいね!」

「ちょ……。おい!」

 言いたいことを言って一方的に会話を終了させた鴇ちゃんは、止める間も無く校外へと走り去ってしまう。

 俺はその背中を黙って見送ることしかできなかった。

 って、よく考えたらこれってデートじゃないのか!?

 人生初デートの相手が後輩で、しかも場所はメイドカフェか……。

 どうせなら、吉永さんと行きたかったな……。

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